![]()
最終更新日:2007年9月3日
1.新長期排出ガス規制への適合技術内容
わが国のトラック・バスの全メーカは、新短期排出ガス規制 (2003〜2004年実施)対応時には全車種にインターク
ーラ付過給にクールドEGRを組み合わせる方法により規制への適合が図られている。燃料噴射装置に相違はある ものの全メーカにてほぼ同一の新短期排出ガス規制適合技術が採用された。
しかし、最近、各メーカから逐次、発売されている新長期排出ガス規制(NOx=2 g/kWh, PM=0.036 g/kWh, 2005年実
施)適合の大型トラック(積載量10トン超え)に採用されている排出ガス低減技術は、メーカ間で大きな相違が見ら れる。 ![]()
出典:日経Automotive Technology 2005年冬号
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/HONSHI_LEAF/20050816/107657/
日野自動車といすゞ自動車は、コモンレール式燃料噴射と大量クールドEGRによりNOxを削減し、このNOx削減に
より増加したパティキュレートをDPFにより捕集して新長期規制への適合を図っている。
一方、日産ディーゼル工業はジャーク式ユニットインジェクタによる超高圧の燃料噴射のにより
パティキュレートを大幅に削減し、この超高圧燃料噴射により増加したNOxを尿素SCR触媒により還元除去して新
長期規制への適合を図っている。(未発売の三菱ふそうトラックバスは大型トラックには尿素SCR触媒を採用予定と 発表)
以上のように、新長期排出ガス規制への適合手段は、メーカにより異なり、日野といすゞのクールドEGRとDPFを採
用したグループと日産ディーゼルと三菱ふそうのクールドEGRと尿素SCR触媒を採用したグループに分けられる。
2.DPFによるパティキュレート低減に求められる改良点
DPF(Diesel Particulate Filter)は、ディーゼルエンジンから排出されるパティキュレートをコージェライトや炭化珪素
を基材とした多孔質セラミックスから成るウォールフローモノリスのフィルタにより捕集してパティキュレートを低減す
る装置だ。
2−1.酸化触媒を担持していないフィルタの場合
フィルタ再生に酸化触媒を担持していないフィルタや酸化触媒を前置しないフィルタの場合、フィルタに捕集された
パティキュレートが例え微小量であっても数分間、フィルタの温度を600℃以上に維持できなければフィルタからパテ ィキュレートを燃焼させて除去することはできない。都市内走行時では排気温度を連続して600℃の高温状態を持 続できないため、走行距離が増すにしたがってフィルタにパティキュレートが堆積し、蓄積される。このような都市内 のみを走行し続けているとパティキュレートが過剰に堆積し、フィルタの目詰まりによるエンジン停止や、堆積したパ ティキュレートの異常燃焼してフィルタが溶損や割れを起こし、フィルタにパティキュレートが捕集されなくなって、DP Fはその機能を喪失してしまう恐れがある。
2−2.酸化触媒を担持しているフィルタの場合
一方、酸化触媒を担持したフィルタやフィルタの上流に酸化触媒を備えたフィルタの場合、フィルタの温度を捕集量
に見合った一定時間以上に連続して300℃程度以上に維持できれば、フィルタから一部のパティキュレートを酸化さ せて除去することができる。しかしこの酸化触媒を担持したフィルタやフィルタの上流に酸化触媒を備えた場合でも 実際の都市内走行時では排気温度を300℃程度以上に連続して高温状態を持続できないため、走行距離が増す にしたがってフィルタにパティキュレートが堆積し、蓄積される。特に酸化触媒を担持したフィルタではパティキュレー トに含まれるSOF(可溶性有機物)が酸化して除去されたカーボン主体のパティキュレートが捕集・堆積される傾向 がある。このような酸化触媒を備えたフィルタにカーボンのみのパティキュレートが残存した場合には、カーボン主 体のパティキュレートをフィルタから除去して再生させるためには、走行中にフィルタを600℃の高温状態に連続して 持続できる機能が必要となる。
2−3.フィルタに捕集・堆積したパティキュレートをフィルタから酸化し除去する方法
