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最終更新日:2008年10月12日

ポスト新長期排出ガス規制適合の「アイデア」




新長期排出ガス規制(2005年規制)適合のトラック・バスは既に市販されているが、それら大型トラック・バスに採用
されている各社の排出ガス低減技術の概要は以下の通り。 

メ ー カ 名  
排 出 ガ ス 対 策 技 術
日野&いすゞ
ターボ過給エンジン+クールドEGR+DPF
日産ディーゼル&三菱ふそう
ターボ過給エンジン+(※クールドEGR)+尿素SCR触媒
(※印:日デのエンジンでは不採用)  

新長期排出ガス規制への適合手段は、メーカにより大きく異なっており、「DPF」または「尿素SCR触媒」の何れか
を 採用していることが特徴だ。 

1.現行(新長期規制に採用)のDPFと尿素SCR触媒の問題点

一般にディーゼルトラック・バスが都市内で運行される時には、低速走行のためエンジン出力が低い上に、走行と
停止が繰り返されることになる。そのため、排気温度が連続して高温に維持されることは無い。このような走行状態
では、各社の新長期排出ガス規制(2005年規制)に適合したディーゼルトラック・バスに採用されている「DPF装置」
や「尿素SCR触媒」では、排気温度が連続して高温に維持されないために多くの問題が発生することになる。

実際、各社の新長期排出ガス規制(2005年)対応技術に詳述したように、インターネットの掲示板では、現行のトラ
ックに装着された「DPF装置」に対し、日常業務で新長期規制適合のトラックを使用している運転手から多くの問題
が指摘されている。現行の「DPF装置」や「尿素SCR触媒」は、数々の問題を抱えているにもかかわらず、新長期排

ガス規制に適合できる他の技術が見当たらないため、仕方なく採用されているのが現状のようだ。次の表には、現
行の「DPF装置」や「尿素SCR触媒」における問題点と、その問題を解決するための改善のポイントについて、簡単
にまとめた。特に、現行の「DPF装置」では、都市内走行が多い場合には頻繁に手動再生が必要となることや軽油
によるオイルの希釈問題が発生する等、各メーカーとも故障多発の問題を抱えているようだ。何は差し置いても、ト
ラックメーカー自身のクレーム費用削減と運転手の不満解消にために、「DPF装置」の欠陥とも考えられる問題を早
期に解決する技術を開発することが急務であろう。 

項 目 問 題 点 と 必 要 な 改 善 内 容  

項 目
現 状 対 策   (今後の必要改善内容を含む)
DPF
(大型では日野&いすゞ が採用)

【コモンレール式エンジンの問題点】
  PF装置を搭載したコモンレール噴射装置のディーゼルトラック・バスでは、都市内の走行では排
気ガス温度が低いため、DPFのフィルタは自己再生が不能となる。連続して都市内を走行した場
合にはフィルタにパティキュレートが堆積するため、全ての国産トラックメーカーのDPF装置ではコモ
ンレールで燃焼室に燃料をポスト噴射して排気ガス温度を600℃程度に高温化してフィルタを強制
再生しているのが現状だ。(エンジンを軽油バーナーの代替として運転し、ポスト噴射で排気温度
を上昇させてフィルタに堆積したパティキュレートを燃焼させるフィルタ再生の方法が採用されてい
る。都市内走行では排気ガス温度が低いため頻繁なDPFの強制再生が必要となり、燃費を悪化さ
せる要因となる。

 また、このコモンレール噴射装置でポスト噴射によるDPF強制再生の運転条件によっては、ポス
ト噴射された軽油噴霧がシリンダ内壁に付着してエンジンオイルに混入し、エンジンオイルを希釈
させる場合がある。2008年6月に三菱ふそうが「ポスト噴射の軽油によるオイルの希釈問題でリコ
ール」を発表した。このリコールについては、対策部品の制御コンピューターに交換してもオイルの
軽油希釈が改善されないとのインターネットの掲示板の書き込み (2008年10月07日)があること
から、三菱ふそうでは未だ有効なリコール対策が見出されていないようだ。インターネットの掲示板
では、他のトラックメーカーでも軽油によるオイルの希釈問題を抱えているとの書き込みから見る
と、コモンレールが誇るポスト噴射を用いたDPF強制再生の技術には、根本的な欠陥があるかもし
れない。

