閑居人のアイデア                   トップページに戻る         サイトマップ



ターボコンパウンドは、大型トラックの走行燃費の改善が困難な技術だ!

(ターボコンパウンドによる大型ディーゼルトラックの重量車モード燃費の改善は、1%未満に過ぎないと予想)

最終更新日:2011年9月26日



1 大型トラック・トラクタの燃費向上は、トラックメーカの最も重要な開発課題

 現在、日野自動車、いすゞ自動車、三菱ふそう、UDトラックスおよびボルボの各メーカは、ポスト新長期排出ガス規制
(2009年規制)に適合させた大型トラック・トラクタを販売中である。このように、大型トラック・トラクタの全ての車種が
NOxとPMの排出を厳しく制限したポスト新長期排出ガス規制(2009年規制)に適合できていることから、日本のトラック
メーカでのディーゼルエンジンの技術開発の能力には、何も問題が無いと考えている人は、多いかも知れない。しか
し、現時点では、各トラックメーカは、2015年度重量車燃費基準に不適合となっている大型トラック・トラクタの車種を数
多く抱えているのが現状だ。そこで、各トラックメーカでの2015年度重量車燃費基準に不適合な大型トラック・トラクタの
車種の割合を調べたみたところ、表1に示した状況であることが判った。

表1 大型トラック・トラクタにおける2015年度重量車燃費基準に不適合の割合
(2010年11月現在の各トラックメーカの不適合車種の比率)
メーカ名
大型トラック用エンジン
大型トラック・トラクタの分野

2015年度重量車燃費基準に不適合の車種の割合
三菱ふそう
6R10 (13リットル級)
13%の車種が不適合(2010年11月現在)
(出典: http://www.nikkan.co.jp/newrls/rls20100422i-06.html

数%の車種が不適合 (ほとんどの車種が適合)
(その後の改良により、ダンプは燃費基準に適合させて2011年10月6日に発売)
http://www.e-logit.com/loginews/2011:100603.php
日野自動車
E13C (13リットル級)
17%の車種が不適合(2010年11月現在)
(出典: http://www.mlit.go.jp/jidosha/nenpi/nenpikouhyou/track/hino.pdf
AC09 (9リットル級)
48%の車種が不適合(2010年11月現在)
(出典: http://www.mlit.go.jp/jidosha/nenpi/nenpikouhyou/track/hino.pdf

0%の車種が不適合 (全ての車種が適合)
(その後の改良により、全ての車種は燃費基準に適合させて2011年10月2日に発売)
(出典: http://www.hino-global.com/j/news_release/140.html
UDトラックス
GH11 (11リットル級)
56%の車種が不適合(2010年11月現在)
(出典: http://gazoo.com/NEWS/NewsDetail.aspx?NewsId=b0531bfa-3251-451f-9bfe-
8e0ef07935a1
いすゞ自動車
6UZ1 (10リットル級)
%の車種が不適合 (ほとんどの車種が適合(2010年11月現在)
(出典: http://release.nikkei.co.jp/detail.cfm?relID=251321&lindID=4
ボルボ
D13(13リットル級)
25%の車種が不適合(2010年11月現在)
(5車種の全てに12段機械式自動ミッションを採用)
(出典: http://www.mlit.go.jp/jidosha/nenpi/nenpikouhyou/track/volvo-t.pdf

 この表1を見ると明らかなように、いすゞ自動車の大型トラック・トラクタの殆どの車種が2015年度重量車燃費基準に
適合しているが、これはエンジンの小排気量化によるダウンサイジングの結果と考えられる。大型トラック・トラクタのエ
ンジンをダウンサイジングした場合には、大型トラック・トラクタの低燃費化が可能になるが、車両の走行性能が劣るよ
うになるため、全てのユーザに歓迎される大型トラックでは無いと考えられる。また、日野自動車、UDトラックスおよび
三菱ふそうの大型トラック・トラクタにおいては、ポス新長期排出ガス規制(2009年規制)に適合した多くの車種の大型ト
ラック・トラクタが2015年度重量車燃費基準に不適合となっているのが現状である。

 このことから、大型トラックメーカにおいては、大型トラック用ディーゼルエンジンの重量車モード燃費値を5パーセント
程度の改善を可能にする技術を早急に開発し、各社の大型トラック・トラクタの全車種を2015年度重量車燃費基準に
適合できるようにすることが喫緊の課題であることは明らかである。そして、いすゞ自動車においても、走行性能の高い
13リットル級のエンジンを搭載したマニュアルミッション搭載の大型トラック・トラクタが2015年度重量車燃費基準に適合
できる技術が開発できれば、いすゞ自動車も走行性能の高い大排気量エンジンを搭載した大型トラック・トラクタを商品
に加えることが可能となるのである。

 現在のポスト新長期排出ガス規制(2009年規制)に適合した大型トラック・トラクタ(大型ダンプも含む)において、10
リットルエンジンを搭載したいすゞ自動車の大型トラック・トラクタは、燃費性能に優れているが発進性等の動力性能に
問題があると考えられる。したがって、いすゞ自動車でも、13リットルエンジン級のエンジンにおいても2015年度重量
車燃費基準に適合できる技術が開発できれば、動力性能の優れた大型トラック・トラクタが市販でき、トラックユーザに
満足してもらう事ができるである。勿論、13リットルエンジンを搭載した日野と三菱の大型トラック・トラクタは、2015年
度重量車燃費基準に全車種を適合できれば、全てのトラックユーザの要求を満たすことができるのだ。日野、いすゞ、
UDおよび三菱ふそうの何れのトラックメーカの開発部門においても、これを実現する唯一の方法が早急に大型トラッ
ク・トラクタの重量車モード燃費値を5パーセント程度の改善を可能にする新たな技術を早期に実用化することであるこ
とは、誰もが認めるところだろう。そのために各トラックメーカのエンジン開発部門の人達は、必死に努力しているもの
と思うが、不幸なことに、未だに重量車モード燃費値を5パーセント程度の改善を実現できるディーゼルエンジンの燃費
改善の技術が開発できていないようだ。

2 NEDOの「超高度燃焼制御エンジシステムの研究開発」では、燃費悪化の大失敗

 ディーゼルエンジンの燃費改善とNOx削減を図るため、従来から多方面で精力的に研究開発が実施されている。近
年、その中でも特に有名な研究プロジェクトは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の革新的次世代低公
害車総合技術開発(クリーンディーゼルプロジェクト、2004〜2009年)である。この大型トラックの燃費改善とNOx削減
の研究は、8億6千5百万円の予算で実施された「超高度燃焼制御エンジシステムの研究開発」の大型プロジェクトであ
る。この研究プロジェクトでは、その名称の通り、ディーゼルエンジンの燃費改善とNOx削減に大きな効果を発揮すると
多くの学者・専門家が期待している新技術が採用されたのである。そして、この「超高度燃焼制御エンジシステムの研
究開発」の研究プロジェクトでの目標は、表2に示した通り、「NOx = 0.2g/kWh」および「2015年度重両者燃費基準から
の10%の燃費向上」が設定されたのである。

表2 「超高度燃焼制御エンジシステムの研究開発」に採用の技術と研究目標
超高度燃焼制御エンジシステムに採用の技術
研究の 目標 と 結果
3段過給システム
300MPaの超高圧燃料噴射
カムレスシステム
PCI燃焼
(Premixed. Compression Ignition combustion)
DPF
DeNOx触媒(尿素SCR触媒)
NOx = 0.2g/kWhの目標は、達成
 (NOxをポスト新長期の1/3に削減)

目標が10%の燃費改善に対し、結果は2%の燃費悪化
 (2015年度重両者燃費基準からの燃費向上の割合)


  また、この研究プロジェクトにおけるエンジンシステムの概要と狙いとする技術的な改善の着眼点を図1に示した。



図1 革新的次世代低公害車総合技術開発の「超高度燃焼制御エンジシステムの研究開発」の仕様
(出典:http://app3.infoc.nedo.go.jp/gyouji/events/FK/rd/2008/nedoevent.2009-02-16.5786478868/shiryo.pdf

 このように、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の革新的次世代低公害車総合技術開発の「超高度燃焼
制御エンジシステムの研究開発」の大型プロジェクトは、NOxをポスト新長期の1/3低減しつつ、燃費を現状の2015年
度重両者燃費基準から10%改善する高い目標を実現しようとするものであった。勿論、このように誰もが驚くような高
い目標が掲げられたのは、この研究プロジェクトがエンジンのコスト増加や重量増加を全く考慮しないで将来の実用化
を無視した上での純粋に技術の可能性を追及する研究開発であったためと考えられる。この研究開発が開始された
2004年当時、この研究の関係した学者・専門家がNOx削減と燃費向上に寄与すると考えられた全ての技術(3段過給
システム、300MPaの超高圧燃料噴射、カムレスシステム、PCI燃焼、DPF、DeNOx触媒)を採用されたものと考えられ
る。

 ところが、8億円以上の膨大な予算を注ぎ込んで鳴り物入りで実施された「超高度燃焼制御エンジシステムの研究開
発」の研究開発は、肝心の燃費改善については惨憺たる結果で終わってしまったようだ。その証拠としては、これまで
の多くのNEDOの研究開発の例と異なり、この研究開発では当初の目標と最終結果との燃費改善が余りにも乖離し過
ぎているからである。そして、このプロジェクトでは2015年度重量車燃費基準よりも10%の大幅な燃費改善を目標に掲
げながら、最終結果では、驚くことに2015年度重量車燃費基準に対して2%もの燃費を悪化させてしまっているのあ
る。

 このNEDOの研究開発の実際の最終結果では、図2に示したように、NOxは目標を達成できたが、現在の省エ
ネルギー・省資源・低CO2の時代に求められている肝心要の燃費改善は目標の10%削減には全く及ばず、図
らずも2015年度重量車燃費基準に対して2%の悪化となってしまったのである。現行の多くの大型トラックが2015
年度重量車燃費基準に適合していることから、「超高度燃焼制御エンジシステムの研究開発」における2015年度重量
車燃費基準に対して2%の燃費悪化は、この研究開発が見事なまでの大失敗に終わってしまったと云えるのではない
だろうか。



図2 「超高度燃焼制御エンジシステムの研究開発」の最終結果におけるー2%の燃費悪化
(出典:http://app3.infoc.nedo.go.jp/gyouji/events/FK/rd/2008/nedoevent.2009-02-16.5786478868/shiryo.pdf) 

 この図2に示したように、NEDOの「超高度燃焼制御エンジシステムの研究開発」での問題は、NOxとPMは削減できた
が、燃費は2015年度重量車燃費基準2%の悪化となってしまったとのことである。この「超高度燃焼制御エンジシステ
ムの研究開発」におけるPCI燃焼を含めた燃焼改善での燃費向上が不成功に終わった試験結果をはっきりと見せつ
けられると、ディーゼル燃焼の改善によって燃費向上を実現することは極めて難しいことを殆どのディーゼル関係の学
者・専門家が実感したのではないだろうか。そして、このNEDOのディーゼル燃費の向上に関しての悲惨な試験結果で
多く学者・専門家は強い衝撃を受け、大いに落胆された人も多かったものと推察される。因みに、自動車技術会発行
の「自動車技術」誌Vol.64、No.1、2010(2010年1月1日発行)の飯田訓正 慶応大教授 他3名著の「ディーゼルエンジ
ンこの10年」には、ディーゼルエンジンのCO2削減(=燃費削減)が「大きな挑戦課題」と断定し、燃焼改善によるディ
ーゼルエンジンの燃費削減が「技術的に八方塞がりの状況」との趣旨が記載されている。これは、このNEDOの「超高
度燃焼制御エンジシステムの研究開発」(2004〜2009年)での燃費向上に失敗した研究報告を踏まえての記述ではな
いかとも考えられる。

 2 ターボコンパウンドに関する技術報告と学者・専門家のディーゼル燃費向上の期待

 前述のように、、多くの学者・専門家がNOx削減と燃費向上に寄与できると期待されている全ての技術(3段過給シス
テム、300MPaの超高圧燃料噴射、カムレスシステム、PCI燃焼、DPF、DeNOx触媒)を盛り込んだNEDOの「超高度燃
焼制御エンジシステムの研究開発」の最終報告では、2015年度重量車燃費基準から2%も悪化する燃費の研究結果
が発表されたのである。この研究報告は、これまでわが国のディーゼルエンジン関係の指導的立場にある学者・専門
家が自信満々に主張されていた「大型トラックにおける今後の燃費向上の技術の提示・提案」が殆ど間違いであったこ
とを無慈悲にも実証してしまったのである。
 
 このNEDOの研究報告は、わが国のディーゼルエンジン関係の指導的立場にある学者・専門家の主張を信じて将来
の大型トラックの燃費向上を信じて疑わなかった多くのトラックユーザの人達を失望させたことは勿論である。そして、
学者・専門家の主張をそのまま受け売りして「多段過給システム、超高圧燃料噴射、PCI燃焼(=HCCI燃焼)によって
ディーゼル燃費の向上が可能」との主張が誤りであったことから、この学者・専門家の尻馬に乗ってこの主張を社内で
吹聴していたトラックメーカのディーゼルエンジン技術者も見事に梯子を外された状況に陥いったと考えられる。トラック
メーカのディーゼルエンジン技術者にとっては青天霹靂の衝撃を受けたのではないだろうか。ところが、わが国のディ
ーゼルエンジン関係の指導的立場にある学者・専門家を含む多くのディーゼルエンジン技術者は、これまでのディーゼ
ルエンジンの燃費改善の誤った主張・見解についての謝罪や反省をこれまで聞いたことがない。このことから判断する
と、ディーゼルエンジン関係の学者・専門家・技術者は、「赤信号、皆んなで渡れば 怖くない」のブラックユーモアを実
践している人達のように見えるのである。

