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気筒休止は、ディーゼル排気ガスのエネルギー回生装置の効率を向上

【排気系にターボコンパウンド、ランキンサイクル、熱電素子等を装着し、排気ガスからのエネルギー回生によるエンジン燃費の向上を実現】

最終更新日:2012年7月8日



1.ディーゼルエンジンの熱勘定

 最近の省エネルギー、省資源に対する強い社会的ニーズを反映し、大型トラックでも燃費向上を求める声が高まっ
ている。そのため、多くの大学・研究機関等から、大型トラック用ディーゼルエンジンの燃費向上に関する様々な提案
が行われている。その中で、ディーゼルエンジンの燃費向上の手法・手段がディーゼルエンジンの排気ガスから動力や
電気エネルギーを取り出してディーゼルエンジンの出力に付加する「ディーゼル排気ガスのエネルギー回生装置」の提
案が際立って多いようである。この「ディーゼル排気ガスのエネルギー回生装置」の提案が多い理由は、ディーゼルエ
ンジンでは、エンジン出力に迫る割合の燃料エネルギーが排気ガスとして大気中に無駄に捨てられていることが原因と
考えられる。

 現在、大型トラック用のディーゼルエンジンでは、エンジンの排気ガスとして大気中に無駄に捨てられている燃料エネ
ルギーの割合(=排気ガス損失)は、石油エネルギー技術センター(JPEC)の発表論文「排出物低減による環境対応型
ディーゼルエンジンの研究開発」(出典http://www.pecj.or.jp/japanese/report/2001report/2001M4.2.1.pdfによると、
図1の熱勘定に示したように、36.1%のようだ。このように、ディーゼルエンジンの排気ガス損失が36.1%であることは、
エンジン出力の40.7%に比較すると、大型トラックの走行時に極めて多くの燃料エネルギーが大気中に無駄に捨てられ
ているのが現状である。


図1 最近の過給ディーゼルエンジンにおける熱勘定(全負荷時)

 このように、ディーゼルエンジンでは、燃料の多くの割合を占めるエネルギーが排気ガスとして大気中に捨てられてい
ることは、遠い昔から既に解かっていたことだ。そのため、ディーゼルエンジンの排気ガスのエネルギーを回生してディ
ーゼルエンジンの熱効率を向上する或る種の技術は、エンジンの定格出力で運転する機会の多い発電用や大型船舶
のディーゼルエンジンの分野では、既に実用化されている。例えば、ディーゼル発電機で電気を一次出力し、更にディ
ーゼルエンジンの排気ガスで水蒸気を発生させ、その水蒸気で蒸気タービンを回し二次出力として電気を出力するコ
ンバインド発電である。この原理を大型ディーゼルトラックに適用し、ディーゼルエンジンの排気ガスのエネルギーを回
生してディーゼルエンジンの熱効率を向上する「ディーゼル排気ガスのエネルギー回生装置」を用いて大型トラックの燃
費を僅かでも向上することは、理論的には可能である。そのため、最近、多くの大学・研究機関等の学者・専門家は、
大型トラックの燃費向上の技術として、各種の「ディーゼル排気ガスのエネルギー回生装置」を盛んに推奨しているよう
だ。


2.ディーゼルの燃費向上が可能と吹聴のディーゼル排気ガスのエネルギー回生技術

 「ディーゼル排気ガスのエネルギー回生装置」は、ディーゼルエンジンの排気ガスとして大気中に廃棄されている排気
ガスのエネルギーから動力や電気エネルギーを取り出すシステムである。この「ディーゼル排気ガスのエネルギー回生
装置」の技術としては、下記の表1に示した技術が知られている。

表1 ディーゼルエンジンの排気ガスのエネルギーを回生する装置・技術
排気ガスエネルギーの回生技術
概要
回生出力の形態
備考
メカニカルターボコンパウンド
機械エネルギー
(回転の動力)
ボルボ&スカニアが大型トラクタに
採用済み
エレクトリックターボコンパウンド
電気エネルギー
(蓄電)
自動車分野では未実施
ランキンサイクル
機械エネルギー
(回転の動力)
自動車分野では未実施
熱電素子
電気エネルギー
(蓄電)
自動車分野では未実施
スターリングエンジン
機械エネルギー
(回転の動力)
自動車分野では未実施