【早急に改善が必要なポイント】
 コモンレールのポスト噴射は、DPF強制再生用の燃料噴射であり、自動車を駆動する力に変換さ
れない。燃料浪費の原因となっているため、燃費改善の面から、ポスト噴射が必要なエンジン運
転が大幅に削減できるように改善する必要がある。
また、ポスト噴射の軽油によるエンジンオイルの希釈を少なくしてエンジンオイルの粘度低下によ
る潤滑性能の劣化を抑制するためにも、至急、ポスト噴射を利用したDPFの強制再生の頻度が削
減できる新しい技術の実用化が必要である。
 
尿素SCR触媒
(大型では日産ディーゼル&三菱
ふそうが採用

【現状の問題点】
 エンジン負荷の低い運転状態では排気ガス温度が低くなるため、SCR触媒でのNOx低減が不
能となる。そのような運転状態では、尿素SCR触媒によるNOx低減機能を停止しなければならな
い。

【早急に改善が必要とされている点】
  尿素SCR触媒による更なるNOx低減を可能にするためには、エンジンの低負荷運転において、
排気ガス温度の高温化を図る必要がある。


参考として、ボルボのDPFを搭載したジャーク式ユニットインジェクタ付き過給ディーゼル・D13Bエンジにおいて、タ
ービンの排気ガス出口の排気管内にDPF強制再生用の燃料を噴射してDPFを強制再生する方法が採用されてい
るので、それを以下に示す。この排気管内に燃料を噴射してDPFを強制再生する方法は、欧米のトラックに多く採
用されているようである。その理由は、この排気管内に燃料を噴射するDPF強制再生方法では、コモンレールのポ
スト噴射で生じるDPF強制再生時の軽油によるエンジンオイルの希釈が無いためではないかと推測される。 



出典 : http://www.ei-net.co.jp/1_2652_2009_Powerline.pdf='ボルボ D13B DPF' 


2.今後の排出ガス規制強化のために研究されている新技術

ところで、NOxとパティキュレート規制が更に厳しくなるポスト新長期排出ガス規制(2009年規制)とそれに続くNO削
減の規制強化に対応するため、トラックメーカーや研究機関等では新しい技術の開発に積極的に取り組んでいると
ころだ。その中で最も注目を集めているのが圧縮行程で軽油の予混合気を圧縮して着火させるHCCI
(Homogeneous Charge Compression Ignition)技術だ。このHCCI技術については、既に数多くの研究論文が発表さ
れており、NOxおよびパティキュレートが格段に削減できる最も優れた新技術と云われている。 

しかし、現在のところ、このHCCI技術は、常に高い空気過剰率の状態しか運転できないため、エンジンの低負荷運
転領域でNOxやパティキュレートが削減できる手段にすぎない。一方、ディーゼル自動車が実際に使用される環境
は、地域や季節で大きく変動する大気温度や燃料品質(特に軽油セタン価)のバラツキの影響下に曝されているの
が現状だ。そのため、HCCIでは狙いとなる軽油の自己着火の制御が難しく、近い将来、この新技術を実用化する
ことは難しいと考える人も多い。 

また、既に公表されている資料によると、今後の排出ガス規制適合に有用な技術として以下の新しい技術が提案
さ 
れている。しかし、各技術のコストとその効果を考えれば、実用性については疑問な点が多い。  

項 目
技 術 内 容
効 果 と 問 題 点
備 考
ターボコンパウンド
 新たに排気ガスのエ
ネルギーを回収する回
収タービンを付加し、
回収したエネルギーを
エンジン動力として取
り出す装置
 回収タービンの入口の排気ガスは低温・低圧であるため、排気
ガスのエネルギーのポテンシャルが低い。そのため排気ガスの
体積流量が多く、回収タービンは大型化が必要となる。その結
果コストが高く、且つ車両搭載も容易なことではない。また、燃費
改善は、高負荷時に限定される上に、その効果は0〜1.5%程度
の改善に過ぎない。この技術は筒内最大圧力出力を増加する手
段である。燃費改善の面から見れば、コストパーフォーマンスの
低い技術と云える。
ルボ、デトロイトディー
ゼルの大型トラック用
エンジンに採用され
ている。
二段過給化
 2台のターボ過給機
を直列に配置して二段
階で過給するシステ
 現行の過給機を用いた場合でも広いエンジン負荷領域で高い
過給機効率の過給が可能となる高過給型の二段過給方式は、
中高負荷時に数パーセントの燃費改善が見込まれる。しかしこ
の効果を得るためには、2台の過給機が同時に高効率で運転で
きるまで給気の過給圧を上げる必要があり、その場合の圧力比
は3〜4に達すると思われる。その時のエンジンの正味平均有圧
Pmeは3.5MPa程度まで高くなると考えられるため、これを実用
化するためには、エンジンは未曾有の超高圧の筒内圧に耐える
ような剛性を確保する技術や、また新たな潤滑の技術も開発す
る必要がある。