通常、ディーゼル自動車の都市内走行においては、加速時にはエンジンが高負荷運転では排気ガス温度は300℃
以上となるが、減速時や信号待ち停止時のアイドリング時には排気ガス温度は100℃前後に低下する。一般に都市 内走行では走行の全体に占めるアイドリング運転時間割合は、日常的に40%に達しているのが現状だ。
このような都市内の信号間の距離が短いディーゼル自動車の走行の場合、加速中には300℃程度以上の高温の
排気ガスがDPF装置に流入して触媒やフィルタを加熱できるが、数秒間の加速では触媒担体やフィルタ自体が大 きな熱容量を有しているために短時間の高温排気ガスの流入では触媒担体やフィルタの温度を600℃程度以上に 上昇させることはできない。また、加速後の減速中や加速時のトランスミッション切り替え中には100℃前後の低温 排気ガスがフィルタに流入して触媒担体やフィルタを冷却するため、都市内走行では触媒担体やフィルタの温度は ある程度の時間、持続して600℃程度以上に維持される機会が無い。そのため、都市内走行では酸化触媒を付加 したDPFでもフィルタの再生ができないのが現状だ。 ![]() ![]()
都市内走行時の排気ガス温度と フィルタでのパティキュレート堆積状況の相違
持続時間および出現頻度 (出典:三菱ふそう発表技術論文)
都市内走行では高温の排気温度が出現してもその持続時間が短いため、走行距離に比例してフィルタにパティキ
ュレートが堆積するフィルタの自己再生不能に陥ることが問題だ。また高速道路においてもトラックが空荷で走行す る場合も同様の問題を生じる恐れがある。そのため自動車用のDPFでは、すべての走行状態においてフィルタに捕 集されたパティキュレートがフィルタに過剰に堆積されないように酸化・燃焼等により除去できるようなフィルタの再 生機能を備えることが必須である。
ところで日野といすゞは新長期排出ガス規制適合の大型トラック・バスにDPFが採用されている。日野といすゞが採
用したDPFは、フィルターに一定量のパティキュレートが堆積した時点で「エンジンのエンジン回転数の上昇」、「吸 気絞りによる吸気量の削減」、「排気絞り弁の作動によるエンジン背圧の上昇」および「コモンレール噴射系による 膨張行程での燃料のポスト噴射」を駆使し、20分〜30分程度の間の連続して排気温度を600℃の高温に維持してフ ィルターに捕集したパティキュレートを燃やしてしてフィルタを強制的に再生する強制再生方式である。 ![]()
3.市販トラックに搭載されているDPF装置
下図のいすゞDPD(Diesel Particulate Defuser)と称する燃料付加して排気温度を高温維持制御してフィルタを強制
再生するDPFを示す。セラミックフィルターで捕集したPMを、電子制御式コモンレールシステムのきめ細かな燃料噴 射や、排気スロットルの採用などによる排気温度制御により、効率的に燃焼させ、フィルターを再生する後処理技 術である。フィルターの再生は走行中に自動的に行なわれるが、走行条件によっては、アイドリング状態でのフィル ターの手動再生(通常、運転手は「手焼き」と称す)が必要となる場合がある。 ![]()
同様に日野のDPRもコモンレールで燃料をポスト噴射してフィルタを強制再生するシステムだ。このシステムは、DP
Fのフィルタに或るレベルのPMが堆積した時点で排気ブレーキを作動させながらコモンレールでエンジンの膨張行 程の途中で燃料をポスト噴射して排気温度を上昇させ、フィルタに捕集したパティキュレートを燃焼させて除去させ るようにしたものである。燃料のポスト噴射は膨張行程の途中で噴射されるため、ポスト噴射の燃料の燃焼エネル ギーは、エンジン出力としてほとんど取り出せず、大部分のエネルギーが排気ガス温度を上昇させるためだけに使 われる。したがって、ポスト噴射を行なうフィルタの強制再生システムでは強制再生の作動中には燃料が浪費され ることになる。
4.現在の市販トラックに装着されているDPF装置の問題点
フィルタを再生するためにポスト噴射する方法が採用されているI社やH社のDPFシステムでは、フィルタの強制再