 以上の表1に示した排気ガスエネルギーの回生技術の中で、メカニカルターボコンパウンドは、既に一部の自動車に
採用されている。しかし、他の技術は、これまで自動車に採用され、実用化された例は見当たらない


3.メカニカルターボコンパウンドにおけるディーゼル排気ガスのエネルギー回生

 最近の省エネルギー、省資源に対する強い社会的ニーズを反映し、わが国の多くのディーゼルエンジン関係の学者・
専門家は、近頃、盛んにターボコンパウンドによる大型トラックの燃費向上を喧伝しているようである。しかし、海外のト
ラックメーカは、ターボコンパウンドがディーゼルエンジンの高出力に有効であると説明し、そして、実際に高出力エンジ
ンを必要とする大型トラクタのエンジンにターボコンパウンドエンジンを実際に採用しているのである。このように、海外
のトラックメーカは、ターボコンパウンドがディーゼルエンジンの高出力化の技術と説明しているようだ。

 ところが、不思議なことに、2011年9月発行の「自動車技術」誌(Vol.65,No.9,2011)において、早稲田大学の大聖教授
が「自動車用エンジン技術の現状と将来」と題した論文の「3.2. 重量車の燃費改善」の項においてターボコンパウンド
の技術について記述されているように、わが国の多くのディーゼルエンジン関係の学者・専門家は、ターボコンパウンド
が大型トラックの低燃費技術と盛んに推奨されているようである。このように、ターボコンパウンドについては、海外のト
ラックメーカが「ディーゼルエンジンの高出力化の技術」と説明しているのに対し、わが国のディーゼルエンジン関係の
学者・専門家が「大型トラックの低燃費化の技術」との異なった主張しているのである。このように、海外のトラックメー
カと日本のディーゼルエンジン関係の学者・専門家は、ターボコンパウンド技術の機能・効能についての見解・主張が
完全に対立しているようである。そこで、ターボコンパウンド技術は、「ディーゼルエンジンの高出力化に有効」であるの
か、それとも、「大型トラックの低燃費化に有効」であろのかについて、これまで発表されているメカニカルターボコンパ
ウンドの論文を精査することにより、以下の項ではターボコンパウンド技術の本当の機能・効能を明確にすることにし
た。

3−1 三菱重工論文の等燃費曲線から予想されるターボコンパウンドによる燃費向上の割合

三菱重工 土佐陽三氏 他4名が著した日本機会学会論文集(B編)51巻467号(昭60-7)に掲載の「排気ターボコンパ
ウンドエンジンのエネルギ回収特性」の図14に示されたベースエンジンとターボコンパウンドエンジンの等燃費曲線の
比較図には、「2300rpm定格回転速度のベースエンジンの定格点294kW/2300rpm」と「2000rpm定格回転速度のターボ
コンパウンドエンジンの定格点353kW/2000rpm」が記載されている。これに新たに定格回転速度をターボコンパウンド
エンジンと同一とした「仮仕様の2000rpmのベースエンジンの定格点294kW/2000rpm」を追記したベースエンジンとター
ボコンパウンドエンジンの等燃費曲線の比較図を、以下の図2に示した。


図2 ベースエンジン(294kW/2000rpm)の仮仕様を追記した三菱重工論文の図14の等燃費曲線比較図


 上記の図2に示したA点、B点およびC点は、三菱重工業論文の図14の等燃費曲線比較図の中にターボコンパウン
ドエンジンおよびベースエンジンのそれぞれの定格点である。詳細は以下の通りである。

A点 : 2000rpm定格回転速度のターボコンパウンドエンジンの定格点(353kW/2000rpm)
B点 : 2000rpmのベースエンジンの定格点(294kW/2000rpm)(仮仕様)
C点 : 2300rpm定格回転速度のベースエンジンの定格点(294kW/2300rpm)