 また、燃焼温度も著しく上昇するため、エンジン冷却についても
技術開発を行う必要があると考えられる。
仮に、この高過給型の二段過給方式の技術が実現できたとして
も、エンジンは小排気量とはなるが大幅なコストアップとなり、且
つ従来のターボエンジンよりも更にエンジン過渡運転時の出力
応答の遅れを生じる可能性もある。そのため、高過給圧の二段
過給方式は、当面、トラック用として実用化するのは難しい技術
と推測される。

 一方、エンジンの中高速の回転速度では過給圧を余り増加さ
せずに低い回転速度で過給圧を上げ、エンジンの筒内最大圧
力、最大トルクおよび最高出力を従来のエンジンより多少の増大
に押さえると共に、低回転時のトルクを大幅に増加させる低速ト
ルク増加型の二段過給方式がある。この低速トルク増加型の二
段過給方式は、米国のインターナショナルのエンジン
MaxxForce5、11、13の3機種に採用されている。この方式で
は、トラックの運転性を大幅に向上できるメリットがあり、走行中
に低速ギア比の使用頻度の増加による多少の走行燃費の改善
は可能であるが、二段過給によるエンジン自体の著しい燃費改
善の効果は得られない。
 燃費削減効果の高
い高過給型の二段過
給方式による燃費改
善を図ったトラック用
エンジンで実用化さ
れた例は、今のところ
見当たらない。

 しかし、燃費削減効
果は低いが、エンジ
ンの低速トルクの増
大によるトラックの加
速性等の走行性が向
上できる低速トルク増
加型の二段過給エン
ジンが米国で実用化
されている。
EGR
(過給エンジン)
 後処理触媒後のガ
スをターボの上流(過
給機のコンプレッサの
入口)に還流するLow
Pressure Loop (LPL)
EGR
 LPLの EGRは,過渡運転時に応答遅れを伴うが,低温かつ大
量のEGRが可能である.また,全てのガスがタービンを通過する
ため,排気エネルギーの回収,過給圧の増加が可能となる.
しかし、後処理触媒後の排気ガスであるEGRガスには軽油中の
水素の燃焼で生じた大量のHO(水分)が含まれている。コンプ
レッサの入口に還流した水分を多く含むEGRガスは過給機のコ
ンプレッサで高圧され、Air to Airインタークーラで50℃程度の温
度以下に冷却される。その場合にはインタークーラの内壁面に水
分が露結する問題が生じると考えられる。

 特に、冬季では気温が低下するため、EGRガスの混入した高
圧給気はAir to Airインタークーラで20〜30℃程度まで冷却され
る場合がある。このような時にエンジンに大量のEGRガスを還流
する運転が行われた場合には、筆者の妄想かもしれないが、
Air to Airインタークーラ内では大量の水分が露結し、この露結し
た水分がAir to Air インタークーラを詰まらせたり、シリンダ内に
多量の水分が吸入されてエンジンオイルに混入する危険が考え
られる。LPLの EGRを実用に供する場合には、Air to Airインター
クーラの出口に高性能な水滴除去装置の装着が必要ではない
かと考えている。
LPLの EGRを実用化 するためには、高性 能なAir to Airインタ ークーラの出口に水 滴期除去装置が必要 では?
カムレスシステム
 気弁及び排気弁を油
圧または電磁力で作
動させるシステム
  油圧駆動等で吸気弁と排気弁をリフトさせ吸気弁と排気弁て
開口時間面積が増加できるカムレスシステムでは、エンジンの
ポンピング損失の削減による燃費低減が可能なる。また吸気弁
の早閉じ又は遅閉じにより相対的に膨張行程を長くするミラーサ
イクルにより理論的に燃費低減を図ることが可能である。そこ
で、最近の舶用エンジンでは油圧等で吸気弁と排気弁を駆動す
るカムレスシステムを採用し、ディーゼルエンジンで吸気弁の早
閉じ又は遅閉じにより相対的に膨張行程を長くしてミラーサイク
ルで運転する機構が採用され、部分負荷時の燃費低減が図ら
れている。