生中にはエンジン回転も上昇するため、外観上、「エンジンの空吹かし」をしてフィルタを再生ようにしているように見 えることが特徴だ。ディーゼル自動車は走行距離が増すのに比例して強制再生の回数も増加し、1回の強制再生 に20〜30分間の長い時間を要することから考え、市場では強制再生により多くの燃料が浪費されていると思われ る。また、強制再生による燃料の浪費は、CO2排出量を増加させるていることは明らかだ。このような「エンジンを空 吹かし」の様相を示すDPF強制再生システムは、省エネルギーとCO2低減のためにエンジンのアイドルストップが 奨励される時代にエンジンを空吹かしする燃料が浪費されるため、昨今の社会ニーズに反した技術であることは容 易に理解されるだろう。
ところで、「エンジン空吹かし」の様相を示すDPF強制再生方法を採るH社のDPRやI社のDPDが搭載されたトラック
の運転手等から、このシステムに対する不満や個人的な不具合対応策について、インターネットの掲示版に多くの 書き込みがあったので、それらを次の表にまとめた。
以上にような書き込みから推測すると、DPF強制再生システムが搭載されたトラックでは、大袈裟に言えば、運転
手は常に、DPF警告灯の点灯する恐怖に曝されて運転している様子が伺える。運転手にとっては甚だ迷惑な装置 に違いない。特に、「エンジン空吹かし」のDPF強制再生システムは、停車中のアイドリング時に強制再生システム が作動した場合には、エンジンは自動的に回転が上昇してゴーゴーと大きな音で唸り出すため、運転手が周りから の冷たい視線を浴びるとのことだ。昨今のアイドリングストップが声高に叫ばれる時代には、相応しくないシステム だ。そのため、運転手は常に注意を払いながら走行中に小まめに手動でDPF再生スイッチをONにして、適時、「エ ンジン空吹かし」のDPF強制再生システムを作動させる予防処置を講じている人もいる。しかし走行中の手動によ る再生操作も、燃料を浪費し、大気環境に負荷をかけていることには変わりは無い。燃料の浪費を抑えるため、早 急に「エンジン空吹かし」のDPF強制再生の回数を出来る限り少なくできる新たな技術の開発が必要だ。 ![]()
また、インターネットの掲示板に「アイドリングストップシステムが付いているとDPFの手焼き頻度が増えるよ。だって
エンジンスタート時に一番PMが出やすいんだから。」 との書き込みがあった。アイドリングストップシステム搭載のト ラックでは信号等で停車した時にはエンジンは自動的に停止され、発進時にエンジンが再始動される。この再始動 時にエンジンがスタータでクランキングされる時にはエンジンの回転数は低いため、コモンレールディーゼルでも燃 料噴射圧力は低い状態となる。その上、始動時には噴射した燃料を確実に着火させるため、燃料噴射量は増加さ せる必要がある。そしてエンジンが始動時した後、セルモータでの駆動を終了してアイドリングで自立した回転を始 めるまでの間は、エンジンは低圧噴射で燃料リッチ(低い空気過剰率)の運転となって不完全燃焼を起こすため、 PMが多く排出されることになる。このようにアイドリングストップシステムのトラックでは、アイドリングストップでエンジ ンの始動回数が増すのに比例してPMが多く排出されるため、頻繁にDPFの強制再生(手動によるDPF再生)が必 要になってくるものと考えられる。このように、アイドリングストップシステム搭載のトラックやバスでは、このシステム を搭載していないトラックやバスよりもDPFの強制再生のために浪費する燃料は増加しているものと考えられる。し たがって、DPFの強制再生システム搭載のトラックやバスでのアイドリングストップシステムの燃費改善効果は、旧 排出ガス規制適合のDPF強制再生システムを搭載しないトラックやバスに比較して大幅に劣っているものと推察さ れる。
ところで、このコモンレール噴射装置が誇るポスト噴射によるDPFの強制再生では、ポスト噴射された軽油噴霧がシ
リンダ内壁に付着してエンジンオイルに混入し、エンジンオイルを希釈させる欠陥があるようだ。2008年6月に三菱 ふそうが「ポスト噴射の軽油によるエンジンオイルの希釈問題のリコール」を発表した。このリコールの対策は制御 コンピューターを交換するとのこと。しかしながら、インターネットの掲示板では、三菱ふそうファイターについて「リコ ール対策のコンピュータやら交換したけどアカンやん。5000キロでアッパーまでオイル増えるじゃん! 。このトラック 廃車にするまでオイル交換タダか? (2008年10月07日)」との書き込みが見られることから、三菱ふそうでは未だ有 効なリコール対策が見出されていないようだ。