 さて、冗談の話はこれくらいにして、このNEDOの「超高度燃焼制御エンジシステムの研究開発」での燃費改善の失敗
が発表された2009年頃から後のディーゼルエンジン関係の将来的なNOx削減と燃費向上の技術開発の方針や研究プ
ロジェクトに記載された技術を見ると、これまで多くの学者・専門家によって推奨されていた大型トラック用ディーゼルエ
ンジンの燃費向上の提案技術である「多段過給システム」、「超高圧燃料噴射」、「PCI燃焼(=HCCI燃焼)」の技術の
外に、急遽、新たにターボコンパウンドの技術を追加され始めたようだ。単純に考えればターボコンパウンドが排気ガ
スのエネルギーをエンジン出力に回生できる機能があるため、理論的には大型トラックの燃費改善の機能があること
は確かである。しかし、このターボコンパウンドの技術が実質的に大型トラックの重量車モード燃費を大幅に改善でき
るとは筆者にはとても思えないのである。その根拠は、ターボコンパウンドによるディーゼル燃費向上について研究調
査をまとめたの研究をまとめた三菱重工の論文の内容を見れば明らかではないかと考えている。

3 三菱重工の論文を見ると、大型トラックにおけるターボコンパウンドによる燃費向上は困難

3−1 ターボコンパウンドに関する三菱重工の論文(昭和60年7月)

 三菱重工 土佐陽三氏 他4名は、日本機会学会論文集(B編)51巻467号(昭60-7)に論文「排気ターボコンパウン
ドエンジンのエネルギ回収特性」を発表されている。その論文の概要は、以下の表3に示した通りである。

表3 排気ターボコンパウンドエンジンに関する三菱重工鰍フ日本機会学会論文の概要
項 目
内 容
論文の

題目と著者
日本機会学会論文集(B編) 51巻467号(昭60-7)

排気ターボコンパウンドエンジンのエネルギ回収特性

土佐 陽三  三菱重工業梶@長崎研究所
下田 邦彦  三菱重工業梶@長崎研究所
後藤 敬造  三菱重工業梶@長崎研究所
原田 常雄  三菱重工業梶@長崎研究所
      藤  颯夫  三菱重工業梶@エンジン技術センター

(出典:http://ci.nii.ac.jp/els/110002399865.pdf?id=ART0002683023&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order
_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1316760112&cp=
論文の要旨
(1) ターボコンパウンドエンジンの構成図




(2) ベースエンジンとターボコンパウンドエンジンの主要緒元の比較




(3) ベースエンジンとターボコンパウンドエンジンの等燃費曲線の比較



(4) 上記の図14についての本論文の記述内容

 

 【注目点 及び コメント】

 本論文の図14に示されたベースエンジンとターボコンパウンドエンジンの等燃費曲線の比較図では、ベー スエンジンの定格点が2300rpmであるのに対し、ターボコンパウンドエンジンの定格点は2000rpmで大きく異 なっている仕様を設定し、2300rpmのベースエンジン定格点の燃費と2000rpmのターボコンパウンドエンジン 定格点を比較して、「ターボコンパウンドエンジンの燃費がベースエンジンよりも10%の燃費が改善」できた旨 が述べられている。トラック用エンジンとしの観点からすらば、基本仕様の異なる燃費比較の結果をそのまま トラック用エンジンの性能比較の技術情報として引用することは誤りと考える。

 そもそも、大型トラックにおける定格出力のエンジン回転速度は、そのトラックが必要としている最高速度を 確保するために、そのトラックに搭載しているトランスミッションギア比やデファレンシャルギア比で決まるもの である。したがって、本来、トラック用エンジンとしてターボコンパウンドエンジンとベースエンジンの 燃費曲や出力性能を単純に比較する場合には、ベースエンジンとターボコンパウンドエンジンの定格 点のエンジン回転速度(=最高出力時のエンジン回転速度)は同一とすべきである

 そのため、ターボコンパウンドを大型トラック用エンジンに採用した場合の燃費改善の評価を行う場合には、 ターボコンパウンドエンジンとベースエンジンの定格点の回転速度(=最高出力のエンジン回転速度)を 2000rpmに揃え、ベースエンジンの定格点(=294kW/2000rpm)とターボコンパウンドエンジンの定格点(= 353kW/2000rpm)との同一のエンジン回転速度での燃費の比較・評価を行うべきである。なぜならば、定格 点のエンジン回転速度のエンジンでは、フリクション損失とポンピンング損失の増加により、燃費が確実に悪 化するためだ。

 したがって、この三菱重工の機会学会論文に記載されているような、「ベースエンジンの定格点 (294kW/2300rpm)の燃費とターボコンパウンドエンジンの定格点(353kW/2000rpm)の燃費とを 比較し、ターボコンパウンドエンジンの燃費がベースエンジンの燃費よりも10%の改善が可能」との 論文の記述内容を、そのまま自動車用ディーゼルエンジンにターボコンパウンドを採用した場合の燃 費改善の予測として引用することは誤りと考える。


3−2 三菱重工論文の等燃費曲線から予想されるターボコンパウンドによる燃費向上の割合

三菱重工 土佐陽三氏 他4名が著した日本機会学会論文集(B編)51巻467号(昭60-7)に掲載の「排気ターボコンパ
ウンドエンジンのエネルギ回収特性」の図14に示されたベースエンジンとターボコンパウンドエンジンの等燃費曲線の
比較図には、「2300rpm定格回転速度のベースエンジンの定格点294kW/2300rpm」と「2000rpm定格回転速度のターボ
コンパウンドエンジンの定格点353kW/2000rpm」が記載されている。これに新たに定格回転速度をターボコンパウンド
エンジンと同一とした「仮仕様の2000rpmのベースエンジンの定格点294kW/2000rpm」を追記したベースエンジンとター
ボコンパウンドエンジンの等燃費曲線の比較図を、以下の図3に示した。



図3 ベースエンジン(294kW/2000rpm)の仮仕様を追記した三菱重工論文の図14の等燃費曲線比較図

 上記の図3に示したA点、B点およびC点は、三菱重工業論文の図14の等燃費曲線比較図の中にターボコンパウン
ドエンジンおよびベースエンジンのそれぞれの定格点である。詳細は以下の通りである。

A点 : 2000rpm定格回転速度のターボコンパウンドエンジンの定格点(353kW/2000rpm)
B点 : 2000rpmのベースエンジンの定格点(294kW/2000rpm)(仮仕様)
C点 : 2300rpm定格回転速度のベースエンジンの定格点(294kW/2300rpm)

 三菱重工業鰍フターボコンパウンド論文では、ターボコンパウンドのA点(353kW/2000rpm)の燃費(204 g/kWh)とベ
ースエンジンのC点(294kW/2300rpm)の燃費(227 g/kWh)を比較して、「ターボコンパウンドエンジンの燃費がベースエ
ンジンよりも10%の燃費が改善」できたと記載されている。しかし、大型トラックにおける定格出力のエンジン回転速度
(=定格回転速度)は、そのトラックで必要とされている最高速度等を確保するために、そのトラックに搭載されているト
ランスミッションギア比やデファレンシャルギア比決定されるものであり、ターボコンパウンド等のエンジン仕様によって
決まるものではない。したがって、トラック用エンジンの観点からターボコンパウンドエンジンとベースエンジンの燃費を
比較する場合には、ターボコンパウンドエンジンのA点とベースエンジンのC点の燃費を比較して燃費の優劣を論じるこ
とは無意味である。トラック用エンジンの観点からターボコンパウンド仕様の燃費改善の効果を正確に比較するために
は、ターボコンパウンドエンジンとベースエンジンの両エンジンの定格回転速度が2000rpmで同一であるターボコンパウ
ンドエンジンのA点とベースエンジンのB点の燃費を比較するべきである。したがって、トラック用エンジンの観点からタ
ーボコンパウンドエンジンの定格点の燃費を正確に評価した場合には、A点とB点の燃費を比較することにより可能と
なる。このA点とB点の燃費比較により、「定格点におけるターボコンパウンドエンジンの燃費がベースエンジンよりも4.
6%の燃費が改善」であるとすることがトラック用エンジンの観点からのターボコンパウンドにおける正しい燃費改善の
認識ではないだろうか。

 ところで、図4は、従来の排出ガス試験サイクル(JE05 モード)やWHTC試験法における2種類のエンジン(12.91リット
ル、4.01リットル)の回転数・負荷頻度分布図に示したものである。これら排出ガス試験サイクル(JE05 モード)やWHTC
試験法は、トラックの実走行におけるエンジン運転頻度から作成されたものであり、トラックの実走行におけるエンジン
運転状態を代表しているものと考えられる。この図4の2種類のエンジン(12.91リットル、4.01リットル)の回転数・負荷
頻度分布図を見ると、何れのエンジンにおいても100%負荷で100%エンジン回転速度でのエンジン運転(=エンジン定
格点)は、皆無に近いことが判る。このことから、エンジン定格点においてターボコンパウンドエンジンの燃費がベース
エンジンよりも4.2%の燃費が改善されたとしても、トラックの走行燃費には全く寄与しないことが明らかだ。そして、こ
図4の2種類のエンジン(12.91リットル、4.01リットル)の回転数・負荷頻度分布図を見ると明らかなように、ト
ラックのJE05 モード等で計測される重量車モード燃費や実走行燃費を改善するためには、最大トルクのエンジ
ン回転速度領域での部分負荷時の燃費改善を図ることが必要であることは明らかだ



図4 JE05およびWHTCの試験法における2種類のエンジン(12.91リットル、4.01リットル)の回転数・負荷頻度分布図
(出典:https://www.env.go.jp/council/07air/y071-39/mat02.pdf

 以上のように、最大トルクのエンジン回転速度領域での燃費改善がトラックの重量車モード燃費や実走行燃費を改
善に寄与することから、ターボコンパウンドエンジンにおいても最大トルクのエンジン回転速度領域での燃費改善の割
合が重要が重要である。そこで、ターボコンパウンドエンジンにおける最大トルクのエンジン回転速度領域では、図3の
図中の赤塗りで示したX領域で燃費が2.4%の改善されていることが判る。このことから、大型トラックがターボコンパウ
ンドによって燃費を改善することができるのは、最大の場合でも、エンジン最大トルクの運転状態で2.4%の改善が得
られるだけでありる。そして、図4から明らかなように、実際の大型トラックの走行においては、エンジン運転の使用頻
度は、エンジンの中回転速度の中トルク付近の運転がが多いのだ。この大型トラックの走行での使用頻度の多いエン
ジンの中回転速度の中トルク付近の運転領域では、図3から明らかなように、ターボコンパウンドによる燃費改善は限
りなく零パーセントに近いのである。このことから、実際のトラック走行におけるターボコンパウンドによる燃費向上は極
めて少ないものとなることは明らかである。したがって、ターボコンパウンド技術による重量車モード燃費の改善
は、1%にも満たない極めて僅かであると予想される。

 以上のことから、日本機会学会論文集(B編)51巻467号(昭60-7)の「排気ターボコンパウンドエンジンのエネルギ回
収特性」(著者:三菱重工業 土佐陽三氏 他4名)の論文の内容を筆者の勝手な観点で纏めさせていただくと、ターボ
コンパウンドの特徴は、以下の表4に示したようになるのではないかと考えている。

表4 三菱重工業鰍フ日本機会学会論文(著者:土佐陽三氏 他4名)から判明したターボコンパウンドの特徴
ターボコンパウンドの特徴 (根拠:三菱重工業 土佐陽三氏 他4名の機会学会論文)
1.ターボコンパウンドは、気筒内の最高圧力を高めることなく、エンジンの高出力化が可能

  ・ 最大トルクの30%増大
  ・ 最高出力の20%増加

2.ターボコンパウンドは、燃費向上の機能は少なく、その効果は僅少
   (ターボコンパウンドは、大型トラックの燃費を十分に向上できる機能は無し)

  ・ 最大トルク付近(図3のX領域)で2.4%の燃費が改善できるが、中、低負荷では燃費の改善効果は皆無
  ・ 定格点(100%回転&100%負荷)で4.2%の燃費が改善できるが、これはトラックの燃費改善には無効
  ・ 走行時にはエンジンの中速・中負荷が多用されるため、ターボコンパウンドはトラックの燃費改善に不向き
  ・ ターボコンパウンドによる重量車モード燃費の改善は、1%以下と推測


3−3 ターボコンパウンドに関するJPECの論文(2001.M4.2.1)

 石油エネルギー技術センターター(JPEC)の発表論文「排出物低減による環境対応型ディーゼルエンジンの研究開
発」(出典http://www.pecj.or.jp/japanese/report/2001report/2001M4.2.1.pdfでは

表3 排気ターボコンパウンドエンジンに関するJPECの論文の概要
項目
内容
論文の

題目と著者
排出物低減による環境対応型ディーゼルエンジンの研究開発 (2001.M4.2.1)