 このカムレスシステムは、容易に部分負荷時にミラーサイクル
として運転し、燃費低減を可能にする以外にも、制御の切換で簡
単にエンジンの逆回転が可能なため、逆回転の必要な船舶用デ
ィーゼルで実用化されている。このように、舶用ディーゼルエンジ
ンでは、カムレスシステムは、燃費改善と低コストの逆転装置と
しての機能が発揮できるために実用化されているようだ。なお、
中速の舶用ディーゼルエンジンによるミラーサイクルの燃費改善
は2%程度(出典 http://niigata-power.com/whats_new/
080924_AHX.html)に留まっているのが現状のようである。

 さて、ボッシュをはじめ数社の部品メーカーは、トラック用エンジ
ンの油圧駆動で吸気弁と排気弁をリフトし、燃焼室へ吸・排気を
行うカムレスシステムを開発しており、将来的にトラックメーカー
等への部品供給を狙っているようだ。また、いすゞ自動車、日野
自動車などの大型トラックメーカーも独自にカムレスエンジンの研
究を始めているとのことである。このカムレスエンジンの良いとこ
ろは、吸気弁と排気弁の開口面積を増大させてポンピング損失
を削減して燃費改善することや、吸気弁の弁閉時期を制御したミ
ラーサイクル運転を行わせることによって部分負荷の燃費を改善
することができることである。

 しかしながら、トラック用の高速ディーゼルエンジンにこのカムレ
スシステムを採用した場合には、ポンピング損失の削減のよる
僅かな燃費改善とミラーサイクルによる2%程度の燃費改善を合
計した燃費の改善量が、油圧で作動させるカムレスシステムで
の弁駆動損失による燃費悪化を補っても余りある十分な燃費の
改善が獲得できるかどうかについて、現在、研究されているとこ
ろである。また、カムレスシステムを用いたミラーサイクルによっ
て有効圧縮比の可変化できることを利用して予混合ディーゼル
燃焼領域を拡大する研究も行われている。しかし、ベースとなる
予混合ディーゼル燃焼は不安定な燃焼であるために実用性その
ものが危ぶまれている技術である。仮にカムレスシステムが予
混合ディーゼル燃焼の領域拡大に何らかの効果があったとして
も、予混合ディーゼル燃焼の技術が実用性の乏しいことを考えれ
ば、カムレスシステムが予混合ディーゼル燃焼に有効なことはカ
ムレスシステムの早期実用化の根拠と考えるのは早計である。

 また、カムレスシステムは、電子制御装置(ECU)からの信号
で制御する油圧で吸気弁と排気弁をリフトさせる構造である。こ
のカムレスシステムの問題は、信号の誤作動を起こした場合に
は弁とピストンが衝突してしまう危険があることだ。仮にエンジン
の高速運転でカムレスシステムが誤作動を起こし、弁とピストン
の衝突して弁傘が折れてシリンダ内に脱落した場合には、瞬時
にエンジン本体に壊滅的な打撃を被ってしまうことになる。したが
って、カムレスシステムの電子制御装置には二重、三重の安全
回路を設ける必要があるが、大型舶用エンジンでは二重、三重
は言うに及ばず、四重、五重の安全回路を設けたとしても、ベー
スエンジンが極めて高価なためにエンジンコストの増加が問題に
なることは無いと考えられる。大型舶用エンジンのカムレスシス
テムでは、逆転用のカムシャフトが不要となるため、コスト増加が
無いかもしれない。しかし、安価なトラック用ディーゼルエンジン
の場合には、カムレスシステムの電子制御装置に二重、三重の
安全回路を設けることはコスト増加の面で厳しいものがあると考
えられる。

 何れにしろ、各社のカムレスシステム研究開発が進展すれ
ば、今後、カムレスシステムの「コストアップの程度」や「有意な
燃費改善の有無」が明らかとなり、「コストパーフォーマンス」の
面からトラック用として実用化ができるかどうかが判断される技
術である
 カムレスシステムは
制御の切換で簡単に
エンジンの逆回転が
可能なことと、部分負
荷時にミラーサイクル
運転による燃費低減
が可能なことから、船
舶用ディーゼルで既
に実用化されてい
る。