また、インターネットの掲示板では、「いすゞのDPF装置ではエンジンオイルに燃料が混ざる」とか「他のメーカも三菱
ふそうと同様な軽油によるエンジンオイル希釈の問題を抱えている」との書き込みも見られた。各社のポスト噴射で 強制再生するDPF装置でも軽油によるオイル希釈問題が発生しているとのことから、コモンレールが誇るポスト噴 射を用いたDPF強制再生の技術には、根本的な欠陥があるかもしれない。これが事実であれば、DPFの強制再生 制御のプログラム変更で簡単に軽油によるオイル希釈問題が解決することは難しいと予想される。制御プログラム の変更で多少の差はあったとしても、DPFの強制再生の頻度に比例してエンジンオイルの軽油希釈率が増加すると 考えられるため、今後、早急にポスト噴射を利用したDPFの強制再生の頻度が削減できる新しい技術の開発が必 要と考えられる。
一方、現在の排ガス試験法では始動の運転条件は含まれておらず、始動時の排出ガスの削減は不要だ。そのた
め、市販トラック・バスではエンジンの始動性の向上を優先させ、始動時のPMの排出が多くなっているものと予想さ れる。(現在、国土交通省ではコールドスタートを含む排ガス試験法に改訂することが検討されている模様)
さて、2007年9月現在、各社は新長期規制(2005年規制)への適合を完了しており、それを見ると中型トラック(積載
量4トンクラス)と小型トラック(積載量2トンクラス)には全てのメーカーで強制再生の必要なDPFシステムが採用さ れている。これらトラックの中でも都市内走行の多い小型トラックの燃費について、インターネットの掲示板には次の ような書き込みが見られた。
以上の書き込みによると、新長期排出ガス規制適合の小型トラックの燃費は、積載量の多い中型トラック(新長期
規制より前の排出ガス規制に適合したもの)の燃費レベルまで悪化しているとのことである。もしこれが事実とすれ ば、小型トラックでは新長期規制に適合させるために、30%前後も燃費を悪化させてしまっていることになる。その 原因の一つとしては、DPF強制再生システムを装着したトラックやバスが都市内走行に使われた場合、DPFの強 制再生の頻度が増加し、強制再生に消費する燃料軽油が増加しているものと考えられる。
新長期規制に適合した各社の小型トラックの燃費が一様に悪化していることについて、各メーカーは共にコスト優先
で燃費悪化を無視した『赤信号!みんなで渡れば怖くない』との考えで対応したのか、若しくは『燃費を犠牲にしない で排出ガス対策ができる技術』を持っていないのか、或いは他の理由があるのかは不明である。何れにしても軽油 価格が高騰している現在、主に都市内を走行するディーゼルトラック・バスのユーザーにとって、燃費悪化は甚だ迷 惑な話である。新長期規制によりNOxとPMが削減されている点は良いが、しかし、燃費を大幅に悪化させてしまっ ているとすれば、今後、新長期規制適合のトラックの販売累積台数に比例して軽油の浪費が増加し、地球温暖化 の原因の一つと云われている二酸化炭素(CO2)も大きく増やしていくことになる。
ところで、DPFが装着された新長期規制適合トラック・バスが都市内走行に多用された場合、DPFが装着されていな
い旧型のトラック・バスに比べてDPFの強制再生により燃費が悪化し、CO2の排出が増加しているような現状である にもかかわらず、トラックメーカーの各社の新長期規制適合トラックのカタログには、以下のような宣伝文句が誇ら しげに記載されている。
「エコロジーと美しく調和する未来志向型の・・・・」 (三菱ふそう)
「環境と安全のフロントランナー日野」 (日野自動車)
「環境基準の先を行く」 (いすゞ自動車)
「世界最高水準の環境性能を持つ・・・・」 (日産ディーゼル)
各社のカタログによると、素晴らしい環境性能のトラックが市販されているとのこと。しかし、インターネットの掲示板