西田  章 (排出物低減ディーゼルグループ)
小栗 秀夫 (排出物低減ディーゼルグループ)
岩片 敬策 (排出物低減ディーゼルグループ)
古屋 達夫 (排出物低減ディーゼルグループ)
石原  章 (排出物低減ディーゼルグループ)
神埼 芳樹 (排出物低減ディーゼルグループ)
論文の要旨

(1) ベースエンジンとターボコンパウンドエンジンの熱勘定



【注目点 及び コメント】

 本論文の図2には、定格点(=エンジンの最高出力点)におけるベースエンジンとターボコンパウンドエンジンの熱
勘定が示されている。それによるとベースエンジンとターボコンパウンドエンジンの熱勘定は、以下の通りである。

エンジンの種類
熱勘定の項目
熱勘定の割合
軸出力の割合
ベースエンジン
エンジン出力
40.7 %
40.7 %
ターボコンパウンド
エンジン
エンジン出力
38.5 %
43.0 %
回生タービン出力
4.5 %

 
 ターボコンパウンドエンジンの出力:38.5 %は、ベースエンジンの出力:40.7 %より 2.3%少ない。これは、回生タ
ービンのノズル絞りによる抵抗のために過給機タービンの入り口圧力=排気マニホールド圧力の上昇により、エンジ
ン本体の熱効率が低下した結果である。このことは、ターボコンパウンドエンジンでの避けられない特性である。しか
し、ターボコンパウンドエンジンでは、回生タービンによって排気ガスから4.5%の出力が回収される。このため、ター
ボコンパウンドエンジンの軸出力は、(エンジン出力:38.5 %)+(回生タービン4.5%)=43.0 %となり、ベースエンジ
ンの軸出力40.7 %より改善できていることが判る。

 このように、このJPEC論文では、ターボコンパウンドエンジンの軸出力の定格点(=エンジンの最高出力点)の
効率(=熱勘定)は43.0%に増加し、ベースエンジンの熱効率(=熱勘定)より2.3%の増加(=燃費比較では5.6%)
の改善が得らることが示されている。因みに、前述の三菱重工のターボコンパウンド論文での定格点(仮仕様=B
点)の燃費改善は、4.6%であった。これらJPEC論文と三菱重工論文のターボコンパウンドエンジンの軸出力の定格
点の燃費改善は、5%前後でほぼ一致しているようだ。これらのことから、ターボコンパウンドエンジの定格点(=エン
ジンの最高出力の運転条件)の燃費は、ベースエンジンの燃費よりも5%前後の改善が可能と考えて間違いないよう
だ。

 このように、定格点(=エンジンの最高出力点の運転条件)の限られたエンジン運転でのターボコンパウン
ドエンジの燃費は、ベースエンジンに比べて5%前後の十分な燃費改善が可能である。しかし、最大トルク
のエンジン運転状態でのターボコンパウンドの燃費改善は、ベースエンジンに比べて2%前後の燃費改善
がやっとのことだ。その上、残念なことに、肝心要の大型トラックの重量車モード燃費や実走行での使用頻
度の高い中速回転の部分負荷でのエンジン運転状態においては、ターボコンパウンドエンジは、ベースエン
ジンよりも1%未満の燃費改善しか実現できないと推察される。このように、ターボコンパウンドの技術は、大
型トラックの重量車モード燃費を1%未満しか向上できないため、大型トラックの燃費を改善する技術として
は失格と考えるべきである。


4 大型トラックの重量車モード燃費の改善技術についての学者・専門家の最近の著述

 現在の日本のトラック業界においては、前述の表1に示したように、各トラックメーカは、大型トラック・トラクタの多くの
車種が2015年度重量車燃費基準に不適合の状況である。各トラックメーカが晴れてこの状況から脱出できるようにな
るためには、重量車モード燃費を5%程度の燃費が改善できる技術を開発し、実用化する必要がある。勿論、現時点
では各トラックメーカともこのよううな燃費改善が開発できていないからこそ、大型トラックの一部の車種は2015年度重
量車燃費基準に未達成のまま販売し続けざるをえないものと考えられる。

 このように、現在は、大型トラックの重量車モード燃費の改善が技術的に行き詰まりの状況に陥っているようだ。これ
に対し、大型トラックの燃費改善を図るために、わが国のディーゼルエンジン関係の学者・専門家は、如何なる技術が
有効であるとの見解や見通しを持たれているのであろうか。それを探るため、大型トラックの燃費改善についての学
者・専門家の最近の著述を以下にピックアップした。
 
4−1 「自動車技術」誌(2011年9月発行)における大聖教授(早稲田大学)の主張

 2011年9月発行の「自動車技術」誌(Vol.65,No.9,2011)において、早稲田大学の大聖教授は「自動車用エンジン技術
の現状と将来」と題した論文を発表されている。その中の「3.2. 重量車の燃費改善」の項においてターボコンパウンド
の技術について記述されているので、その内容を以下の表4に紹介する。

表4 ターボコンパウンドについての大聖教授の御意見(自動車技術」誌2011年9月号での記載内容)
項 目
内 容
論文の題目と著者




著者:早稲田大学教授 大聖 泰広 氏

出典:「自動車技術」誌(Vol.65,No.9,2011)
本論の一部

 上記の表4に示したように、 自動車技術」誌2011年9月号の「自動車用エンジン技術かはの現状と将来」の論文で
は、3.2. の項において「重量車の燃費改善」についての「現状と将来」について記載されている。この項では、大聖教授
は、重量車モード燃費の測定方法を詳しく説明し、2015年度重量車燃費基準の達成と2016年の排出ガス規制強化と
のトレードオフの克服の必要性にも言及されている。それに続いて、重量車(トラック・バス)の燃費改善技術として「タ
ーボ過給機の多段化」と「ターボコンパウンド」や「ランキンサイクル」および「熱電素子」による「排気ガスのエネルギー
を出力軸や電気エネルギーとして蓄電池に回収する技術が示されている。そして、排気ガスのエネルギー回生によっ
て重量車(トラック・バス)は、「おおむね2%から10%の燃費改善が可能」と主張されているのである。

 この論文で大聖教授は、重量車(=大型トラック等)の燃費改善の手段として、「ターボ過給機の多段化」と「排気ガス
のエネルギー回生」を推奨され、「排気ガスのエネルギー回生によって2%から10%の改善が可能」と主張されてい
る。しかし、前述の2 項に示したとおり、NEDOの「超高度燃焼制御エンジシステムの研究開発」では、「ターボ過給機
の多段化」が組み込まれているにもかかわらず、燃費が悪化している結果が発表されているのである。このことから、
大聖教授が燃費改善の手段として挙げられている「ターボ過給機の多段化」は、大型トラック(=重量車)の燃費改善
が難しいと考えられる。

 また、大聖教授は、「排気ガスのエネルギー回生によって2%から10%の改善が可能」と主張されているが、この燃
費改善の数値は、重量車モード燃費の燃費改善か?若しくはエンジンの特定のトルクと回転速度の燃費改善か?に
ついては明記されていない。そこで、この2%から10%の燃費改善が、仮にエンジンの特定のトルクと回転速度の燃
費改善の数値は、前述の図3に示した三菱重工論文の等燃費曲線比較図におけるターボコンパウンドによる燃費改
善の割合(仮仕様の定格点B点:4.2%、定格点C点:10%、X領域:2.4%)と偶然にも良く一致していようだ。しかし、ター
ボコンパウンドにより、仮仕様の定格点B点で、4.2%、定格点C点で10%、X領域で2.4%の燃費改善が得られていて
も、不幸なことに、大型トラック等の重量車(トラック・バス)における重量車モード燃費や走行時の燃費改善は1%未満
の僅かである。このことから、この論文で大聖教授が述べられている排気ガスのエネルギー回生の方法を用いて実現
可能な2%から10%の燃費改善は、エンジンの最大トルク点やエンジン定格点のエンジン運転状態における燃費改
善のことであり、大型トラック等の重量車(トラック・バス)の重量車モード燃費や走行時の燃費向上には余り寄与できな
い燃費改善の数値を記述されていると推測される。

 また、仮に、この自動車技術」誌2011年9月号の「自動車用エンジン技術かはの現状と将来」の論文で大聖教授が
「排気ガスのエネルギー回生によって2%から10%の重量車モード燃費の改善が可能」と主張されているとした場
合には、大聖教授が如何なる引用文献等のデータを根拠に2%から10%の燃費改善を主張されているかについて是
非ともお教えいただきたいと思っている。何れにしても、「排気ガスのエネルギー回生によって2%から10%の改善が
可能」との大聖教授が主張されている燃費改善の数値は、「重量車モード燃費の燃費改善」か?、若しくは「エンジンの
特定のトルクと回転速度のポイントにおける燃費改善」か?については明記されていないのだ。そのため、自動車技
術」誌2011年9月号の大聖教授の「自動車用エンジン技術の現状と将来」の論文については、読者がターボコンパウン
ドによる燃費改善の割合を正確に把握することが困難なである。

 そうは云っても、大聖教授が「自動車技術」誌2011年9月号の「自動車用エンジン技術かはの現状と将来」の論文の
中では、3.2. 重量車の燃費改善」の項の最初の部分において、表題の「重量車の燃費」である重量車モード燃費」の
計測・計算の詳細な方法を大聖教授は詳しく説明されているのである。そして、この「重量車の燃費の計測・計算の方
法」を説明した後に、「排気ガスのエネルギーを回収する技術」によって、「おおむね2%から10%の燃費改善が可能」
と記述されている。したがって、「3.2. 重量車の燃費改善」の中に記述されている「燃費」は、「重量車モード燃費」と読者
が理解するように記述されている。ことから、この項を普通に読み下せば、この「2%から10%の燃費改善」の記述に
ついては、当然、大聖教授の主張は、「排気ガスのエネルギー回生によって2%から10%の重量車モード燃費
が改善できる」と、殆どの読者が理解しているものと考えられる。勿論、筆者も多くの読者と同様に、「大聖教授が排
気ガスのエネルギー回生によって2%から10%の重量車モード燃費の改善」を主張されているものと理解して良いと
思うが、如何なものであろうか。その場合、ターボコンパウンドによる重量車モード燃費が10%も改善することが可能
とは、筆者にはとても考えられないのである。

 ところで、図4のJE05およびWHTCの試験法における回転数・負荷頻度分布図を見ると、このJE05およびWHTCの
試験モードは、トラックの実走行データを基に作成されたエンジン運転モードである。したがって、図4のJE05および
WHTCの試験法における回転数・負荷頻度分布図の運転頻度の高い領域におけるエンジン運転条件(=トルクと回転
速度))でディーゼルエンジンの燃費が大幅に改善されていれば、トラックの実走行や重量車モード燃費が大きく向上で
きるのである。この見方でターボコンパウンドによる燃費改善の割合を示した前述の図3と、重量車(トラック・バス)
JE05およびWHTCの試験法における回転数・負荷頻度分布を示した前述の図4とを重ねて見ると一目瞭然であるが、
ターボコンパウンドによる目立った燃費改善が得られるエンジン運転(=エンジンの負荷と回転速度)の領域は、大型ト
ラックの燃費試験時や実走行時に使用されるエンジン運転条件に一致するのが図3のターボコンパウンドエンジンで
のX領域(=最大トルク付近の回転赤塗りで示された2.4%の領域)だけである。しかし、図3の赤塗りで示された燃費改
善が2.4%のX領域(=エンジンの中速回転で最大トルク近傍)は、図4のJE05およびWHTCの試験法における回転
数・負荷頻度分布図でのエンジン運転頻度が極めて少ないエンジン運転領域であることに注目すべきである。

 このことは、ターボコンパウンドのX領域の2.4%の燃費改善は、大型トラックの重量車モード燃費や走行時の燃費に
は大きく寄与しないことを意味している。つまり、この図4のJE05およびWHTCの試験法における回転数・負荷頻度分
布図での大型トラックの重量車モード燃費や走行時のエンジン運転頻度の多い領域は、図3のX領域からを外れたタ
ーボコンパウンドによる燃費改善の少ない運転領域となっているのである。このことから、ターボコンパウンドでは、大
型トラック等の重量車(トラック・バス)の重量車モード燃費の改善はできないことが明白である。したがって、ターボコ
ンパウンドによる重量車モード燃費の改善が首尾よく実現できた場合でも、精々、1%未満ではないかと推測
れる。

 以上のように、自動車技術」誌2011年9月号の「自動車用エンジン技術の現状と将来」の論文で「大聖教授が排気ガ
スのエネルギー回生によって2%から10%の重量車モード燃費の改善が可能」と主張されているとの理解を前提に筆
者の意見を述べさせていただくと、大聖教授のターボコンパウンドについての見解については、少し疑問に思うところが
ある。何故ならば、この大聖教授の「ターボコンパウンドは、2%から10%の燃費改善に有効」とする主張は、前
述の3-2項に示した三菱重工の日本機会学会論文の試験データから明らかとなった「ターボコンパウンドは、気
筒内の最高圧力を高めることなくエンジンの高出力化が可能であるが、重量車モード燃費の向上の効果は1%
未満である」との結果と大きく異なっているためである。

