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最終更新日:2008年10月12日
新長期排出ガス規制(2005年規制)適合のトラック・バスは既に市販されているが、それら大型トラック・バスに採用
されている各社の排出ガス低減技術の概要は以下の通り。
新長期排出ガス規制への適合手段は、メーカにより大きく異なっており、「DPF」または「尿素SCR触媒」の何れか
を 採用していることが特徴だ。
1.現行(新長期規制に採用)のDPFと尿素SCR触媒の問題点
一般にディーゼルトラック・バスが都市内で運行される時には、低速走行のためエンジン出力が低い上に、走行と
停止が繰り返されることになる。そのため、排気温度が連続して高温に維持されることは無い。このような走行状態 では、各社の新長期排出ガス規制(2005年規制)に適合したディーゼルトラック・バスに採用されている「DPF装置」 や「尿素SCR触媒」では、排気温度が連続して高温に維持されないために多くの問題が発生することになる。
実際、各社の新長期排出ガス規制(2005年)対応技術に詳述したように、インターネットの掲示板では、現行のトラ
ックに装着された「DPF装置」に対し、日常業務で新長期規制適合のトラックを使用している運転手から多くの問題 が指摘されている。現行の「DPF装置」や「尿素SCR触媒」は、数々の問題を抱えているにもかかわらず、新長期排 気
ガス規制に適合できる他の技術が見当たらないため、仕方なく採用されているのが現状のようだ。次の表には、現
行の「DPF装置」や「尿素SCR触媒」における問題点と、その問題を解決するための改善のポイントについて、簡単 にまとめた。特に、現行の「DPF装置」では、都市内走行が多い場合には頻繁に手動再生が必要となることや軽油 によるオイルの希釈問題が発生する等、各メーカーとも故障多発の問題を抱えているようだ。何は差し置いても、ト ラックメーカー自身のクレーム費用削減と運転手の不満解消にために、「DPF装置」の欠陥とも考えられる問題を早 期に解決する技術を開発することが急務であろう。
項 目 問 題 点 と 必 要 な 改 善 内 容
参考として、ボルボのDPFを搭載したジャーク式ユニットインジェクタ付き過給ディーゼル・D13Bエンジにおいて、タ
ービンの排気ガス出口の排気管内にDPF強制再生用の燃料を噴射してDPFを強制再生する方法が採用されてい るので、それを以下に示す。この排気管内に燃料を噴射してDPFを強制再生する方法は、欧米のトラックに多く採 用されているようである。その理由は、この排気管内に燃料を噴射するDPF強制再生方法では、コモンレールのポ スト噴射で生じるDPF強制再生時の軽油によるエンジンオイルの希釈が無いためではないかと推測される。 ![]()
2.今後の排出ガス規制強化のために研究されている新技術
ところで、NOxとパティキュレート規制が更に厳しくなるポスト新長期排出ガス規制(2009年規制)とそれに続くNO削
減の規制強化に対応するため、トラックメーカーや研究機関等では新しい技術の開発に積極的に取り組んでいると ころだ。その中で最も注目を集めているのが圧縮行程で軽油の予混合気を圧縮して着火させるHCCI (Homogeneous Charge Compression Ignition)技術だ。このHCCI技術については、既に数多くの研究論文が発表さ れており、NOxおよびパティキュレートが格段に削減できる最も優れた新技術と云われている。
しかし、現在のところ、このHCCI技術は、常に高い空気過剰率の状態しか運転できないため、エンジンの低負荷運
転領域でNOxやパティキュレートが削減できる手段にすぎない。一方、ディーゼル自動車が実際に使用される環境 は、地域や季節で大きく変動する大気温度や燃料品質(特に軽油セタン価)のバラツキの影響下に曝されているの が現状だ。そのため、HCCIでは狙いとなる軽油の自己着火の制御が難しく、近い将来、この新技術を実用化する ことは難しいと考える人も多い。
また、既に公表されている資料によると、今後の排出ガス規制適合に有用な技術として以下の新しい技術が提案
さ
れている。しかし、各技術のコストとその効果を考えれば、実用性については疑問な点が多い。
以上の新しい技術は、この数年以内に実用化し、それらを市販トラックのエンジンに採用していくことは極めて難し
いと考えるのが妥当だ。
現在のところ、2009年に施行が予定されているポスト新長期排出ガス規制とそれに続くNO規制強化に対応するた
めには、DPFと尿素SCR触媒を併用するのに加え、EGR率の更なる増大を図る方法が採用されるのではないかと 云われている。
さて、下図は、日本の排出ガス試験法(JE05)、欧州の試験法(ETC)および米国の試験法(FTP)のそれぞれの試