以上の新しい技術は、この数年以内に実用化し、それらを市販トラックのエンジンに採用していくことは極めて難し
いと考えるのが妥当だ。 

現在のところ、2009年に施行が予定されているポスト新長期排出ガス規制とそれに続くNO規制強化に対応するた
めには、DPFと尿素SCR触媒を併用するのに加え、EGR率の更なる増大を図る方法が採用されるのではないかと
云われている。 

さて、下図は、日本の排出ガス試験法(JE05)、欧州の試験法(ETC)および米国の試験法(FTP)のそれぞれの試
験中のエンジン負荷と回転速度の分布を示したものである。欧州の試験法(ETC)や米国の試験法(FTP)に比べ、
日本の試験法(JE05)でのエンジン負荷はかなり低いことは明らかだ。一般に吸気絞り弁を持たないディーゼルで
はエンジン負荷率と排気ガス温度がほぼ比例する関係にあるため、エンジン負荷率が低くなるに従って排気ガス温
度が低温になる特性を持っている。米国(FTP)や欧州(ETC)に比べて日本の試験法(JE05)では負荷率の低いエ
ンジン運転状態が極めて多いため、排気ガス温度が低温となる運転条件の多いことが特徴だ。 



出典 NEDO「革新的次世代低公害車総合技術開発」(中間評価)分科会資料6-8
    [革新的後処理システムに研究開発](公開用)平成18 年5月29日
    (日産ディーゼル&早稲田大学) 

一方、下図に示したように、尿素水を用いて尿素SCR触媒によりNOxを除去する場合、現在の技術では尿素SCR
触媒の入口の排気ガス温度が180℃以下ではNOx低減率が著しく低下してしまう欠点がある。負荷率が40%以下
のエンジン運転状態が極めて多い日本の試験法(JE05)では、排出ガス試験に占める排気ガス温度の低いエンジ
ン運転領域が極めて多いため、尿素SCR触媒によって或るレベル以下にNOxを低減すること容易ではないと考えら
れる。現在、排気ガス温度が低い場合でもNOx低減率を高くするために尿素SCR触媒の改良の努力が行われてい
るが、今後、短期間に十分な触媒改良の成果を上げることは極めて難しいと考えられる。ポスト新長期やその後の
排出ガス規制強化に適合するために尿素SCR触媒で十分なNOx低減を図って行くためには、エンジン負荷率が40
〜50%以下のエンジン運転状態において、排気ガス温度を高温化できる新たな技術の実現が強く望まれていると
ころだ。 



出典 NEDO「革新的次世代低公害車総合技術開発」(中間評価)分科会資料6-7
    [革新的後処理システムに研究開発](公開用)平成18 年5月29日
    (日野自動車)

3.ポスト新長期規制以降の排出ガス規制適合に有効な技術の提案 

また、ポスト新長期規制(2009年規制)とそれに続くNO規制強化への対応では、現行の新長期規制(2005年規制)
レベルよりも更にNOxおよびPM(パティキュレート)を大幅に低減することは当然のことであるが、2015年からの燃
費規制の導入や最近の軽油価格高騰の影響から、今後、ユーザから今まで以上に燃費などの運行費の削減が強
く求められることは必至だ。このユーザ要求を満足させる大型トラック・バスを実現するためには、以下の点に焦点
を当てた技術開発が必要なことは明らかだ。 

@排気ガスの低温時(=部分負荷時)における尿素SCRシステムのNOx低減機能の向上 
A尿素水の消費量削減のために、高負荷時を含めた大量EGRを可能にする技術の実現 
B燃料の浪費を削減するために、DPF強制再生の回数が削減できる技術の実現 
C従来からのディーゼルトラックの最重要課題であるエンジン燃費低減の更なるレベルアップ 

そこで、「閑居人」は、上記@〜Cの技術的ニーズを実現する一助になればと思い、現行の「DPF」と「尿素SCR触
媒」の問題点の改良や、「ターボ過給エンジンでのEGRの大量化」を可能にするポスト新長期排出ガス規制とそれに
続く規制強化に対応するためのアイデアを考え、3件の特許を出願したので以下に紹介する。 