 ところで、大聖教授が著された自動車技術」誌2011年9月号の「自動車用エンジン技術の現状と将来」の論文では、
「3.2. 重量車の燃費改善」の項においては、「重量車(トラック・バス)の燃費改善についての現状と将来」に論じられて
いる筈である。そこで、2015年度重量車燃費基準に不適合となっている大型トラックの車種を数多く抱えて困っているト
ラックメーカの技術者は、燃費改善の技術開発の参考にするため、大聖教授の論文を期待して読まれた人も多かった
のではないだろうか。ところが、この論文の「3.2. 重量車の燃費改善」の項には、大型トラックの燃費改善の技術として
は、前述のNEDO革新的次世代低公害車総合技術開発(クリーンディーゼルプロジェクト、2004〜2009年)において燃
費改善に無効であることが実証された「ターボ過給の多段化」と、「排気ガスのエネルギー回生」の技術が記載されてい
たことに期待を裏切られ、落胆されたトラックメーカの技術者も多かったのではないだろうか。

 何はともあれ、「3.2. 重量車の燃費改善」の項において、大聖教授が「ターボ過給の多段化」と「排気ガスのエネルギ
ー回生」以外の大型トラックの燃費改善技術を何も記載されていないのは、事実である。一方、この論文の「2 ガソリン
エンジン」の「(2) 高性能化と燃費改善技術」に項では、ガソリンエンジン燃費改善に関する多種多様の技術が提示さ
れているが、しかし、ディーゼルエンジンが主体の「3.2. 重量車の燃費改善」の項において、ディーゼルエンジンを専門
とされている大聖教授が「ターボ過給の多段化」と「排気ガスのエネルギー回生」以外のディーゼル燃費改善の技術
は、何も記載されていないのである。このことから、大聖教授は、ターボコンパウンド等の「排気ガスのエネルギー回
生」は重量車(トラック・バス)の重量車モード燃費を十分に改善できることに確信を持ちのように思えるのである。そし
て、大聖教授は、ターボコンパウンド等の「排気ガスのエネルギー回生」の技術によって重量車(トラック・バス)での5%
程度の重量車モード燃費を改善し、各トラックメーカの2015年度重量車燃費基準に不適合の大型トラックの車種を一
掃できることの自信を持たれている可能性がある。そのため、大聖教授は、重量車(トラック・バス)のディーゼル燃費
改善に有効な技術として、重量車(トラック・バス)の重量車モード燃費の改善がターボコンパウンドのような「排気ガス
のエネルギー回生」の技術によって2%から10%の改善が可能」とだけを記述・提示されているように思えるのであ
る。もっとも、前述の2項の「NEDOの「超高度燃焼制御エンジシステムの研究開発」での重量車モード燃費の2%の悪
化を結果を見ると、大聖教授が重量車(トラック・バス)のディーゼル燃費改善に有効な技術の一つとして挙げられてい
る「ターボ過給の多段化」の技術は、大型トラックの重量車モード燃費を改善できないことが既に実証されていると考え
られる。

 以上のように、大聖教授がターボコンパウンドのような「排気ガスのエネルギー回生」の技術では重量車モード燃費の
2%から10%の改善が可能」との見解をお持ちであるとの推測が、仮に事実であれば、この大聖教授の見解は、前述
三菱重工 土佐氏の機会学会論文におけるターボコンパウンドによる重量車モード燃費の改善が1%未満の重量車
モード燃費であることの結果から大きく乖離していることになる。そのため、筆者は、大聖教授の「排気ガスのエネルギ
ー回生」の技術では2%から10%程度の重量車モード燃費の改善が可能」との見解には、全く同意できないのであ
る。したがって、自動車技術」誌2011年9月号の「自動車用エンジン技術の現状と将来」の論文において、試験データの
根拠を示されずにターボコンパウンドのような「排気ガスのエネルギー回生」の技術によって2%から10%の燃費改善
(=重量車モード燃費の改善と推測)が可能」との大聖教授の御意見には、筆者は疑問に思えて仕方が無い。

 また、「ターボ過給の多段化」は、エンジンの低速トルクの向上と全負荷トルク(=4/4負荷トルク)付近の燃費改善に
は有効であるが、部分負荷での十分に燃費を改善できる機能は無い。したがって、エンジン部分負荷の運転頻度が高
い燃費試験のJE05モードにおいては、「ターボ過給の多段化」による重量車モード燃費の十分な改善は、困難であるこ
とは明らかだ。

 このように、、自動車技術」誌2011年9月号の「自動車用エンジン技術の現状と将来」の論文では、トラックメーカが大
型トラックの重量車モード燃費の改善ができないために2015年度重量車燃費基準に不適合の多数の車種を市販し続
けている現状にもかかわらず、大聖教授は大型トラック(=重量車)の重量車モード燃費を向上できる技術を何も記載
されていないのである。そして、辛うじてディーゼルエンジンの全負荷時の燃費改善が可能な「ターボ過給の多段化」と
「排気ガスのエネルギー回生」が記されているだけだ。このことから、大聖教授は大型ディーゼルトラックの重量車モー
ド燃費を十分に改善できる技術の知見をお持ちでないような印象を筆者は受けるのである。何故ならば、仮に、大聖教
授がディーゼルエンジンの重量車モード燃費を十分に改善できる幾つかの技術情報をお持ちであれば、「2 ガソリンエ
ンジン」の「(2) 高性能化と燃費改善技術」に項と同様に、「3.2. 重量車の燃費改善」の項には、幾つかのディーゼルエ
ンジンの燃費が改善できる技術情報を記述されている筈と考えられるからだ。

 因みに、自動車技術会発行の「自動車技術」誌Vol.64、No1、2010(2010年1月1日発行)の飯田訓正 慶応大教授 
他3名著「ディーゼルエンジンこの10年」にはディーゼルエンジンのCO2削減が「大きな挑戦課題」と断定し、この「課
題達成」には「従来のディーゼルエンジンの要素システムに加え、燃料、燃焼、触媒の研究、システム制御の統合化技
術が求められている」と記載されており、ディーゼルエンジンの性能・排出ガスにかかわるほとんど全ての要素・項目の
改良とそれらの連携した最適制御が必要とする旨が記載されているのだ。これを逆の言い方で端的に著わすと、現時
点ではディーゼルエンジンの燃費削減(=CO2削減)は、「技術的に八方塞がりの状況」にあるとの意味に理解できる
のである。このように、この飯田教授の論文では、CO2削減(=燃費削減)の必要性を訴えられているが、CO2削減
(=燃費改善)の具体的な技術が何も示唆されていないのである。

4−2 「自動車技術」誌年鑑(2011年8月発行)におけるいすゞ自動車の柿原氏の主張

また、自動車技術誌2010年8月号(Vol.65、N0.8、2011)の特集:年鑑 「ディーゼルエンジン」(著者:いすゞ自動車梶@
柿原智明 氏)の「4 研究開発の動向」には、現時点のディーゼルエンジンの排出ガスと燃費を削減するための最近
の技術動向がまとめられている筈であるため、この年鑑の「4 研究開発の動向」を下記の表5に示した。しかし、い
すゞ自動車の柿原智明氏は、ディーゼルエンジンにおける「排出ガス削減」、「燃費改善」の課題を解決する技術を具
体的に何も記載されていないことから、トラックメーカは、現時点ではディーゼルエンジンにおける「NOx削減」と
「燃費改善」が技術的に手詰まりの状況であると考えて、大きな間違いは無いものと推察される。

表5 自動車技術誌2011年8月号「ディーゼルエンジン」の「4 研究開発の動向」についての筆者の疑問
自動車技術誌2011年8月号(Vol.65、N0.8、2011)
特集:年鑑 「ディーゼルエンジン」の
「4 研究開発の動向」
(著者:いすゞ自動車梶@柿原智明 氏)
「4 研究開発の動向」についての疑問
 自動車技術誌2011年8月号の特集:年鑑 「ディーゼルエン ジン」の「4 研究開発の動向」では、いすゞ自動車の柿原智明 氏は、今後、「排出ガスを含めたエンジン諸性能と燃費低減の 両立」を図るための有効な新たな技術として、「さらなる燃焼効 率改善を目指した研究開発」と記載されているだけである。そし て、この燃焼効率改善の外の排出ガス低減と燃費改善の方法 としては、既に実用化されているアイドルストップ、可変容量オ イルポンプ、水ポンプ等の装置制御を挙げ、そして、市販車に搭 載の既存技術を「熟成」すると述べられている。

 しかし、既存技術の改良は、エンジン全体で常に実施される べき内容であり、排出ガス削減と燃費改善に関連した技術だけ に限定されるものではない。したがって、自動車技術誌の年鑑 の「4 研究開発の動向」に特に記述する必要の無い内容と考 えられる。

 また、そもそもディーゼルエンジンは内燃機関であるため、燃 焼改善が必要なことは、このエンジンの誕生以来の宿命であ り、そして課題でもある。したがって、自動車技術誌の読者が知 りたいことは、燃焼改善を可能にする具体的な新しい技術であ るが、柿原智明氏は「4 研究開発の動向」では、燃焼改善の 具体的な技術を何も記載されていないのだ。

 したがって、いすゞ自動車の柿原智明氏は、左記の「4 研究 開発の動向」では、ディーゼルエンジンにおける「排出ガス削 減」、「燃費改善」および「燃焼改善の必要性」の課題を述べら れているだけであり、研究開発の動向である課題を解決する技 術の内容が何も記載されていないのだ。したがって、左記の「4  研究開発の動向」の項は、紙面の無駄使いと考えられる。

 以上のように、トラックメーカの技術者である柿原智明氏は、 「4 研究開発の動向」では、ディーゼルエンジンにおける「排出 ガス削減」、「燃費改善」の課題を解決できる新しい技術を具体 的に何も記載できなかったようだ。そのことから、トラックメーカ は、現時点ではディーゼルエンジンにおける「NOx削減」と 「燃費改善」が技術的に手詰まりの状況であると考えて、大 きな間違いは無いものと推察される。

 このように、いすゞ自動車の柿原智明氏が、この年鑑での「4  研究開発の動向」の項において、ディーゼルエンジンにおける 「排出ガス削減」、「燃費改善」の課題を解決する技術を具体的 に何も提示できなかったことから、トラックメーカにおけるディー ゼルエンジンの「NOx削減」と「燃費改善」の手段・技術が完全 に枯渇している証拠を無意識に暴露してしているように思える のである。これは筆者の偏った見方であろうか。

 もっとも、いすゞ自動車が最近流行のターボコンパウンドの研 究開発を行っているとすれば、いすゞ自動車の社員としての機 密保持の立場から、柿原智明氏はこの年鑑の「4 研究開発の 動向」の項にディーゼルの「燃費改善」の新しい技術として、タ ーボコンパウンドを記載できなかった可能性も否定できない。し かし、仮に、この年鑑にターボコンパウンドを記載していたとして も、ターボコンパウンドがディーゼル燃費の十分な燃費改善に は無効な技術のため、いすゞ自動車の柿原智明氏は、この年 鑑でディーゼルエンジンにおける「燃費改善」の課題を解決する 技術を実質的に何も記載されていないことに変わりは無いと考 えられる。

 以上のように、いすゞ自動車の柿原智明は、自動車技術誌2010年8月号(Vol.65、N0.8、2011)の特集:年鑑 「ディー
ゼルエンジン」(著者:の「4 研究開発の動向」には、ディーゼルエンジンにおける「排出ガスの削減」、「CO2削減」およ
び「燃費改善」の課題が示されているが、それらの課題を解決する方法としては「熟成」と称する「従来技術の改良」し
か述べられていない。現行技術の改良は、トラックメーカがトラック生産を続けている限り、当然、誰もが行うべき日常
業務である。そして、そのような現行技術の改良だけではディーゼルエンジンの十分な燃費改善を実現すると云う重要
な課題を解決することは、到底、不可能なことであることである。それにもかかわらず、この年鑑では、いすゞ自動車の
柿原智明がディーゼルエンジンの課題解決に貢献できそうな新しい技術を何一つ提示されていないところを見ると、現
時点でトラックメーカは、「NOx削減」と「燃費改善」が技術的に手詰まりの状況にあるものと推察される。

 しかも、現在、多くのトラックメーカでは、2015年度重量車燃費基準に不適合となっている大型トラックの車種を数多く
抱えているのだ。そのため、トラックメーカは、ディーゼルエンジンの十分な燃費改善を実現できる技術を早期に実用
化することが、待ったなしの開発テーマの筈と考えられる。しかし、現時点でトラックメーカでは十分な「燃費改善」を可
能にする新しい技術が何も見い出せずに技術的に「お手上げ状態」であるとすれば、トラックメーカのエンジン技術者
のストレスは、最高潮に達しているものと推測される。

 4−3 交通研のスーパークリーンディーゼルエンジン研究における燃費向上

 独立行政法人 交通安全環境研究所では、表6にしたように、2010年11月24(水)・25日(木)に「交通安全環境研究
所フォーラム2010」と称する技術発表の講演会が開催されたようだ。この講演会には、我が国を代表する多数の交
通関係の学者・専門家が出席され、今後の普及が期待される次世代自動車についての技術発表とそれらに関する議
論が行われたとのことである。

表6 (独)通安全環境研究所が2010年11月24(水)・25日(木)に開催した技術発表の講演会
(出典 : http://www.ntsel.go.jp/forum/forum2010.html
項 目
内 容
講演会の名称
および
その主宰団体


 この独)通安全環境研究所の講演発表会では、「スーパークリーンディーゼル(SCD)エンジンにおける新展開」と題
した大型トラック用ディーゼルエンジンの燃費向上を狙った研究開発の論文が報告されている。この論文を拝読させて
いただいたところ、記述の内容に多くの疑問点が目に付いたので、表7にまとめた。