 三菱重工業鰍フターボコンパウンド論文では、ターボコンパウンドのA点(353kW/2000rpm)の燃費(204 g/kWh)とベ
ースエンジンのC点(294kW/2300rpm)の燃費(227 g/kWh)を比較して、「ターボコンパウンドエンジンの燃費がベースエ
ンジンよりも10%の燃費が改善」できたと記載されている。しかし、大型トラックにおける定格出力のエンジン回転速度
(=定格回転速度)は、そのトラックで必要とされている最高速度等を確保するために、そのトラックに搭載されているト
ランスミッションギア比やデファレンシャルギア比決定されるものであり、ターボコンパウンド等のエンジン仕様によって
決まるものではない。したがって、トラック用エンジンの観点からターボコンパウンドエンジンとベースエンジンの燃費を
比較する場合には、ターボコンパウンドエンジンのA点とベースエンジンのC点の燃費を比較して燃費の優劣を論じるこ
とは無意味である。トラック用エンジンの観点からターボコンパウンド仕様の燃費改善の効果を正確に比較するために
は、ターボコンパウンドエンジンとベースエンジンの両エンジンの定格回転速度が2000rpmで同一であるターボコンパウ
ンドエンジンのA点とベースエンジンのB点の燃費を比較するべきである。したがって、トラック用エンジンの観点からタ
ーボコンパウンドエンジンの定格点の燃費を正確に評価した場合には、A点とB点の燃費を比較することにより可能と
なる。このA点とB点の燃費比較により、「定格点におけるターボコンパウンドエンジンの燃費がベースエンジンよりも4.
6%の燃費が改善」であるとすることがトラック用エンジンの観点からのターボコンパウンドにおける正しい燃費改善の
認識ではないだろうか。

 ところで、図3は、従来の排出ガス試験サイクル(JE05 モード)やWHTC試験法における2種類のエンジン(12.91リット
ル、4.01リットル)の回転数・負荷頻度分布図に示したものである。これら排出ガス試験サイクル(JE05 モード)やWHTC
試験法は、トラックの実走行におけるエンジン運転頻度から作成されたものであり、トラックの実走行におけるエンジン
運転状態を代表しているものと考えられる。この図4の2種類のエンジン(12.91リットル、4.01リットル)の回転数・負荷
頻度分布図を見ると、何れのエンジンにおいても100%負荷で100%エンジン回転速度でのエンジン運転(=エンジン定
格点)は、皆無に近いことが判る。このことから、エンジン定格点においてターボコンパウンドエンジンの燃費がベース
エンジンよりも4.2%の燃費が改善されたとしても、トラックの走行燃費には全く寄与しないことが明らかだ。そして、こ
図3の2種類のエンジン(12.91リットル、4.01リットル)の回転数・負荷頻度分布図を見ると明らかなように、ト
ラックのJE05 モード等で計測される重量車モード燃費や実走行燃費を改善するためには、最大トルクのエンジ
ン回転速度領域での部分負荷時の燃費改善を図ることが必要であることは明らかだ


図3 JE05およびWHTCの試験法における2種類のエンジン(12.91リットル、4.01リットル)の回転数・負荷頻度分布図
(出典:https://www.env.go.jp/council/07air/y071-39/mat02.pdf


 以上のように、最大トルクのエンジン回転速度領域での燃費改善がトラックの重量車モード燃費や実走行燃費を改
善に寄与することから、ターボコンパウンドエンジンにおいても最大トルクのエンジン回転速度領域での燃費改善の割
合が重要が重要である。そこで、ターボコンパウンドエンジンにおける最大トルクのエンジン回転速度領域では、図3の
図中の赤塗りで示したX領域で燃費が2.4%の改善されていることが判る。このことから、大型トラックがターボコンパウ
ンドによって燃費を改善することができるのは、最大の場合でも、エンジン最大トルクの運転状態で2.4%の改善が得
られるだけでありる。そして、図3から明らかなように、実際の大型トラックの走行においては、エンジン運転の使用頻
度は、エンジンの中回転速度の中トルク付近の運転がが多いのだ。この大型トラックの走行での使用頻度の多いエン
ジンの中回転速度の中トルク付近の運転領域では、図2から明らかなように、ターボコンパウンドによる燃費改善は限
りなく零パーセントに近いのである。このことから、実際のトラック走行におけるターボコンパウンドによる燃費向上は極
めて少ないものとなることは明らかである。したがって、ターボコンパウンド技術による重量車モード燃費の改善
は、1%にも満たない極めて僅かであると予想される。