技 術 
項 目
現行技術の改良すべき点
現行技術を改良する出願特許
DPF
国内のトラックには、コモンレール噴射装置のポスト噴
射で再生するポスト噴射式DPF装置が採用されている。
このDPF装置は都市内走行等のような排気温度の低
い走行状態ではフィルタが自己再生しないため、一定量
のPMがフィルタに堆積した時にコモンレールでポスト噴
射して排出ガスを高温化してフィルタを再生する方法が
用いられている。
さて、小型ディーゼルトラックは、都市内で宅配便や生
協・商店の配送等の貨物の集配業務に使われているの
が多い。この集配業務の小型ディーゼルトラックは、1
日のほとんど全ての走行地域が人口の密集した住宅や
商店街であり、信号や交差点での停止・発進や渋滞に
よる減速・加速運転が多く、また戸別の配達毎に行わ
れるエンジンの停止と再始動の頻度が多いことが特徴
である。このように、人口密集地域の集配業務では、短
距離での発進・停止や加速・減速、およびエンジンの停
止・再始動の際にPMが多量に排出される一方、このよ
うな走行状態ではDPFのフィルタに堆積されたPMが酸
化・除去できる600℃の高温に維持できないため、DPF
のフィルタにはPMが堆積し続けることになる。新長期
規制(H17年)適合の小型ディーゼルトラックに搭載され
ているポスト噴射式DPF装置では頻繁にポスト噴射でフ
ィルタを再生しているため、走行中に膨大な燃料が浪費
されることになる。その結果、ポスト噴射式DPF装置搭
載の新長期規制(H17年)適合の小型ディーゼルトラック
では人口密集地域で運行した場合の実走行燃費が5〜
6 q/リットル程度とのことであり、以前の規制である
新短期規制(H15年)の適合した小型ディーゼルトラック
の7〜8 q/リットル程度に比べて30%前後も燃費が
悪化しているとのことである。このように国内のトラック
に採用されているポスト噴射式DPF装置は走行燃費を
著しく悪化させていることから、ポスト噴射を用いないで
燃料を浪費しないような新たなDPF装置の再生技術に
開発が望まれている。これについては燃費悪化のポスト
噴射を止め、気筒休止でDPFを再生する新技術に詳述
しているのでご覧いただきたい。

一方、ジャーク式ユニットインジェクタ噴射装置のDPF付
きエンジンではタービンの排気ガス出口の排気管内に
DPF強制再生用の燃料を噴射してDPFを強制再生する
方法を採用し、DPFを搭載たジャーク式ユニットインジェ
クタ付のエンジンが実用化されている。このDPFシステ
ムに対しても、都市内走行などのエンジン運転領域での
排気温度の高温化を図り、強制再生の回数を削減し、
強制再生時の排気管内への燃料噴射による燃費悪化
およびCO排出の増大を削減する新たな技術の開発が
必要である。
 
気筒休止エンジン
(特許公開2005-54771)
 「気筒群個別制御エンジン」
 ・都市内走行時のような部分負荷時
に排気温度上昇によるDPF自己再生
の運転領域拡大が可能である。

 後処理制御システム
(特許公開2005-69238)
 「エンジンの排出ガス浄化システム」
・排出ガス後処理装置の高温維持に
よるDPF自己再生の運転領域拡大が
可能である。
尿素
SCR
触媒
尿素SCR触媒の触媒温度が一定レベル以下では活性
化しない。(現行のN社の尿素SCR触媒システムでは触
媒の活性温度以下では尿素水添加を行わず、NOx低
減機能を停止している模様)

今後、更なるNOx低減を図るためには、低速走行や都
市内走行などのエンジン運転領域の排気温度の高温
化を図り、尿素水噴射を停止して尿素SCR触媒によるN
Ox低減機能を停止させるエンジン運転領域を減少させ
る必要がある。エンジンの広い運転領域での尿素SCR
触媒が活性化できるように、エンジン部分負荷領域でに
排気温度を上昇できる技術の開発が求められている。
気筒休止エンジン
特許公開2005-54771)
 「気筒群個別制御エンジン」 
 ・都市内走行時のような部分負荷時
の排気温度上昇よる尿素SCR触媒の
NOx削減の運転領域拡大が可能であ
る。

後処理制御システム
(特許公開2005-69238)
 「エンジンの排出ガス浄化システム」
・排出ガス後処理装置の高温維持よ
る尿素SCR触媒のNOx削減の運転領
域拡大が可能である。
ターボ
過給
エンジン