表7 通安全環境研究所の大型トラック用ディーゼルエンジンの燃費向上の論文における疑問点
「交通安全環境研究所フォーラム2010」での発表論文
備考 または 疑問点

題目
スーパークリーンディーゼル(SCD)エンジンにおける新展開

著者
環境研究領域 : 鈴木 央一、石井 素、川野 大輔
   新エィシーイー : 青柳 友三 

(出典:http://www.ntsel.go.jp/forum/2010files/10-06p.pd
              
独)通安全環境研究所と新エィシーイーとの共著

(表1のベースエンジンは日野自動車のPC11型と推定)
















 左記の交通安全環境研究所の「スーパークリーンディーゼル (SCD)エンジンにおける新展開」の論文(以後、「交通安全環境 研究所のSCDエンジン論文」と称す)では、左記の「図3 SCDエ ンジンシステム構成図」に示されているように、以下の技術が組 み込まれている。

2段シーケンシャル過給機
高圧コモンレール(=260MPa)
LP-EGRの採用によるEGR制御の高度化
等々

 そして、左記の交通安全環境研究所のSCDエンジン論文の図 3のシステムでは、1000rpm以下の低速でのエンジントルクアッ プにより、JE05モード燃費が0.5〜1.0%程度の改善であったと のこと。この程度の燃費改善は燃費測定の際に生じる測定誤差 の範囲に過ぎない。したがって、この程度の燃費改善を論文に 誇らしげに記載することは、如何なものであろうか。

 一方、本ページの 【14−1 NEDOの「超高度燃焼制御エンジ システムの研究開発」では、燃費悪化の大失敗】 の項で示して いるように、8億円以上の予算で実施されたNEDOといすゞ中央研 究所の革新的次世代低公害車総合技術開発(クリーンディーゼ ルプロジェクト、2004〜2009年)の「超高度燃焼制御エンジシス テムの研究開発」の大型プロジェクトでは、大型トラック用ディー ゼルエンジンに以下の技術を組み込んだシステムによるNOx削 減と燃費改善の研究開発が既に実施されている。

3段過給システム(高平均有効圧化)
300MPaの超高圧燃料噴射(高平均有効圧化)、カムレス システムを組み込んた「PCI燃焼」(PCI燃焼=HCCI燃焼)

 このNEDOの研究開発では、14−1項の図16に示したように、 燃費削減は目標の10%削減には全く及ばず、2015年度重 量車燃費基準に対して2%の悪化が確認された。このよう に、NEDOのクリーンディーゼルプロジェクトは、ディーゼルの燃費 改善について完全に失敗であったことが報告されているのであ る。

 さて、交通安全環境研究所のSCDエンジン論文に記載されて いる左記の「図3 SCDエンジンシステム構成図」に盛り込まれ た主要な技術は、前述の8-1項で示したディーゼルの燃費改善 について完全に失敗したNEDOの革新的次世代低公害車総合技 術開発(クリーンディーゼルプロジェクト、2004〜2009年)の「超 高度燃焼制御エンジシステムの研究開発」と類似の技術が殆ん どである。そのため、交通安全環境研究所の「図3 SCDエンジ ンシステム構成図」に盛り込まれた技術によってディーゼルエン ジンの十分な燃費改善は、全く期待できないことは明白でであ る。そして、左記の交通安全環境研究所のSCDエンジン論文で は、JE05モード燃費が0.5〜1.0%程度の改善しか得られなかっ たと記載されていることは、当然の結果ではないかと考えられ る。

 ところで、交通安全環境研究所の鈴木央一氏、石井素氏、川 野大輔氏および新エィシーイーの青柳 友三氏は、左記の交通安 全環境研究所のSCDエンジン論文では、「図3 SCDエンジンシ ステム構成図」の技術によって、今後、「過給機効率の向上や空 気量増加で燃費マップを改善し、左記の図3のシステムで5%以 上(JE05モード)の燃費改善を目指す」と記載されている。しか し、筆者にはこのようなことが実現できるとはとても考えられない のだ。なぜなら、過給機の効率が向上は、熱膨張の無いタービ ンやブロアの材料が開発できた場合に初めて給気や排気ガスの 漏れを完璧に防止できる場合や、タービン羽根を極薄できる材料 や精密鋳造の技術が開発できた場合において、初めて実現でき ることである。これらの過給機関係の技術が、今後、飛躍的に発 展しない限り、近い将来に過給機の効率が大きく向上できる可 能性は全く無いと考えるのが妥当である。また、JE05モードで はエンジン部分負荷領域での運転比率が高いため、JE05モー ドの十分な燃費向上には、部分負荷領域での燃費改善が必要 である。元来、ディーゼルエンジンは部分負荷では著しい空気過 剰の状態で運転されるのである。それにもかかわらず、左記の 交通安全環境研究所のSCDエンジン論文では、空気量の増加 で燃費マップを改善できると主張されている根拠が筆者には良く 理解できないところである。したがって、左記の論文において、交 通安全環境研究所の鈴木、石井、川野の諸氏および新エィシー イーの青柳氏は、「過給機効率の向上や空気量増加で燃費マッ プを改善し、左記の図3のシステムで5%以上(JE05モード)の 燃費改善を目指す」と記述されているが、合理的な燃費改善の 技術が具体的に何も示されていないのである。したがって、左記 の論文における「5%以上(JE05モード)の燃費改善」の述は、 著者の単なる希望を述べているだけであり、ディーゼルエンジン の十分な燃費改善が実際に実現できる可能性は全く無いと思っ ている。

 しかし、筆者の予想に反し、交通安全環境研究所の鈴木央一 氏、石井素氏、川野大輔氏および新エィシーイーの青柳 友三氏 が、左記の論文に記載されているように、「図3 SCDエンジンシ ステム構成図」の技術を用いて「過給機効率の向上や空気量増 加で燃費マップを改善し、左記の図3のシステムで5%以上(JE 05モード)の燃費改善を目指して開発を進める」ことによって、大 型トラック用ディーゼルエンジンの燃費を5%以上もの改善が仮 に実現できたとすれば、それは魔法を超える程の偉業であると 云えるのではないだろうか。

 果たして、交通安全環境研究所の鈴木央一氏、石井素氏、川 野大輔氏および新エィシーイーの青柳 友三氏は、本当にディー ゼル燃費を改善する現在の魔術師の人達であるのか、それと も、これまで口三味線を駆使して研究予算を獲得してきた単なる ペテン師・詐欺師に類する人達であるのかは、今のところ不明で ある。何はともあれ、交通安全環境研究所の鈴木央一氏、石井 素氏、川野大輔氏および新エィシーイーの青柳 友三氏が燃費改 善の魔術師か、若しくはペテン師・詐欺師かの何れであるかは、 近い将来には明らかになることであり、筆者には興味深々であ る。この結果が楽しみだ。

ところで、左記の論文は、多くの大型トラックが2015年度重量車 燃費基準に適合している2010年11月24(水)・25日(木)に開催 されている「交通安全環境研究所フォーラム2010」でが発表さ れている。このことから、左記の論文の読者は、この論文のベー スエンジン(日野自動車のPC11型と推測)の重量車モード燃費 値は、2015年度重量車燃費基準に適合している燃費レベルと考 えているものと推測される。しかし、左記の交通安全環境研究所 の「スーパークリーンディーゼル(SCD)エンジンにおける新展開」 の論文では、大型トラック用のベースエンジン(日野自動車の PC11型と推測)の重量車モード燃費値が2015年度重量車燃費 基準に適合している旨が何も記載されていないようだ。このこと から、左記の論文のベースエンジン(日野自動車のPC11型と推 測)の燃費値(例えばJE05モード燃費)として劣った値が計測さ れたと記載しておけば、左記の「図3 SCDエンジンシステム構 成図」で如何なる燃費値が計測されようとも、この左記の「図3  SCDエンジンシステム構成図」の技術を用いて「過給機効率の 向上や空気量増加で燃費マップを改善し、左記の図3のシステ ムで5%以上(JE05モード)の燃費改善が実現できた」と論文に 記載しても何の誤りも生じないことになるのである。要は、ベース エンジン(日野自動車のPC11型と推測)が10年以上も古い型の エンジンのため、燃費の悪いベースエンジンであることを記載し ておけば、「図3 SCDエンジンシステム構成図」の技術を用いる ことによってJE05モードでの5%や10%の燃費改善の試験結 果を示すことは、極めて簡単なことである。勿論、このような手法 でまとめられた論文は、ディーゼルエンジンの燃費向上の技術的 な進歩に寄与しないことは当然である。そして、このような方法 は、詐欺師やペテン師が日常茶飯事に用いる手法だ。しかし、 日本を代表する学者・専門家である交通安全環境研究所の鈴木 央一氏、石井素氏、川野大輔氏および新エィシーエーの青柳 友 三氏が発表される論文においては、このような詐欺やペテンに類 する手法を駆使して論文を作成されることは、常識的には一切な いものと考えられるが・・・・・・。
 前述の「2.ディーゼルエンジンにおける排出ガス低減と燃費改 善」に記載している通り、 ターボコンパウンドの排熱回収タービン の入口の排気ガスは低温・低圧であるため、排気ガスのエネル ギーのポテンシャルが低い。そのため排気ガスの体積流量が多 く、回収タービンは大型化が必要となる。その結果コストが高く、 且つ車両搭載も容易なことではない。また、燃費改善は、高負荷 時に限定される上に、その高負荷領域における燃費が0〜1. 5%程度の改善を得られるだけである。したがって、ターボコンパ ウンドによる重量車モード燃費値の改善は、高負荷領域におけ る燃費改善の半分以下、即ち0〜0.7%以下ではないかと推測 される。

 したがって、このターボコンパウンドの技術は、燃費向上では無 く、筒内最大圧力を上昇させること無く出力が増加できる手段で あることが最大の特長である。以上の内容がターボコンパウンド 技術についての世界の大型トラック業界における現状認識であ る。そして現在、ボルボ、デトロイトディーゼルの大型トラック用エ ンジンに採用されている。

 さて、左記の交通安全環境研究所のSCDエンジン論文におい て、交通安全環境研究所の鈴木央一氏、石井素氏、川野大輔 氏および新エィシーエーの青柳 友三氏はターボコンパウンドの 採用によって1〜3%程度の燃費改善(他の個所で全負荷時に 10%の燃費改善と記載されているため、この1〜3%程度の燃 費改善はJE05モードと推測)と記述されている。左記の交通安 全環境研究所のSCDエンジン論文における1〜3%程度の燃費 改善の試算結果は、世界の一般情報に比べて数倍の燃費改善 であり、この試算に用いられた排熱回収タービンのタービン効率 として非現実的な高い効率を用いて計算されたものと推測され る。この非現実的な高いタービン効率を用いた性能計算では、燃 費を低く算出できるのである。その昔、ターボエンジンの性能シ ュミレーション計算を日常的に行っていた元技術屋の筆者から見 れば、非現実的な高いタービン効率を用いたエンジン燃費の計 算は、間違いなく詐欺行為であり、技術者としての良心の欠落を 如実に示す行為と考えている。

 そもそも、今後のディーゼルトラックにターボコンパウンドを搭載 する場合は、過給機の排気タービンから排出された低温の排気 ガスから回収タービンによってエネルギーを回収することになる。 したがって、回収タービンでのエネルギー回収は低い効率となら ざるをえないのである。したがって、そのような宿命を負ったター ボコンパウンドを用いてディーゼルエンジンの燃費を改善しようと することは、困難であることが明らかだ。そのため、左記の交通 安全環境研究所のSCDエンジン論文において、交通安全環境研 究所の鈴木央一氏、石井素氏、川野大輔氏および新エィシーエ ーの青柳 友三氏がターボコンパウンドをディーゼルエンジンの燃 費改善の手段と認識されていることは誤りと考えられる。因み に、海外ではターボコンパウンドは筒内最大圧力を上昇させるこ と無く出力が増加できる手段と理解されており、この方が正しい 認識のように考えられる。

 ところで、ターボコンパウンドを用いてディーゼルエンジンの燃 費を少しでも改善する方法は、筆者は、前述の8−3項「AVLの 講演でも燃費改善の具体的な提案」にも記載しているように、大 型ラックの走行で多用されるディーゼルディーゼルエンジンの部 分負荷運転時の排気ガス温度の高温化を図ることが必要であ る。このエンジン部分負荷時の排気ガス温度の高温化を図る方 法として、筆者提案の気筒休止エンジン(特許公開2005- 54771)の特許技術を用いることが有効である。したがって、交通 安全環境研究所の鈴木央一氏、石井素氏、川野大輔氏および 新エィシーエーの青柳 友三氏がターボコンパウンドよる燃費 (JE05モード燃費または重量車モード燃費)を少しでも改善した いとのお考えをお持ちであれば、躊躇なく左記の交通安全環境 研究所のSCDエンジンに筆者提案の気筒休止エンジン(特許公 開2005-54771)の技術を採用すべきである。
 
 左記の交通安全環境研究所のSCDエンジン論文においては、 SCDエンジンに組み込まれた各種の燃費削減の技術と、それぞ れの技術における燃費改善の目標が明記されており、それらを 纏めると以下の通りである。(なお、各技術のそれらの燃費改善 の目標は、文脈から推察すると、何れもJE05モードの燃費と予 測される。)