には『アイドリングストップの配送先多いんで、困るよ。 新長期だと言いつつも、(DPFを強制再生する)燃焼装置付 きで何倍も軽油たいてりゃ一緒じゃないか。』との運転手からの怒りの書き込みが見られた。各トラックメーカーに対 し、ユーザーは新長期規制適合のトラックの燃費悪化の早急な改善を強く望んでいるようだ。因みに2007年11月13 日放送のテレビ東京「ガイアの夜明け」と云う番組の最後に『客のクレームはビジネスチャンス。宝の山と言えるか も知れません。』とのコメントがあった。ユーザーの強い燃費悪化に対する不満を解消することは、環境毀損を回復 する社会的責任の遂行と共に、企業発展の絶好の機会と考えられる。今後、トラックメーカーの一層の奮起が望ま れるところだ。
ところで、新長期規制に適合したアイドリングストップシステム搭載のトラックやバスには省エネルギーおよび低CO2
に貢献するとの立場から、新車の購入時に補助金が支給されている。メーカーや国土交通省または環境省では、 都市内走行でアイドリングストップシステムが頻繁に作動する場合でのDPF強制再生システムを搭載した新長期規 制適合の小型トラックや都市バスについて、走行燃費の実態調査が行われているのであろうか。既に、この走行燃 費のデータが得られているのであれば、調査結果を公表して欲しいものだ。アイドリングストップシステムでのエンジ ン始動回数の増加はPMの排出量を増やすと予想されるため、頻繁にDPFが強制再生して燃料消費が増加するこ とは明らかだ。DPF強制再生システムを搭載した新長期規制適合の小型トラックについて、DPF強制再生システム を使用しない旧排出ガス規制でのアイドリングストップシステムと同等の燃費改善の効果が確認されていないとすれ ば、新長期規制適合の小型トラックを対象としたアイドリングストップシステムへの補助金の支給は問題があると思 われる。
さて、PMは、今後、新長期規制(2005年規制)の0.027g/kWhからポスト新長期規制(2009年規制)の0.01g/kWhまで
更に削減することが必要だ。現在の新長期規制適合車においてもDPF搭載車ではトラックに使用条件によっては 運転手の不満が更に高まることが予想される。今後のポスト新長期規制に適合できるレベルまでにPMを削減する には、燃焼改善のみで実現することは難しい。そこで、DPFには捕集率の高いフィルタを用いる必要があると考えら れる。その場合、PMの捕集量が増加するためにフィルタの強制再生回数が増加し、フィルタを再生するために浪 費される燃料が更に増加していくことは間違いない。この時、現行と同じDPF再生システムを踏襲した場合には、運 転手はDPFの再生のために更に多くのメンテナンス作業を行わなければならなくなり、運転手には不満が高まるこ とが予想される。今後、このような運転手への作業負担を軽減していくためには、ポスト新長期規制適合技術とし ては、「エンジン空吹かし」のDPF強制再生の回数を出来る限り少なくして燃料浪費を抑え、軽油によるエン ジンオイルの希釈を少なくし、且つDPF警告灯が頻繁に点灯しないような新たなDPF再生技術の開発が強く 望まれるところである。
以上のような現行のDPF装置が抱ている「燃費悪化問題」、「ポスト噴射の軽油によるエンジンオイルの希釈問題」
および「運転手によるDPF再生に関する多大な作業負担」については早急に解決する必要がある。そこで、現行の DPF装置の再生方法に関する改良案を考えたので、それらをポスト新長期排出ガス規制適合の「アイデア」および 燃費悪化のポスト噴射を止め、気筒休止でDPFを再生する新技術纏めた。
5.尿素SCR触媒によるNOx低減に求められる改良点
日産ディーゼルは新長期排出ガス規制適合のトラック・バスに尿素SCR触媒を採用した。尿素SCR触媒は、 尿素と
水を 1 : 2 の割合で含む「AdBlue」と呼ばれる尿素水溶液(CO(NH2) 2+H2O)を還元剤として使用し、エンジンから排 出されるNOxから酸素を取り除き、窒素に戻して排出ガスをクリーン化するものだ。酸化触媒を経て SCR 触媒コン バータに入る直前に、この還元剤を圧縮空気とともに噴射し、最初の排出ガスに混合させてアンモニア(NH3)に変 化させる。次の段階、すなわちSCR 触媒コンバータ内で、排出ガス中の NOx はアンモニアと結びつき、水(H2O)と 無害な窒素(N2)に分解され、無害化されるものである。「AdBlue」はおよそ3回の給油につき1回の補給が必要とさ れているようだ。(AdBlueの消費量は大型トラックで80km/リットル程度?) ![]()