EGR率
通常、ターボ過給エンジンの場合には、最大トルク付近
の運転では給気圧力が排気圧力より高くなり、EGRガス
は吸気に還流されない状態となる。そのため当該運転
領域ではEGRによるNOx低減が不能となる。

今後、更にNOx低減を図っていくためには、ターボ過給
エンジンのEGR不能運転領域において、ターボ効率を
悪化させることなく必要十分なEGR率を確保してNOxを
低減できるようにする必要がある。
 パルスEGRシステム
(特許公開2005-54778)
 「多気筒過給エンジンのEGR装置」
・過給エンジンの全ての運転領域での
大量EGRによるNOxの大幅削減が可
能である。
燃費
2015年度におけるトラックやバスなど大型ディーゼル車
の燃費規制の導入や最近の軽油価格の高騰から、今
後、燃費低減を求めるユーザーの声が高まることは必
至である。

トラックメーカーが燃費低減のユーザー要望に応えて行
くためには、DPFの再生やターボ過給エンジンのEGR
における燃費の犠牲を少なくする技術を開発し、実走行
時に多用されるエンジン部分負荷時のエンジン燃費の
改善を図る必要がある。
気筒休止エンジン
特許公開2005-54771)
 ・都市内走行時のような部分負荷時
に排気温度上昇によるDPF自己再生
の運転領域拡大が可能である。
【部分負荷時の気筒休止運転により、
燃費が改善できる効果あり】

 後処理制御システム
(特許公開2005-69238)
 「エンジンの排出ガス浄化システム」
・排出ガス後処理装置の高温維持に
よるDPF自己再生の運転領域拡大が
可能である。
【部分負荷時の気筒休止運転による
燃費改善と、DPFの強制再生時の燃
料浪費が抑制できる効果あり】

パルスEGRシステム
(特許公開2005-54778)
 「多気筒過給エンジンのEGR装置」
・過給エンジンの全ての運転領域での
大量EGRによるNOxの大幅削減が可
能である。
【大量EGR時において、ターボ過給機
の効率低下による燃費悪化が防止で
きる効果あり】

(注:上記特許の概要は名称・特許公開番号をクリックすると表示される。また、特許の明細書は、特許庁ホームページの電子図書館からの
ダウンロードにより入手が可能)

前述のように、NOxとPMの大幅な削減が求められている2009年実施のポスト新長期排出ガス規制とそれに続く
NOx規制強化に対応するためには、大型トラック・バス用ディーゼルはEGR付き過給エンジンにDPFと尿素SCR触
媒を併用したエンジンになるであろうと云われている。当該エンジンに上記3件の特許技術を適用することにより、
このポスト新長期排出ガス規制に容易に適合させることができるとは勿論であるが、それと同時に、十分な燃費改
善を実現し、運転手によるDPFの手動再生の回数も激減できるメリットがあるため、トラック・バスの商品性を大幅
に向上できることは間違いないと考えている。以下に上記3件の特許技術をトラック・バス用エンジンに適用した場
合の作用効果と、その理由を簡単にまとめた。 

(1) パルスEGRシステム(特許公開2005-54778)の採用により、エンジン回転の中速の高トルク領域において、従
来の過給エンジンでは困難なターボ過給機の効率悪化を防止しながらEGR率を増大させることが可能となる。これ
により、ターボ過給エンジンでの中速の高トルクの運転領域において、高EGR率によりNOxの大幅な削減を図るこ
とができる。この高EGR率によるNOxの大幅な削減は、NOx規制値に適合するための尿素SCR触媒によるNOx
削減の負担を大きく軽減できる効果がある。NOx削減の負担が軽減された尿素SCR触媒では、消費する尿素水の
消費量を少なくできるメリットがあり、トラック・バスの運行経費削減に大きな効果が得られる。 