2段シーケンシャル過給機
  燃費改善=5%

超高圧コモンレール(=260MPa)
  燃費改善=3〜5%

排熱回収システム(=ターボコンパウンド)
  燃費改善=1〜3%

以上のように、左記の交通安全環境研究所のSCDエンジン論文 では、最近、話題となっている目新しい技術は、大幅な燃費改善 が可能と考えられような記述で満たされている。これを見ると、 「バナナのたたき売り」を連想させるような燃費改善技術の「大安 売り」の様相を呈している。その極め付きは、左記の交通安全環 境研究所のSCDエンジン論文の「5 ま と め」では、「2段シーケ ンシャル過給機」+「排熱回収システム」+「超高圧コモンレー ル」によって大型トラック(GVW25トン)の2015年度重量車燃費 基準を10%も燃費向上した4.5 km/リットルの重量車モード燃 費が平成23年度に実現できると宣言されていることではないだ ろうか。著者の交通安全環境研究所の鈴木央一氏、石井素氏、 川野大輔氏および新エィシーエーの青柳 友三氏の諸氏は、平 成23年度に左記の交通安全環境研究所のSCDエンジン論文の 「5 ま と め」に記載された大型トラックの燃費向上の目標(=重 量車量車モード燃費: 4.5 km/リットル)を本当に実現できる考 えられているのであろうか。因みに、筆者はこの目標達成が挫折 する可能性が極めて高いと思っている。

 なぜならば、NEDOの革新的次世代低公害車総合技術開発(ク リーンディーゼルプロジェクト、2004〜2009年)の「超高度燃焼制 御エンジシステムの研究開発」では、「多段過給システム」+ 「超高圧コモンレール」を搭載したディーゼルでは既に燃費改善 の困難なことが確認されているのである。また、「ターボコンパウ ンドシステム」については、このシステムを搭載した大型トラック を市販しているボルボ、デトロイトディーゼル等からは「ターボコン パウンドでは燃費改善が困難」との情報が発信されているので ある。これらのことから、「2段シーケンシャル過給機」&「排熱回 収システム」&「超高圧コモンレール」の各技術は、これまでの 研究開発によって燃費改善が殆んど期待できないことが既に判 明しているのである。

 したがって、交通安全環境研究所の鈴木央一氏、石井素氏、 川野大輔氏および新エィシーエーの青柳 友三氏の諸氏は、何を 根拠にして「2段シーケンシャル過給機」+「排熱回収システム」 +「超高圧コモンレール」によっての2015年度重量車燃費基準を 10%も燃費向上した 4.5 km/リットルの重量車モード燃費の 大型トラック(GVW25トン)が平成23年度に実現できると宣言さ れているのであろうか。筆者には全く理解できないことであり、 何をか言わんや!」の心境である。

 前述の3-2項に示した三菱重工の日本機会学会論文によると、ターボコンパウンドは、気筒内の最高圧力を高めるこ
となくエンジンの高出力化が可能であるが、燃費向上の機能は少なく、その効果は僅少である。そして、ターボコンパウ
ンドによる重量車モード燃費の改善は、1%以下と推測される。そのため、以上の「交通安全環境研究所フォーラム2
010」で発表の論文「スーパークリーンディーゼル(SCD)エンジンにおける新展開」では、「2段シーケンシャル過給機」
&「排熱回収システム(ターボコンパウンド)」&「超高圧コモンレール」の技術を用いて2015年度重量車燃費基準を1
0%も燃費向上した 4.5 km/リットルの重量車モード燃費の大型トラック(GVW25トン)を平成23年度に実現する予
定と宣言されている。しかし、2段シーケンシャル過給機」&「排熱回収システム(ターボコンパウンド)」&「超高圧コモ
ンレール」の各技術は、何れもディーゼルの燃費改善の効果が殆んど期待できないシステムである。したがって、平成
23年度に重量車モード燃費が 4.5 km/リットルの大型トラック(GVW25トン)を実現する目標達成は失敗に終わるも
のと予想される。

4−4 ターボコンパウンドのよる燃費改善のAVL講演(自動車技術会2010年春季大会)

 自動車技術会の「2010年人とくるまのテクノロジー展」(2010年5月19〜21)で世界的な研究機関であるAVL(オースト
リア)のヘルムート・リスト会長が講演し、ディーゼルエンジンの燃費向上には、「コンピュータ設計技術をうまく使う」との
説明を追加して「フリクションロス(摩擦損失)の低減」と「シリンダー内の燃焼改善」のエンジン工学の教科書に記載さ
れている二つの技術項目によって25%の効率向上が可能と発表しているが、具体的な技術内容は何も示していないよ
うだ。これは、世界的な研究機関のAVLが具体的な技術内容を何も示さずに、ディーゼルエンジンの効率向上の単な
る希望を述べているに過ぎないのだ。AVLは全く寂しい内容の講演を行ったものだ。

 また、AVLは、具体的なディーゼルの効率向上の方法として「排気熱を電気エネルギーに変えるコンバーターを付け
ることで、6 - 7%ほど効率を上乗せできる」と発表しているが、これはディーゼルエンジンの排気ガスの熱エネルギー
をランキンサイクル、排気ガスタービンまたはスターリングエンジン等で動力に変換し、この動力で発電機を駆動して電
気エネルギーを回収する装置を付加したものと考えられる。この「排気熱を電気エネルギーに変えるコンバーター」は、
火力発電所や大型船舶ではディーゼルエンジンが定格出力で運転されるために常に高温の排気ガスを排出するため
に高い効率で稼働できるため、既に火力発電所や大型船舶において広く普及している装置である。しかし、大型ディー
ゼルトラックは常にエンジン出力が変動する上に部分負荷の運転で低い排気ガス温度となることが多いため、大型トラ
ックに「排気熱を電気エネルギーに変えるコンバーター」を搭載した場合には効率が著しく劣ってしまうことになる。その
ため、大型トラックにこのコンバーターを搭載しても十分な燃費の向上は難しい。したがって、AVLがこのコンバーター
の搭載によって大型トラック用ディーゼルエンジンの効率を6 - 7%ほど改善できるとの講演での発表は、大きな誤りで
はないだろうか。その理由は、前述の3-2項に示した三菱重工の日本機会学会論文によると、ターボコンパウンドは
気筒内の最高圧力を高めることなくエンジンの高出力化が可能であるが、燃費向上の機能は少なく、その効果は僅少
である。そして、ターボコンパウンドによる重量車モード燃費の改善は、1%以下と推測されるため、AVLによるターボ
コンパウンド等のコンバーターの搭載によって大型トラック用ディーゼルエンジンの効率を6 - 7%ほど改善できるとの
講演は、誤りと考えられる。 

 このAVLが推奨する「排気熱を電気エネルギーに変えるコンバーター」は、大型ラックの走行で多用されるディーゼル
ディーゼルエンジンの部分負荷運転時には排気ガス温度が低く、排気ガスの熱を電気エネルギーに変える際の効率
が劣る欠点がある。この欠点(=欠陥)を改善するためには、ディーゼルエンジンの部分負荷運転時の排気ガス温度
を高温化する新たな技術を追加することが必要である。したがって、AVLの提案のように、「排気熱を電気エネルギー
に変えるコンバーター」を単に大型トラックに搭載しただけでは、大型トラックの十分な燃費向上は望めないのである。
仮にAVLが大型トラックの燃費向上のために「排気熱を電気エネルギーに変えるコンバーター」を大型トラックに搭載す
ることを提案したいのであれば、大型ラックの走行で多用されるディーゼルディーゼルエンジンの部分負荷運転時に排
気ガス温度を高温化する技術を最初に提案すべきではないかと考えられる。ディーゼルエンジンの部分負荷運転時に
排気ガス温度を高温化できる技術を何も提示しないで「排気熱を電気エネルギーに変えるコンバーター」を大型トラック
に搭載するとのAVLの講演での提案は、筆者には愚の骨頂と思えるのだ。AVLがこのような講演発表をしているところ
を見ると、ディーゼルエンジンの燃費向上についてはAVLも技術アイデアが枯渇し、大きな壁に突き当たっているように
考えられる。そして、そのようなAVLに多くのトラックメーカが大型トラック用ディーゼルエンジンの燃費向上のコンサル
ティングを飽きもせずに受けている現状を考えると、今後の大型トラックには燃費向上に大きな期待ができないと考え
るのが妥当ではないだろうか。

 このAVL推奨の「排気熱を電気エネルギーに変えるコンバーター」が大型トラック用として実用に耐えうる高い効率で
稼働できるようにするためには、大型ラックの走行で多用されるディーゼルディーゼルエンジンの部分負荷運転時での
排気ガス温度の高温化を図ることが必要である。その方法として、このコンバータを採用する場合には、筆者提案の
筒休止エンジン(特許公開2005-54771)の特許技術を用いるこが必須と考えている。逆な言い方をすれば、AVL推奨
の排気熱を電気エネルギーに変えるコンバーターのシステムに筆者提案の気筒休止エンジン(特許公開2005-54771)
の特許技術を用いない場合には、効率の向上が望めないのである。そのため、AVLが提案する「排気熱を電気エネル
ギーに変えるコンバーター」のシステムでは、重量車モード燃費の向上が十分でなく、実用性に欠けた技術と考えられ
る。ディーゼルエンジンの熱効率の向上を図る技術として、AVLがこの「コンバーターのシステムを提案したいのであれ
ば、ディーゼルエンジンの部分負荷運転時の排気ガス温度を高温化する技術である筆者提案の気筒休止エンジン(特
許公開2005-54771)の特許技術の採用も同時に提案すべきである。

 因みに、AVLは「排気熱を電気エネルギーに変えるコンバーター」ではディーゼルエンジンの排気ガスからエネルギー
を回収して6 - 7%(重量車モード燃費?)の効率を上乗せするとの発表を行っているが、このAVL提案のコンバーター
が稼働した際の効率は極めて低いと予想されるため、このコンバーターを大型トラックに搭載した場合には、実際に大
型トラックの重量車モード燃費で6 - 7%ほどの燃費を上乗せすることは極めて難しいものと考えられる。これについて
は、AVLは無責任な効率向上の数値を発表をしているのではないかと感じている。

 また、AVLがこの講演で提案しているもう一つの効率向上の技術がエンジンダウンサイジングである。このエンジンダ
ウンサイジングは、古くから良く知られた燃費向上の技術であり、大型ディーゼルトラックのメーカがこれまで競って開
発を実施してきた技術であるため、技術的には何の目新しさも無い燃費向上の手法である。

 以上のように、世界的な研究機関であるAVLの2010年5月の講演での提案は、ディーゼルエンジンの効率向上につ
いては古典的な既知の技術に限られており、技術的な目新しさは無い。そして、大型トラックの燃費向上に実際に役立
ちそうな新しい技術が何一つ見当たらないのである。それにもかかわらず、現在、日本の多くのトラックメーカが有償で
AVLからディーゼルエンジン等の技術コンサルティングを受けているようであるが、AVLのコンサルティングのコストパ
ーフォーマンスが低いものと考えられるが、実際のところはどのようなものであろうか。

4−5 中環審の第十次答申でのディーゼル燃費の向上技術にターボコンパウンドが記載

 西暦2010年7月28日発表の中央環境審議会・大気環境部会の「今後の自動車排出ガス低減対策のあり方について
(第十次答申)」において、中央環境審議会の自動車排出ガス専門委員会の学者・専門家が作成された「第十次報告」
では、「今後、以下のような技術の進展を見込むことにより、燃費の伸びしろを確保しつつ、エンジン出口の(NOxの)
排出量を1.5g/kWh程度まで低減することは可能であると考えられる。」と記載されている。
 
 【第十次報告に列挙されている技術】
  ・ 2段過給、2段過給導入によるエンジンダウンサイジング
  ・ EGR率の向上、EGR制御の高度化、一部車種へのLP-EGRの採用
  ・ 燃料噴射圧力の向上、PCI燃焼での範囲拡大等の燃料噴射制御の高度化
  ・ 一部車種へのターボコンパウンドシステムの採用

 このように、中央環境審議会の自動車排出ガス専門委員会の学者・専門家は、「第十次報告」において、上記に列挙
された「見込んだ技術」によって大型トラック用ディーゼルエンジンの「燃費の伸びしろを確保」と称する燃費向上が期
待できると説明されている。しかし、この「燃費の伸びしろを確保」と称する燃費向上の曖昧な記述だけでは、大型トラッ
ク用ディーゼルエンジンの重量車モード燃費を何パーセントの改善が期待できるのか、或いは大型トラックの2015年度
重量車燃費基準よりも何パーセントの燃費の改善が期待できるのかについての具体的な割合(=%)は、何も記載さ
れていないのである。果たして、この「第十次報告」に列挙された技術を実用化することによって、中央環境審議会の
自動車排出ガス専門委員会の学者・専門家が期待されている重量車モード燃費が何パーセントの改善がであるかに
ついて、ご存知の方が居られれば、是非ともお教えいただきたいものである。

 この第十次報告に列挙されている技術によって大型トラックの重量車モード燃費を改善できる割合は、数%?それと
も5%程度?若しくは10%程度?の何れでであろうか。もっとも、「第十次報告」において、中央環境審議会の自動車
排出ガス専門委員会の学者・専門家が燃費改善の割合の数値を具体的な明記しないで「燃費の伸びしろを確保」との
曖昧な記述は、上記に列挙された技術」によって燃費が向上できなかった場合に、「最初から十分な燃費改善が可能
とは何処にも記載していない」言い逃れをし易くするための意図が隠されているように思えるのである。筆者の意見を
言わせていただければ、前述の3−2項に示したように、三菱重工論文の等燃費曲線から予想されるターボコンパウ
ンドによる重量車モード燃費の燃費向上の割合が1%未満であることを考えると、第十次報告に列挙されている技術
によって大型トラックの重量車モード燃費の改善は、僅かなレベルに留まるものと推測される。