験中のエンジン負荷と回転速度の分布を示したものである。欧州の試験法(ETC)や米国の試験法(FTP)に比べ、 日本の試験法(JE05)でのエンジン負荷はかなり低いことは明らかだ。一般に吸気絞り弁を持たないディーゼルで はエンジン負荷率と排気ガス温度がほぼ比例する関係にあるため、エンジン負荷率が低くなるに従って排気ガス温 度が低温になる特性を持っている。米国(FTP)や欧州(ETC)に比べて日本の試験法(JE05)では負荷率の低いエ ンジン運転状態が極めて多いため、排気ガス温度が低温となる運転条件の多いことが特徴だ。 ![]()
一方、下図に示したように、尿素水を用いて尿素SCR触媒によりNOxを除去する場合、現在の技術では尿素SCR
触媒の入口の排気ガス温度が180℃以下ではNOx低減率が著しく低下してしまう欠点がある。負荷率が40%以下 のエンジン運転状態が極めて多い日本の試験法(JE05)では、排出ガス試験に占める排気ガス温度の低いエンジ ン運転領域が極めて多いため、尿素SCR触媒によって或るレベル以下にNOxを低減すること容易ではないと考えら れる。現在、排気ガス温度が低い場合でもNOx低減率を高くするために尿素SCR触媒の改良の努力が行われてい るが、今後、短期間に十分な触媒改良の成果を上げることは極めて難しいと考えられる。ポスト新長期やその後の 排出ガス規制強化に適合するために尿素SCR触媒で十分なNOx低減を図って行くためには、エンジン負荷率が40 〜50%以下のエンジン運転状態において、排気ガス温度を高温化できる新たな技術の実現が強く望まれていると ころだ。 ![]()
3.ポスト新長期規制以降の排出ガス規制適合に有効な技術の提案
また、ポスト新長期規制(2009年規制)とそれに続くNO規制強化への対応では、現行の新長期規制(2005年規制)
レベルよりも更にNOxおよびPM(パティキュレート)を大幅に低減することは当然のことであるが、2015年からの燃 費規制の導入や最近の軽油価格高騰の影響から、今後、ユーザから今まで以上に燃費などの運行費の削減が強 く求められることは必至だ。このユーザ要求を満足させる大型トラック・バスを実現するためには、以下の点に焦点 を当てた技術開発が必要なことは明らかだ。
@排気ガスの低温時(=部分負荷時)における尿素SCRシステムのNOx低減機能の向上
A尿素水の消費量削減のために、高負荷時を含めた大量EGRを可能にする技術の実現
B燃料の浪費を削減するために、DPF強制再生の回数が削減できる技術の実現
C従来からのディーゼルトラックの最重要課題であるエンジン燃費低減の更なるレベルアップ
そこで、「閑居人」は、上記@〜Cの技術的ニーズを実現する一助になればと思い、現行の「DPF」と「尿素SCR触
媒」の問題点の改良や、「ターボ過給エンジンでのEGRの大量化」を可能にするポスト新長期排出ガス規制とそれに 続く規制強化に対応するためのアイデアを考え、3件の特許を出願したので以下に紹介する。
(注:上記特許の概要は名称・特許公開番号をクリックすると表示される。また、特許の明細書は、特許庁ホームページの電子図書館からの
ダウンロードにより入手が可能)
前述のように、NOxとPMの大幅な削減が求められている2009年実施のポスト新長期排出ガス規制とそれに続く
NOx規制強化に対応するためには、大型トラック・バス用ディーゼルはEGR付き過給エンジンにDPFと尿素SCR触 媒を併用したエンジンになるであろうと云われている。当該エンジンに上記3件の特許技術を適用することにより、 このポスト新長期排出ガス規制に容易に適合させることができるとは勿論であるが、それと同時に、十分な燃費改 善を実現し、運転手によるDPFの手動再生の回数も激減できるメリットがあるため、トラック・バスの商品性を大幅 に向上できることは間違いないと考えている。以下に上記3件の特許技術をトラック・バス用エンジンに適用した場 合の作用効果と、その理由を簡単にまとめた。
(1) パルスEGRシステム(特許公開2005-54778)の採用により、エンジン回転の中速の高トルク領域において、従
来の過給エンジンでは困難なターボ過給機の効率悪化を防止しながらEGR率を増大させることが可能となる。これ により、ターボ過給エンジンでの中速の高トルクの運転領域において、高EGR率によりNOxの大幅な削減を図るこ とができる。この高EGR率によるNOxの大幅な削減は、NOx規制値に適合するための尿素SCR触媒によるNOx 削減の負担を大きく軽減できる効果がある。NOx削減の負担が軽減された尿素SCR触媒では、消費する尿素水の 消費量を少なくできるメリットがあり、トラック・バスの運行経費削減に大きな効果が得られる。
(2) 気筒休止エンジン(特許公開2005-54771)及び後処理制御システム(特許公開2005-69238)を採用した場合