 以上のことから、日本機会学会論文集(B編)51巻467号(昭60-7)の「排気ターボコンパウンドエンジンのエネルギ回
収特性」(著者:三菱重工業 土佐陽三氏 他4名)の論文の内容を筆者の勝手な観点で纏めさせていただくと、ターボ
コンパウンドの特徴は、以下の表2に示したようになるのではないかと考えている。

表2 三菱重工業鰍フ日本機会学会論文(著者:土佐陽三氏 他4名)から判明したターボコンパウンドの特徴
ターボコンパウンドの特徴 (根拠:三菱重工業 土佐陽三氏 他4名の機会学会論文)
1.ターボコンパウンドは、気筒内の最高圧力を高めることなく、エンジンの高出力化が可能

  ・ 最大トルクの30%増大
   ・ 最高出力の20%増加

2.ターボコンパウンドは、燃費向上の機能は少なく、その効果は僅少
  
  ・ 最大トルク付近(図3のX領域)で2.4%の燃費が改善できるが、中、低負荷では燃費の改善効果は僅少
   ・ 定格点(100%回転&100%負荷)で4.2%の燃費が改善できるが、これはトラックの走行燃費や重量車モード燃費の改善には無効
   ・ 走行時にはエンジンの中速・中負荷が多用されるため、ターボコンパウンドはトラックの燃費改善に不向き
   ・ ターボコンパウンドによる重量車モード燃費の改善は、1%以下と推測


 3−2 ターボコンパウンドに関するJPECの論文(2001.M4.2.1)

 石油エネルギー技術センターター(JPEC)の発表論文「排出物低減による環境対応型ディーゼルエンジンの研究開
発」(出典http://www.pecj.or.jp/japanese/report/2001report/2001M4.2.1.pdfの概要を表3に示した。

表3 排気ターボコンパウンドエンジンに関するJPECの論文の概要
項目
内容
論文の

題目と著者
排出物低減による環境対応型ディーゼルエンジンの研究開発 (2001.M4.2.1)

西田  章 (排出物低減ディーゼルグループ)
小栗 秀夫 (排出物低減ディーゼルグループ)
岩片 敬策 (排出物低減ディーゼルグループ)
古屋 達夫 (排出物低減ディーゼルグループ)
石原  章 (排出物低減ディーゼルグループ)
神埼 芳樹 (排出物低減ディーゼルグループ)
論文の要旨

(1) ベースエンジンとターボコンパウンドエンジンの熱勘定



【注目点 及び コメント】

 本論文の図2には、定格点(=エンジンの最高出力点)におけるベースエンジンとターボコンパウンドエンジンの熱
勘定が示されている。それによるとベースエンジンとターボコンパウンドエンジンの熱勘定は、以下の通りである。

エンジンの種類
熱勘定の項目
熱勘定の割合
軸出力の割合
ベースエンジン
エンジン出力
40.7 %
40.7 %
ターボコンパウンド
エンジン
エンジン出力
38.5 %
43.0 %
回生タービン出力
4.5 %

 
 ターボコンパウンドエンジンの出力:38.5 %は、ベースエンジンの出力:40.7 %より 2.3%少ない。これは、回生タ
ービンのノズル絞りによる抵抗のために過給機タービンの入り口圧力=排気マニホールド圧力の上昇により、エンジ
ン本体の熱効率が低下した結果である。このことは、ターボコンパウンドエンジンでの避けられない特性である。しか
し、ターボコンパウンドエンジンでは、回生タービンによって排気ガスから4.5%の出力が回収される。このため、ター
ボコンパウンドエンジンの軸出力は、(エンジン出力:38.5 %)+(回生タービン4.5%)=43.0 %となり、ベースエンジ
ンの軸出力40.7 %より改善できていることが判る。

 このように、このJPEC論文では、ターボコンパウンドエンジンの軸出力の定格点(=エンジンの最高出力点)の
効率(=熱勘定)は43.0%に増加し、ベースエンジンの熱効率(=熱勘定)より2.3%の増加(=燃費比較では5.6%)
の改善が得らることが示されている。因みに、前述の三菱重工のターボコンパウンド論文での定格点(仮仕様=B
点)の燃費改善は、4.6%であった。これらJPEC論文と三菱重工論文のターボコンパウンドエンジンの軸出力の定格
点の燃費改善は、5%前後でほぼ一致しているようだ。これらのことから、ターボコンパウンドエンジの定格点(=エン
ジンの最高出力の運転条件)の燃費は、ベースエンジンの燃費よりも5%前後の改善が可能と考えて間違いないよう
だ。