5 ターボコンパウンドによる大型トラックの燃費改善を主張する最近の報告・著述・文献等

 以上にように、ターボコンパウンドは、気筒内の最高圧力を高めること無くディーゼルエンジンの高出力化が可能であ
るが、エンジン燃費の十分な向上の困難な技術である。そのため、ターボコンパウンドによる重量車モード燃費の改善
は、1%以下の程度と推察される。しかし、このターボコンパウンドが重量車モード燃費を十分に向上できない技術で
あることを不承知のためか、それとも、そのことを意図的な黙殺した結果かどうかは判らないが、最近、ターボコンパウ
ンドは大型ディーゼルトラックの重量車モード燃費を十分に向上することが可能と主張する論文・出版物・報告書を目
にする機会が急に多くになった。

 このように、重量車モード燃費を向上する技術として、多くの学者・専門家がターボコンパウンドを推奨するようになっ
た背景は、「3段過給システム}+「300MPaの超高圧燃料噴射」+「カムレスシステム」+「PCI燃焼(=HCCI燃焼)」+
「DPF」+「DeNOx触媒(=尿素SCR触媒)」の技術を組み込んだNEDOの革新的次世代低公害車総合技術開発(クリー
ンディーゼルプロジェクト、2004〜2009年)においては、NOxとPMは削減できたが、燃費が2015年度重量車燃費基準よ
りも2%も悪化することが実証されたために大型トラックの燃費向上のために推奨する技術が無くなってしまったことが
原因のように考えられる。多方面から大型トラックくのの燃費向上の技術についての示唆を求められる機会の多い
者・専門家は、燃費向上の技術の知見が枯渇していることを露見することを体裁よく隠すため、苦し紛れに燃費向上の
技術としてターボコンパウンドを推奨し始めたのではないかと思っている。

 何しろ、前述の「3 三菱重工の論文を見ると、大型トラックにおけるターボコンパウンドによる燃費向上は困難」の項
に詳述しているように、ターボコンパウンドは、ディーゼルエンジンの高出力化には有効であるが、エンジン燃費の十分
な向上の困難な技術であることが既に解明されているのである。それにもかかわらず、このような燃費改善の機能が
劣るターボコンパウンドの技術を大型トラックの燃費向上の技術として推奨する学者・専門家の考え方は、筆者には全
く理解できないものだ。参考として、以下の表8に、筆者が目にした大型トラックの燃費向上の技術としてターボコンパ
ウンドを推奨している論文・出版物・報告書をまとめた。

表8 ターボコンパウンドによる重量車モード燃費の向上を主張する論文・出版物・報告書等
項 目
内 容
@
論文・出版物等の名称
自動車技術」誌2011年9月号 (Vol.65,No.8,2011)
題 目
「自動車用エンジン技術の現状と将来」
著 者
早稲田大学教授 大聖 泰広 氏
ターボコンパウンドを

推奨する記載の内容
「3.2. 重量車の燃費改善」
・・・・・・ 燃費改善技術としては、ターボ過給機の多段化に加えて、排気タービンを出
た排気をさらに膨張させた際の動力を出力軸に戻すメカニカルターボコンパウンドシス
テム ・・・・・・ これらはおおむね2%から10%程度の燃費改善が可能 ・・・・・・・
A
論文・出版物等の名称
環境省・中央環境審議会・大気環境部会 (2010年7月28日発表)
題 目
「今後の自動車排出ガス低減対策のあり方について」
(第十次報告)
著 者
中央環境審議会
自動車排出ガス専門委員会
ターボコンパウンドを

推奨する記載の内容
【第十次報告に列挙されている技術】
  ・ 2段過給、2段過給導入によるエンジンダウンサイジング
  ・ EGR率の向上、EGR制御の高度化、一部車種へのLP-EGRの採用
  ・ 燃料噴射圧力の向上、PCI燃焼での範囲拡大等の燃料噴射制御の高度化
  ・ 一部車種へのターボコンパウンドシステムの採用
B
論文・出版物等の名称
(独)通安全環境研究所と新エィシーイーとの共著
題 目
「スーパークリーンディーゼル(SCD)エンジンにおける新展開」
著 者
通安全環境研究所 : 鈴木 央一
通安全環境研究所 :石井 素
通安全環境研究所 :川野 大輔
新エィシーイー : 青柳 友三
ターボコンパウンドを

推奨する記載の内容
2段シーケンシャル過給機
排熱回収システム(=ターボコンパウンド)
超高圧コモンレール式燃料噴射システム
2015年度重量車燃費基準を10%向上した 4.5 km/リットルの燃費が目標
C
論文・出版物等の名称
自動車技術会の「2010年人とくるまのテクノロジー展」
(2010年5月19〜21)
題 目
AVL(オーストリア)のヘルムート・リスト会長の講演
著 者
AVL(オーストリア)の会長 : ヘルムート・リスト 氏
ターボコンパウンドを

推奨する記載の内容
具体的なディーゼルの効率向上の方法として「排気熱を電気エネルギーに変えるコ
ンバーター(=ターボコンパウンド等のこと)を付けることで、6 - 7%ほど効率を上
せできる」と発表


 そもそも、大型トラック用ディーゼルエンジンに関して「燃費向上する技術」として推奨する場合には、大型トラックの
「実際の走行燃費(=実走行燃費)」や「重量車モード燃費」が向上できる技術を推挙すべきであることは、当然のこと
ながら専門家であれば誰もが熟知していることである。そして、大型トラックの「実際の走行(=実走行)」や「重量車モ
ード燃費の計測試験」におけるエンジン運転頻度の僅少のエンジン運転状態である「エンジンの定格点(=エンジンの
最高出力点の運転条件)」や「エンジンの最大トルク点」のポイントにおけるに「エンジン燃費を向上する技術」は、大型
トラック用ディーゼルエンジンに関して「燃費向上する技術」としては失格であることも十分に心得ている筈だ。何故なら
ば、エンジンの定格点(=エンジンの最高出力点の運転条件)」や「エンジンの最大トルク点」のポイントにおけるに「エ
ンジン燃費を向上する技術」は、大型トラックの「実際の走行燃費(=実走行燃費)」や「重量車モード燃費」を殆ど向上
できないことが明らかなためだ。

 一方、ターボコンパウンドは、エンジンの定格点(=エンジンの最高出力点の運転条件)」でのターボコンパウンドエ
ンジの燃費改善が5%前後であり、「エンジンの最大トルク点」でのターボコンパウンドの燃費改善が2%前後に過ぎな
い技術である。そして、エンジンの部分負荷(=エンジンの3/4負荷以下)では、ターボコンパウンドは、ベースエンジ
ンよりも0%〜1%未満の燃費改善にしか過ぎない技術である。したがって、大型トラックの「重量車モード燃費のエン
ジン運転」や「実走行のエンジン運転」においてエンジン運転頻度の高いエンジンの中速(=最大トルク付近のエンジン
回転速度)の中負荷では、ターボコンパウンドエンジは、ベースエンジンよりも1%未満の燃費改善しかに過ぎない技術
である。したがって、大型トラック用ディーゼルエンジンにターボコンパウンドを装着しただけでは、ターボコンパウンドエ
ンジンによる大型トラックの「重量車モード燃費」や「実走行の燃費」の改善は、1%未満に止まるものと推察される。し
たがって、ターボコンパウンドの技術は、大型トラックの「重量車モード燃費」や「実走行の燃費」を十分に向上す
る技術としては失格であると考えられる。

 それにもかかわらず、以上の表8に示したように、論文・出版物・報告書等において、多くの学者・専門家が、「大型ト
ラックの「重量車モード燃費」や「実走行の燃費」の改善が1%未満のターボコンパウンドの技術が「大型トラックの燃費
改善が可能」と恥ずかしげも無く、堂々と誤った主張を発表しているのでのである。筆者には信じられないことである。
その上、学者・専門家の中には、今だにNEDOの革新的次世代低公害車総合技術開発(クリーンディーゼルプロジェク
ト、2004〜2009年)において重量車モード燃費が2015年度重量車燃費基準よりも2%も悪化することが実証された
段過給システム}+「300MPaの超高圧燃料噴射」+「カムレスシステム」+「PCI燃焼(=HCCI燃焼)」+「DPF」+
「DeNOx触媒(=尿素SCR触媒)」の技術を、大型トラックの燃費改善の技術として推奨していることも、筆者には「本当
に?」と大いに驚かされることである。

 さて、先般の福島原発事故が発生した際、当時の枝野官房長官が「直ちに健康に影響は無い(=真実は、時間が経
過すれば癌を発症するリスクを隠蔽)」と連呼していたことや、原子力関係の学者・専門家と称する人達が「放射線は
100ミリシーベルトまで安全(=真実は、3月11日の福島原発事故の以前では、国の放射能被爆の安全基準が1ミリシ
ーベルトであったことを無視)」とテレビで連日、叫んでいたことは、多くの人にとって記憶に新しいことである。この福島
原発の事故発生の直後に学者・専門家が一般人に嘘と思しき詐欺的な言動で欺いていたのと同じように、最近のディ
ーゼルエンジン関係の学者・専門家は、大型トラックの燃費改善の技術として「ターボコンパウンド」、「多段過給システ
ム」、「超高圧燃料噴射」、「PCI燃焼(=HCCI燃焼)」等の技術によって大型トラック用ディーゼルエンジンの十分な燃
費向上ができるとの虚偽とも言えそうな発表を頻繁に行い、多くのトラックユーザや一般の人々に、近い将来には大型
トラックの十分な燃費向上が実現できるとの幻想を抱かせているように思えるのである。

 このような嘘・詐欺と思しき情報を平気で発表する最近の学者・専門家の言動をみていると、著名な学者・専門家に
は虚偽情報を発信しても許される特別な免罪符が与えられていると認識しているように思えるのである。そのような免
罪符は、一体、誰に与えられたのであろうか。少なくとも、現状では、最近の学者・専門家は、実に堂々と何食わぬ顔で
虚偽・詐欺と思しき「大型トラックの低燃費かの技術情報」を盛んに発表しているいるようだ。

 因みに、これまでの日本では、仮に著名な学者・専門家が例え嘘や詐欺的な技術情報を発表したとしても、伝統的に
誰も正面から誤りについて批判が全く行われない特殊な社会のようだ。その結果、わが国では、多くの学者・専門家
は、肩書を手に入れて有名になってしまうと、簡単に「裸の王様」になってしまうように見受けられる。このような筆者の
勝手な感想はさておき、著名なディーゼルエンジン関係の学者・専門家が公然と大型トラックの燃費改善の技術として
「ターボコンパウンド」、「多段過給システム」、「超高圧燃料噴射」、「PCI燃焼(=HCCI燃焼)」等の技術によって大型ト
ラック用ディーゼルエンジンの十分な燃費向上ができるとの・詐欺と思しき技術情報を発表している現状について
は、老いぼれのポンコツ元技術屋の筆者にとっては、全く理解できないことだ。それとも、そのように思ってしまうのは、
筆者が年を取り過ぎて正確な技術情報を虚偽・詐欺的な技術情報と誤解してしまっている結果であり、既に「もうろく老
人」の仲間入りをしている所為であろうか。

 ところで、前述のように、いすゞ自動車の柿原智明氏は、自動車技術誌2010年8月号の年鑑「ディーゼルエンジン」の
「4 研究開発の動向」において、現時点のディーゼルエンジンの排出ガスと燃費を削減するための最近の技術動向が
まとめられている。しかし、この年鑑では、表9に示したように、今後の大型トラックの重量車モード燃費を改善する技
術として、柿原智明氏は、具体的な技術内容の説明も無しに「燃焼効率改善」との筆者には意味不明の技術項目と、
「現行技術の改良」を提示されているだけである。このように、いすゞ自動車の柿原智明氏は、「ターボコンパウンド」、
「多段過給システム」、「超高圧燃料噴射」、「PCI燃焼(=HCCI燃焼)」等の技術によって大型トラック用ディーゼルエン
ジンの十分な燃費向上ができるとの世間に氾濫している誤った技術情報を何も記述をされていないところを見ると、筆
者には極めて真面目で良心的ななディーゼルエンジン技術者のように思えるのである。

表9 自動車技術誌2011年8月号(Vol.65、N0.8、2011)の特集:年鑑 「ディーゼルエンジン」の記載内容
項 目
内 容
@
論文・出版物等の名称
自動車技術」誌2011年8月号 (Vol.65,No.9,2011)
題 目
特集:年鑑 「ディーゼルエンジン」
著 者
いすゞ自動車梶@柿原智明 氏
ターボコンパウンドを

主張する内容
「4 研究開発の動向」
・・・・・・ 排出ガスを含めたエンジン諸性能と燃費改善を両立させるためには上述の
新技術(=現行の市販トラックに採用済みの技術)の熟成に加え・・・・・・今後はさらな
燃焼効率改善を目指した研究開発・・・・・・・