(2) 気筒休止エンジン(特許公開2005-54771)及び後処理制御システム(特許公開2005-69238)を採用した場合
には、都市内走行時のようなエンジン部分負荷時において排気ガス温度を上昇させることができるため、都市内走
行時でもDPFは自己再生が行われるようになる。一方、現在、市販されているトラック・バスのDPFでは、都市内走
行中にはDPFの自己再生ができないため、一定の距離を走行した後にはコモンレール噴射システムのエンジンで
は燃料のポスト噴射によるDPFの強制再生(手動再生を含む)を行う必要があり、ジャーク式ユニットインジェクタ噴
射システムのエンジンではタービンの排気ガス出口の排気管内にDPF強制再生用の燃料を噴射してDPFを強制再
生(手動再生を含む)を行う必要がある。なお、新長期規制(H17年)適合のトラックに搭載されているポスト噴射再
生式DPF搭載の問題点については燃費悪化のポスト噴射を止め、気筒休止でDPFを再生する新技術詳細を記
載したのでご覧いただきたい。
さて、ここで提案した気筒休止エンジン及び後処理制御システムの特許技術を採用した場合には、都市内走行でも
DPFの自己再生が可能となるため、ポスト噴射や排気管内噴射等のエンジン出力に無関係な無駄な燃料を垂れ流
すDPFの強制再生の回数を大幅に削減することができ、強制再生の際に浪費する燃料量を少なくできる効果があ
る。そして、ポスト噴射の軽油によるエンジンオイルの希釈を少なくしてエンジンオイルの粘度低下による潤滑性能
の劣化を抑制することも可能となる。 
また、エンジン部分負荷時においては、気筒休止エンジンでは半数の気筒での燃焼を停止する時には冷却損失が
半減されると共に、従来の全気筒燃焼の場合に比較して気筒休止エンジンの稼動する気筒内の温度と圧力が高く
なってサイクル効率(熱効率)も上昇するため、エンジン燃費が大幅に改善できる効果がある。本提案の気筒休止
エンジン及び後処理制御システムの特許技術を採用した場合には、現行のDPF装着のトラック・バス運転手に課さ
れているDPFのメンテナンス作業が著しく軽減できることに加え、DPFの強制再生による燃料浪費も削減され、ま
た、部分負荷時の冷却損失の半減によるエンジン燃費も改善されることから、車両の走行に消費される燃料量が
大幅に削減できることは間違いない。特に、気筒休止エンジン(特許公開2005-54771)は、実用化が容易であること
に加え、今後の大型トラック・バスにとっての最重要課題である走行時の燃費改善の効果が極めて高い技術と言え
る。 
今後、DPFの強制再生時の燃料浪費を削減し、エンジン部分負荷が多用される走行燃費を大幅に改善していく手
段としては、今のところ、本提案の気筒休止エンジンと後処理制御システムの技術以外に見当たらないと言っても
過言ではないと考えている。 
コモンレール噴射システムのエンジンと同様、ジャーク式ユニットインジェクタ噴射システムのエンジンでもポスト新
長期規制やそれに続く規制強化で求められている大幅なNOxの削減を図るためには、大量EGRによるNOx削減
の方法と、尿素SCR触媒を用いた尿素水によるNOxを還元する方法を組み合わせる方法が望ましいことには変わ
りはない。大量EGRは、尿素SCR触媒が負担するNOx削減の割合を少なくすることにより、尿素水の消費量が削
減できるためである。しかし、大量EGRと尿素SCR触媒を併用する方法では、大量のEGRでエンジンのシリンダー
から排出されるPMは増加するため、EGRの増量の程度にも限界がある。その場合、本提案の気筒休止エンジン
及び後処理制御システムの特許技術を採用してエンジンの低負荷時の排気ガス温度の高温化を図り、エンジンの
広い運転領域において尿素SCR触媒によるNOxの削減を図ることが可能となる。
また、大型トラックのエンジンを気筒休止エンジン(特許公開2005-54771)に改良することによって10%程度の燃費
改善が可能と考えており、これについて、気筒休止エンジンによる大型トラックの低燃費化気筒休止により、燃費
削減と尿素SCR触媒でのNOx削減が可能だ!に詳述しているのでご覧いただきたい。

以上に示したパルスEGRシステム(特許公開2005-54778)気筒休止エンジン(特許公開2005-54771)及び後処理
制御システム(特許公開2005-69238)の特許技術は、個別の技術を採用した場合には、個々の技術が持つ単独の
効果が得らのみであるる。しかし、これら3件の技術を組み合わせることにより、大きな相乗効果が得られると考え
ている。その結果、エンジン運転領域の広い範囲で適切なEGR率の制御によるNOx削減を図りつつ、尿素水の消
費を抑えながら尿素SCR触媒での必要十分なNOx削減が可能となる。またDPF強制再生の回数削減により燃費の
悪化が防止でき、気筒休止による部分負荷時の燃費改善も実現できるものと考えている。 

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