 このように、定格点(=エンジンの最高出力点の運転条件)の限られたエンジン運転でのターボコンパウン
ドエンジの燃費は、ベースエンジンに比べて5%前後の十分な燃費改善が可能である。しかし、最大トルク
のエンジン運転状態でのターボコンパウンドの燃費改善は、ベースエンジンに比べて2%前後の燃費改善
がやっとのことだ。その上、残念なことに、肝心要の大型トラックの重量車モード燃費や実走行での使用頻
度の高い中速回転の部分負荷でのエンジン運転状態においては、ターボコンパウンドエンジは、ベースエン
ジンよりも1%未満の燃費改善しか実現できないと推察される。このように、ターボコンパウンドの技術は、大
型トラックの重量車モード燃費を1%未満しか向上できないため、大型トラックの走行燃費や重量車モード燃
費を改善する技術としては失格と考えるべきである。


3−3.ターボコンパウンドはエンジンの出力向上に有効であるが、燃費改善の機能は僅少

 以上の3−1項、および3−2項に示した通り、大型トラックの重量車モード燃費や実走行での使用頻度の高い中速
回転の部分負荷でのエンジン運転状態においては、ターボコンパウンドエンジは、ベースエンジンよりも1%未満の燃
費改善しか実現できないと推察される。このように、ターボコンパウンドの技術は、大型トラックの重量車モード燃
費を1%未満しか向上できないため、大型トラックの走行燃費や重量車モード燃費を改善する技術としては失
格と考えるべきである。したがって、2011年9月発行の「自動車技術」誌(Vol.65,No.9,2011)において、早稲田大学の大
聖教授が「自動車用エンジン技術の現状と将来」と題した論文の「3.2. 重量車の燃費改善」の項においてターボコンパ
ウンドの技術について記述されているように、わが国の多くのディーゼルエンジン関係の学者・専門家は、ターボコンパ
ウンドが大型トラックの低燃費技術と盛んに推奨されていることが誤りと考えて間違いないと推察される。

 なお、ターボコンパウンドは、「気筒内の最高圧力を高めることなく、エンジンの最大トルクと最高出力の増大」である
が、「大型トラックに実走行燃費と重量車モード燃費の改善が僅少」であることについては、ターボコンパウンドは、大型
トラックの走行燃費の改善が困難な技術だ!のページにも詳述しているので、興味のある方は御覧いただきたい。


4.大型トラックの実走行における「エンジンの負荷頻度」と「燃費向上」の関係

 前述の図3に示した2種類のエンジン(12.91リットル、4.01リットル)の回転数・負荷頻度分布図を見ると明らかなよう
に、JE05 モードおよびWHTCモードの運転では、エンジンは最大トルクのエンジン回転速度領域での部分負荷で運転
する頻度が極めて高いことが明らかだ。そして、これらJE05 モードおよびWHTCモードは、トラックが実際に走行した際
にエンジンが稼動した回転数と負荷の頻度分布を測定したデータを基に作成されたものである。したがって、JE05 モ
ードおよびWHTCモードのエンジン回転数・負荷頻度分布は、大型トラックの実際のエンジンの運転状態を代表している
と考えられる。

 そのため、例えば大型トラックの実走行の燃費を改善するためには、JE05 モードおよびWHTCモードのエンジン回転
数・負荷頻度分布の集中しているエンジン運転の部分負荷の領域のエンジン燃費を向上することによって可能と考え
られる。そして、前述の図3に示した2種類のエンジン(12.91リットル、4.01リットル)のE05 モードおよびWHTCモードの
回転数・負荷頻度分布図を見ると明らかなように、大型トラックの実際の走行では最大トルク」や「最高出力」のエンジ
ン運転の頻度は、僅少である。したがって、最大トルク」や「最高出力」のエンジン運転のポイントでの燃費の改善を図
ったとしても、大型トラックの実際の走行燃費(=実走行燃費)は、殆ど向上できないのである。そして、大型トラックの
実走行の燃費改善は、エンジン運転の部分負荷の領域のエンジン燃費を向上することによって初めて実現できること
を肝に銘じるべきである。