尿素SCR触媒の大きな問題は、触媒温度が200℃程度以下では触媒の活性が低くなり、NOx削減率が大きく低下
することである。そのため、新長期規制適合の日産ディーゼルの尿素SCR触媒システムでは触媒の活性温度以下 では尿素水添加を行わない制御を行っているようだ。NOx規制が更に厳しいポスト新長期規制では広い運転領 域での尿素SCR触媒の活性化によるNOx低減を図る必要がある。そのためには、従来のディーゼルトラック・ バスの都市内走行などの排気ガス温度が200℃程度以下のエンジン運転領域において、燃費を悪化させな いで排気温度を200℃程度以上に上昇させるアイデアが必要だ。
6.クールドEGRによるNOx低減に求められる改良点
現在、わが国で市販されているディーゼル新型トラック・バスは、新短期排出ガス規制のパティキュレート規制に適
合するため、トラック・バスのエンジンは全てインタークーラ付ターボ過給エンジンとなり、無過給エンジン仕様は国 内で販売されていない。メーカ各社は共に新短期排出ガス規制よりNOx規制の厳しい新長期排出ガス規制に適合 させるため、ターボ過給エンジンのクールドERGを行っている。
ところで、無過給エンジンの場合には全てのエンジン運転状態において排気圧力は常に吸気圧力より高いために
EGRガスは吸気に還流され、全運転領域でのEGRが可能だ。
一方、ターボ過給エンジンの場合には通常、最大トルクを出力するエンジン運転状態においてターボ過給機が高い
過給効率で作動するため、給気圧力が排気圧力より高くなり、ポンピング損失がマイナス仕事、つまりターボ過給 がエンジンを駆動する状態となり、エンジンの燃費(熱効率)が良くなる特性を有している。このような給気圧力が排 気圧力より高いエンジン運転状態ではEGRガスは給気管に還流されない状態となる。このように、従来のターボ過 給エンジンでは最大トルクを出力するエンジン運転状態ではEGRが不能となり、NOxが低減できない運転領域が存 在する。 ![]()
このように、一般的にはターボ過給エンジンは無過給エンジンよりもEGRによるNOx低減が難しいと云える。ただ
し、ターボ過給エンジンのEGR不能な運転領域でもターボ効率を悪化させるようにターボ仕様の選択またはVGター ボの制御を行えばEGRは可能となる。しかし、エンジン燃費が悪化するため、ターボ過給ディーゼルエンジンが本 来、持っている低燃費の特長が大きく失われることになる。したがって、ターボ過給機効率を大きく悪化させてEGR を可能にする手段を採ることは回避すべきだ。
今後、NOx規制が更に厳しくなるポスト新長期規制では、尿素SCR触媒によるNOx低減に必要な尿素水の消
費を抑えるために、広い運転領域での必要なEGR率を確保できるようにしてEGRによる十分なNOx低減が できるようにする必要がある。 そのためには、従来のターボ過給ディーゼルエンジンのEGRが不能であった 運転領域でも高いEGR率が実現できるアイデアが求められている。このようなEGRの問題解決のため、ターボ 過給ディーゼルエンジンのEGRの改良案を考えたので、それらをポスト新長期排出ガス規制適合の「アイデア」に纏 めた。また、新長期規制(H17年)適合の小型ディーゼルトラックに搭載されているポスト噴射式DPF装置のフィルタ 再生に多量の燃料が浪費されている問題を解消する方法については、燃費悪化のポスト噴射を止め、気筒休止で DPFを再生する新技術に纏めた。そして都市間走行の大型トラックの燃費改善方法については、気筒休止エンジン による大型トラックの低燃費化や気筒休止ディーゼルは、何故、大幅な燃費改善が可能か?に纏めた。興味のあ る方は、是非ともご覧いただきたい。
以上のように、筆者自身の乏しい知識を省みず、不遜にも各社の新長期排出ガス規制適合トラックに採用されてい
る排出ガス低減技術の問題点を摘出させて頂きました。上記本文中で誤り等がございましたら、メール等にてご指 摘下さいませ。
また、疑問点、ご質問、御感想等、どのような事柄でも結構です。閑居人宛てにメールをお送りいただければ、出来
る範囲で対応させていただきます。m(__)m
![]() |