には、都市内走行時のようなエンジン部分負荷時において排気ガス温度を上昇させることができるため、都市内走 行時でもDPFは自己再生が行われるようになる。一方、現在、市販されているトラック・バスのDPFでは、都市内走 行中にはDPFの自己再生ができないため、一定の距離を走行した後にはコモンレール噴射システムのエンジンで は燃料のポスト噴射によるDPFの強制再生(手動再生を含む)を行う必要があり、ジャーク式ユニットインジェクタ噴 射システムのエンジンではタービンの排気ガス出口の排気管内にDPF強制再生用の燃料を噴射してDPFを強制再 生(手動再生を含む)を行う必要がある。なお、新長期規制(H17年)適合のトラックに搭載されているポスト噴射再 生式DPF搭載の問題点については燃費悪化のポスト噴射を止め、気筒休止でDPFを再生する新技術に詳細を記 載したのでご覧いただきたい。
さて、ここで提案した気筒休止エンジン及び後処理制御システムの特許技術を採用した場合には、都市内走行でも
DPFの自己再生が可能となるため、ポスト噴射や排気管内噴射等のエンジン出力に無関係な無駄な燃料を垂れ流 すDPFの強制再生の回数を大幅に削減することができ、強制再生の際に浪費する燃料量を少なくできる効果があ る。そして、ポスト噴射の軽油によるエンジンオイルの希釈を少なくしてエンジンオイルの粘度低下による潤滑性能 の劣化を抑制することも可能となる。
また、エンジン部分負荷時においては、気筒休止エンジンでは半数の気筒での燃焼を停止する時には冷却損失が
半減されると共に、従来の全気筒燃焼の場合に比較して気筒休止エンジンの稼動する気筒内の温度と圧力が高く なってサイクル効率(熱効率)も上昇するため、エンジン燃費が大幅に改善できる効果がある。本提案の気筒休止 エンジン及び後処理制御システムの特許技術を採用した場合には、現行のDPF装着のトラック・バス運転手に課さ れているDPFのメンテナンス作業が著しく軽減できることに加え、DPFの強制再生による燃料浪費も削減され、ま た、部分負荷時の冷却損失の半減によるエンジン燃費も改善されることから、車両の走行に消費される燃料量が 大幅に削減できることは間違いない。特に、気筒休止エンジン(特許公開2005-54771)は、実用化が容易であること に加え、今後の大型トラック・バスにとっての最重要課題である走行時の燃費改善の効果が極めて高い技術と言え る。
今後、DPFの強制再生時の燃料浪費を削減し、エンジン部分負荷が多用される走行燃費を大幅に改善していく手
段としては、今のところ、本提案の気筒休止エンジンと後処理制御システムの技術以外に見当たらないと言っても 過言ではないと考えている。
コモンレール噴射システムのエンジンと同様、ジャーク式ユニットインジェクタ噴射システムのエンジンでもポスト新
長期規制やそれに続く規制強化で求められている大幅なNOxの削減を図るためには、大量EGRによるNOx削減 の方法と、尿素SCR触媒を用いた尿素水によるNOxを還元する方法を組み合わせる方法が望ましいことには変わ りはない。大量EGRは、尿素SCR触媒が負担するNOx削減の割合を少なくすることにより、尿素水の消費量が削 減できるためである。しかし、大量EGRと尿素SCR触媒を併用する方法では、大量のEGRでエンジンのシリンダー から排出されるPMは増加するため、EGRの増量の程度にも限界がある。その場合、本提案の気筒休止エンジン 及び後処理制御システムの特許技術を採用してエンジンの低負荷時の排気ガス温度の高温化を図り、エンジンの 広い運転領域において尿素SCR触媒によるNOxの削減を図ることが可能となる。
また、大型トラックのエンジンを気筒休止エンジン(特許公開2005-54771)に改良することによって10%程度の燃費
改善が可能と考えており、これについて、気筒休止エンジンによる大型トラックの低燃費化や気筒休止により、燃費 削減と尿素SCR触媒でのNOx削減が可能だ!に詳述しているのでご覧いただきたい。
以上に示したパルスEGRシステム(特許公開2005-54778)、気筒休止エンジン(特許公開2005-54771)及び後処理
制御システム(特許公開2005-69238)の特許技術は、個別の技術を採用した場合には、個々の技術が持つ単独の 効果が得らのみであるる。しかし、これら3件の技術を組み合わせることにより、大きな相乗効果が得られると考え ている。その結果、エンジン運転領域の広い範囲で適切なEGR率の制御によるNOx削減を図りつつ、尿素水の消 費を抑えながら尿素SCR触媒での必要十分なNOx削減が可能となる。またDPF強制再生の回数削減により燃費の 悪化が防止でき、気筒休止による部分負荷時の燃費改善も実現できるものと考えている。
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