 このように、いすゞ自動車の柿原智明氏は、自動車技術誌2011年8月号の年鑑「ディーゼルエンジン」の「4 研究開
発の動向」においては、大型トラックの重量車モード燃費の改善の技術については、驚くことに従来技術の改良以外
に、新しい技術が何も記載されていないことも事実だ。そして、トラックメーカの柿原智明氏が予想する今後のディーゼ
ル燃費改善の技術は、「現在の市販トラックに採用されている従来技術の改良」と、詳細内容が不明で「神頼み」とも云
えそうな昔からの「エンジン開発の修飾語」とも言える燃焼効率改善」だけである。この内容を見ると、トラックメーカの
技術者は、大型トラックの5%程度の重量車モード燃費を改善できる新しい技術を何一つ開発できていない状況にある
と推測される。このような大型トラック用ディーゼルエンジンの技術開発の現状を見ると、近い将来、日本の大型トラ
ックにおいて、5%程度の重量車モード燃費を改善し、2015年度重量車燃費基準に未達成の車種を一掃し、将
来的に5%程度の燃費向上すると云う課題をトラックメーカが近い将来に解決することは、困難と予想される

6 世界におけるターボコンパウンドエンジンの研究開発の歴史と市販の状況

 前述のように、ターボコンパウンドは、過給ディーゼルエンジンの全負荷出力時の高温排気ガスからエネルギーをエ
ンジン出力軸に回収できるシステムであることに注目し、大型トラックの燃費向上技術として古くから研究開発が行わ
れてきた。その結果、ターボコンパウンドは、気筒内の最高圧力を高めること無くディーゼルエンジンの高出力化が可
能であるが、大型トラックの重量車モード燃費の改善が1%以下の程度に留まることが明らかとなっている。そのため、
現在では、GVW50トンのような超重量トレーラの用にを牽引する高出力の必要な大型トラクタにターボコンパウンドエ
ンジンが採用されている。そして、ターボコンパウンドエンジンは重量車モード燃費の改善には大きな効果が無いた
め、通常の大型トラックにターボコンパウンドエンジンが採用されている例は殆どないようだ。この状況を理解し易くす
るために、ターボコンパウンドのシステム概要、開発の歴史等を以下の表10に示した。

表10 ターボコンパウンドのシステム概要、開発の歴史と市販状況の概要
項 目
内 容
ターボコンパウンド

システムの概要




ターボコンパウンドの

開発と実用化の歴史

 この表10を見ると、現在、スカニアとボルボがターボコンパウンドエンジン搭載の大型トラクタを市販しており、スカニ
アのターボコンパウンド搭載の大型トラクタは、日野が日本で販売していたこともあるようだ。そして、過去に日野とい
すゞはターボコンパウンドの研究を実施しており、ターボコンパウンドは、気筒内の最高圧力を高めること無くディーゼ
ルエンジンの高出力化が可能であるが、大型トラックの重量車モード燃費の改善が1%以下の程度に留まることを十
分に理解しているものと推察される。然るに、前述の表5に示したように、現在でも多くの学者・専門家がターボコンパ
ウンドによる大型トラックの重量車モード燃費の向上が可能と主張されているのは、日野やいすゞがターボコンパウンド
の試験結果を未だに公表していないことが、原因の一つとも考えられる。

7 ディーゼルの燃費向上は、ターボコンパウンドでは困難であるが、気筒休止では実現が可能!

 現在の日本のトラック業界においては、前述の表1に示したように、各トラックメーカは、大型トラック・トラクタの多くの
車種が2015年度重量車燃費基準に不適合の状況である。各トラックメーカが晴れてこの状況から脱出するために
は、5%程度の重量車モード燃費を改善できる技術を実用化する必要がある。勿論、現時点では各トラックメーカとも
5%程度の重量車モード燃費を改善できる技術が開発できていないからこそ、大型トラックの一部の車種は2015年度
重量車燃費基準に未達成のまま販売し続けざるを得ない状況に陥っているのである。

 これまで多くの学者・専門家は、「多段過給システム」、「超高圧燃料噴射」、「PCI燃焼(=HCCI燃焼)」の技術によっ
て大型トラック用ディーゼルエンジンの燃費向上ができると、数多くの論文で主張されてきた。しかし、前述の通り、
2009年にNEDOの革新的次世代低公害車総合技術開発(クリーンディーゼルプロジェクト、2004〜2009年)では、「多段
過給システム」、「超高圧燃料噴射」、「PCI燃焼(=HCCI燃焼)」を組み合わせたエンジンの研究が実施された。そして
このプロジェクトの研究結果が2009年に発表された。このプロジェクトの最終報告によって「多段過給システム」、「超
高圧燃料噴射」、「PCI燃焼(=HCCI燃焼)」を組み合わせ技術は、 0.2 g/kWhまでのNOx削減の目標は達成
できるが、重量車モード燃費は 2015年度重量車燃費基準より2%も悪化することが明らかとなった。この2009年
の報告によってディーゼルエンジンのNOx削減と燃費向上の技術として「多段過給システム」、「超高圧燃料噴射」、
「PCI燃焼(=HCCI燃焼)」の技術によって大型トラックの燃費改善が不可能であることが実証されてしまったのである。

 これまでの動向を少し振り返ってみると、多くの学者・専門家は、大型トラック用ディーゼルエンジンのNOx削減と燃費
向上の技術として、「多段過給システム」、「超高圧燃料噴射」、「PCI燃焼(=HCCI燃焼)」の技術によって燃費向上が
できると盛んに推奨されていた。ところが、突然、このNEDOのプロジェクトの最終報告を知らされたのである。この
NEDOのプロジェクトの最終報告を読んで強い衝撃に襲われたのは、「多段過給システム」、「超高圧燃料噴射」、「PCI
燃焼(=HCCI燃焼)」によって大型トラックの重量車モード燃費の十分な改善が可能と主張されていたディーゼルエンジ
ン関係の多くの学者・専門家ではないだろうか。なぜなら、NEDOのプロジェクトの最終報告によって、多くの学者・専門
家が主張されていた重量車モード燃費の改善技術が「的外れ」であったことが証明されてしまったのである。そこで、多
くの学者・専門家は、体面を取り繕うために、急遽、一斉に口を揃えて大型トラックの重量車モード燃費の改善技術とし
て新たにターボコンパウンドの技術を追加されるようになったようだ。このように、最近では、ディーゼルエンジンのNOx
削減と燃費向上の技術としてターボコンパウンドの名称は、多くの学者・専門家の著作では「引っ張りだこ」のようであ
る。

 このように、多くの学者・専門家は、NEDOのプロジェクトの最終報告によって、「多段過給システム」、「超高圧燃料噴
射」、「PCI燃焼(=HCCI燃焼)」の技術によって重量車モード燃費が改善できるとのそれまでの主張が「的外れ」であっ
たことの失態を隠すための苦肉の策として、技術内容を十分に理解していないターボコンパウンドを大型トラックの重
量車モード燃費の改善の技術として引っ張り出されたように考えられる。ところが、このターボコンパウンドの技術は、
前述の「3−2 三菱重工論文の等燃費曲線から予想されるターボコンパウンドによる燃費向上の割合」の項で示した
ようにターボコンパウンドは、気筒内の最高圧力を高めることなく、エンジンの高出力化が可能な技術であ
り、燃費向上の機能は少なく、重量車モード燃費を1%未満しかできないような燃費改善に不適な技術」である。
そのことは、2005年発表の三菱重工の機会学会論文の内容から容易に理解できることだ。しかし、多くの学者・専門家
が大型トラックの重量車モード燃費の改善の技術としてターボコンパウンドの技術を熱心に推奨されていることについ
ての筆者の感想は、驚きの何物でもないとの言葉以外が思い浮かばない。

 以上に用に、最近、多くに学者・専門家が大型トラックの重量車モード燃費を改善する技術として、ターボコンパウンド
を推奨されていることは、これまでの「多段過給システム」、「超高圧燃料噴射」、「PCI燃焼(=HCCI燃焼)」の技術によ
る重量車モード燃費の改善の主張が誤りであったのと同様に、ディーゼルエンジンの十分な燃費改善の方法としてター
ボコンパウンドの採用を推奨する誤った発言・主張を無責任に繰り返されているように思えるのである。このよう状況に
なってしまっている大きな原因の一つとして、学者・専門家がターボコンパウンドの技術についての自身での十分な吟
味・検討・考察を加えること無く、風聞に等しい情報の内容をソックリそのまま受け売りされている可能性が考えられ
る。もう一つの原因としては、大型トラックの重量車モード燃費を改善する技術が不明なため、何らかの技術が見い出
されるまでの時間稼ぎのためのダミーの技術として、学者・専門家がターボコンパウンドを推奨されている可能性も無
きにしも非ずと考えられる。しかし、何れの理由にしても、学者・専門家が大型トラックの重量車モード燃費を十分に改
善できないターボコンパウンドを将来の大型トラックの燃費改善の技術として推奨されているため、学者・専門家を信
頼する人達を裏切る行為であることには、変わりはないと考えられる。

 何はともあれ、現在のトラックメーカにおける切実な問題・課題は、5%程度の重量車モード燃費を燃費が改善できる
技術を早急に実用化し、各トラックメーカにおける2015年度重量車燃費基準に不適合の大型トラックの車種を早急に
一掃してしまうことだ。ところが、大学、研究機関は言うに及ばず、トラックメーカにおいても、一種類の技術で大型トラッ
クでの5%程度の重量車モード燃費を改善できる決定的な技術が未だに見い出せていないようである。そのため、
トラックメーカでは、「可変バルブタイミング・リフト」、「Low-pressure EGR」、「ターボコンパウンド」、「2段過
給」、「PCI燃焼(=HCCI燃焼)」等の燃費測定の誤差にも匹敵する1%程度の重量車モード燃費の改善しか期
待できない燃費改善機能の劣る技術を寄せ集めて、大型トラックでの5%程度の重量車モード燃費を改善しよ
うと躍起になっているものと考えられる。このように、多数の技術を寄せ集めた技術を用いれば、大型トラックでの
5%程度の重量車モード燃費の改善が実現できるかも知れないが、常識的に考えればコスト高で商品力に欠けること
は明白である。大型トラックでの5%程度の重量車モード燃費の改善のために、無茶苦茶とも言えそうな多種多様の技
術開発を行わざるを得ないトラックメーカの技術者の人達には、「ほんまに、ご苦労なことやなぁ〜。」と労いの声を掛け
たいところだ。一つの技術で大型トラックでの5%程度の重量車モード燃費の改善ができないことについて、彼ら自身
は、技術開発の能力不足に苛立たしさを感じているのではないだろうか。

 さて、以上のようなトラックメーカの様子を部外者である筆者から見ると、トラックメーカは、的外れとも云えそうな燃費
改善の機能の劣る技術を寄せ集めて、大型トラックの燃費改善を図ろうとする哀れな状況に陥っているように思えるの
である。そのようなトラックメーカの状況を鑑み、ポンコツ元技術屋の筆者が提案している技術が、大型トラックでの5〜
10%程度の重量車モード燃費を改善できる気筒休止エンジン(特許公開2005-54771)である。この技術は、2006年6
月に開設したホームページで公開しているものである。この技術の内容については、気筒休止エンジンによる大型トラ
ックの低燃費化気筒休止は、燃費削減と尿素SCRのNOx削減率の向上に有効だ!および気筒休止はDPFの自己再
生を促進 (燃費悪化の防止に有効)のページに詳細な説明を掲載しているので、御覧いただきたい。更に、気筒休止
は、ディーゼル排気ガスのエネルギー回生装置の効率を向上のページに詳述しているように、気筒休止エンジン(特許
公開2005-54771)の技術は、大型トラックのターボコンパウンドを採用した場合のターボコンパウンドによる実走行燃
費や重量車モード燃費を十分に向上できる機能も備えているのである。

 しかし、ディーゼルエンジン関係の学者・専門家は、未だに気筒休止エンジン(特許公開2005-54771)の技術を全くご
存知ないのか、それとも無視・黙殺しているようである。仮に、この気筒休止の技術を無視・黙殺しているとすれば、こ
気筒休止エンジン(特許公開2005-54771)の技術には致命的な欠陥があるとの評価を下している可能性が考えられ
る。その場合には、この技術を歯牙にもかけていないのは当然のことだ。仮にそうであれば、この気筒休止エンジン
(特許公開2005-54771)の技術における欠陥について、是非ともお教えいただきたいものである。

 そうは云っても、ガソリン自動車では、気筒休止の技術は、既にホンダ、クライスラー、GMが既に市販車に採用して
おり、また、2012年にはメルセデスAMGとフォルクスワーゲンが気筒休止を採用した車種を発売するとのことである。こ
のように、ガソリン自動車では、気筒休止によってガソリン自動車の燃費向上を図る自動車メーカが、漸次、増加して
いることを考えると、筆者提案の気筒休止エンジン(特許公開2005-54771)の技術が大型ディーゼルトラックの燃費向
上の技術として致命的な欠陥があるとはとても考えられない。そのため、気筒休止には大型ディーゼルトラックに採用
できない致命的な欠陥が無いと考えてしまうのは、ポンコツの元技術屋の筆者が浅学非才であるが故に、ディーゼル
エンジンの低燃費技術に関しての単なる「明き盲」に陥ってしまっているためであろうか。

  最後に、このホームページでの誤りや疑問と考えられる記載内容にお気付きの場合には、躊躇無くご指摘をいただ
ければ幸いです。また、どのようなことでも構いませんので、反論を含めて率直な御意見・御感想をお送り願えればと
思っております。

閑居人宛てのメール

戻る
戻る