5.排気ガスのエネルギーを回生する装置によって大型トラックの燃費向上を図る方法

 最近の省エネルギー、省資源に対する強い社会的ニーズを反映し、大型トラックの燃費を向上する手段として、表1
に示した「カニカルターボコンパウンド」、「エレクトリックターボコンパウンド」、「ランキンサイクル」、「熱電素子」および
「スターリングエンジン」等のディーゼルエンジンの排気ガスのエネルギーを回生する装置・技術が多くの大学・研究機
関等から提案されている。しかし、これらは、何れもディーゼルエンジンの排気ガスの熱エネルギー・圧力エネルギーの
高い最大トルク」や「最高出力」のエンジン全負荷運転において燃費改善が得られる技術である。しかし、大型トラック
の実際の走行(=実走行)では、エンジンの「最大トルク」や「最高出力」のポイントでエンジンが稼動する頻度・機会が
極めて少ないため、表1に示した「カニカルターボコンパウンド」、「エレクトリックターボコンパウンド」、「ランキンサイ
クル」、「熱電素子」および「スターリングエンジン」等のディーゼルエンジンの排気ガスのエネルギーを回生する装置・
技術によって大型トラック用エンジンの最大トルク」や「最高出力」のエンジン全負荷運転において燃費改善が得られ
燃費の大幅な改善が実現できたとしても、大型トラックの実際の走行燃費(=実走行燃費)は殆ど向上できないので
ある。

 そして、大型トラックの実際の走行燃費(=実走行燃費)の十分な向上を図りたいのであれば、エンジンの最大トルク
のエンジン回転速度領域での部分負荷の運転領域における燃費を向上することが肝要である。仮に、このエンジン部
分負荷の運転領域の排気ガスの熱エネルギー・圧力エネルギーを高めることが技術てきに可能になれば、ディーゼル
エンジンの排気ガスの熱エネルギー・圧力エネルギーを回転動力や電気エネルギーに回生する装置・技術(=カニ
カルターボコンパウンド」、「エレクトリックターボコンパウンド」、「ランキンサイクル」、「熱電素子」および「スターリングエ
ンジン」等)を大型トラック用エンジンに採用することによって、大型トラック実際の走行燃費(=実走行燃費)の十分
な向上が初めて実現できるのである。したがって、エンジン部分負荷の運転領域の排気ガスの高温・高圧化(=熱エネ
ルギー・圧力エネルギーの増大)を可能にする手段・技術を組み合わせることを行わず、ディーゼルエンジンの排気ガ
スの熱エネルギー・圧力エネルギーを回転動力や電気エネルギーに回生する装置・技術だけで大型トラック実際の
走行燃費(=実走行燃費)の十分な向上を推奨・提案することは、筆者には「愚の骨頂」としか思えないのである。

 因みに、前述の3項「メカニカルターボコンパウンドにおけるディーゼル排気ガスのエネルギー回生」で説明したよう
に、現行の大型トラックに搭載されている過給ディーゼルエンジンにカニカルターボコンパウンドを単に装着しだけで
は、大型トラックの重量車モード燃費を1%未満しか向上できない。そのため、大型トラックの走行燃費や重量車モード
燃費を改善する技術としては失格である。また、表1に示した「エレクトリックターボコンパウンド」、「ランキンサイクル」
および「熱電素子」等のディーゼルエンジンの排気ガスのエネルギーを回生する装置・技術を単にディーゼルエンジン
にそのまま装着しだけでは、カニカルターボコンパウンドの場合と同様に、大型トラックの重量車モード燃費を1%未
満しか向上できないため、大型トラックの走行燃費や重量車モード燃費を改善する技術としては失格である。
 
 そもそも、貨物を満載した大型トラックでも、実際に一般国道や高速道路を走行する場合、一日の全走行の行程の
中で僅かな時間を占めるに過ぎない「登坂走行」や「追い抜き走行」以外の多くの走行では、エンジンは部分負荷で運
転されているのである。そのため、貨物を積載した大型トラックの実走行時におけるエンジン負荷頻度データから作成
されたJE05モードおよびWHTCモード(図3参照)を見ると明らかなように、大型トラックの実走行時には、エンジン運転
の大部分が部分負荷で運転されているのである。したがって、大型トラックの実走行時の燃費を向上するためには、エ
ンジン部分負荷時燃費を改善することが必須である。逆に言えば、エンジン全負荷時の燃費を改善したとしても、大型
トラックの走行燃費は向上できないのである。

 一方、表1に示した「カニカルターボコンパウンド」、「エレクトリックターボコンパウンド」、「ランキンサイクル」、「熱電
素子」および「スターリングエンジン」等のディーゼルエンジンの排気ガスのエネルギーを回生する装置・技術は、ディー
ゼルエンジンの排気ガスの熱エネルギー・圧力エネルギーを回転動力や電気エネルギーに回生する機構である。その
ため、ディーゼルエンジンの排気ガスの熱エネルギー・圧力エネルギーの少ないエンジン部分負荷運転においては、デ
ィーゼルエンジンの排気ガスのエネルギーを回生する装置の効率が著しく低下するため、エンジンの排気ガスから十
分なエネルギーを回生できないの特性がある。したがって、ディーゼルエンジンの排気ガスのエネルギーを回生する装
置を大型トラックに装着しただけでは、大型トラックの実走行燃費の十分な改善は、極めて困難である。

 しかし、大型トラックの実走行時のエンジン部分負荷運転での排気ガスの熱エネルギー・圧力エネルギーを高める技
術を採用したディーゼルエンジンにエンジンの排気ガスのエネルギーを回生する装置を組み合わせた場合には、エン
ジン部分負荷運転時においてエンジンの排気ガスのエネルギーを回生する装置を高い効率で稼動させることが可能と
なる。このように、「エンジン部分負荷運転での排気ガスを高温化・高圧化できる技術」と「排気ガスのエネルギーを回
生する装置」の組み合わせたシステムを大型トラックに搭載することにより、大型トラックの実走行時の燃費が初めて
改善・向上できるのである。したがって、カニカルターボコンパウンド」、「エレクトリックターボコンパウンド」、
「ランキンサイクル」、「熱電素子」および「スターリングエンジン」等のディーゼルエンジンの排気ガスのエネル
ギーを回生する装置を用いて大型トラックの実走行燃費を向上できるようにするためには、大型トラックの実走
行時において排気ガス温度を高温に制御できる技術を併用することが必要・不可欠である。
 
4−1.気筒休止エンジン(特許公開2005-54771)によるエンジン部分負荷時の排気ガスの高温化

 前述のように、ディーゼルエンジンの排気ガスのエネルギーを回生する装置・技術(=カニカルターボコンパウン
ド」、「エレクトリックターボコンパウンド」、「ランキンサイクル」、「熱電素子」および「スターリングエンジン」等)は、大型ト
ラックの実走行時のエンジン部分負荷運転での排気ガスの高温化(=排気ガスの熱エネルギー・圧力エネルギーの増
加)を図ることによって、初めて大型トラック実際の走行燃費(=実走行燃費)の十分な向上が可能になる。そこで、
以下の大型トラックの3種類のエンジンについて、エンジンを比較した結果を、表4示した。

表4 各種の大型トラック用エンジンにおけるエンジン全負荷運転時の高温排気ガス温度を排出する領域の比較
エンジンの種類

(排気ガスを高温化する技術)
全負荷運転時の高温の排気ガスを排出するエンジン運転の領域
@
通常型エンジン


【シングルターボエンジン】

●下図は、常時、全気筒を同一の出力で稼働する従来型のエンジンにおいて、全負荷時の高
温の排気ガスを排出するエンジン運転の領域(赤色の領域)を示したものである。


A
吸・排気弁休止方式
気筒休止エンジン


【2段過給気筒休止エンジン】

●下図は、吸・排気弁休止方式気筒休止エンジン【2段過給気筒休止エンジン等】において、
全負荷時の高温の排気ガスを排出するエンジン運転の領域(赤色の領域)を示したものであ
る。

B
2ターボ方式
気筒休止エンジン


気筒休止エンジン(特許公開2005-
54771)

●下図は、2ターボ方式気筒休止エンジン【気筒休止エンジン(特許公開2005-54771)】にお
いて、全負荷時の高温の排気ガスを排出するエンジン運転の領域(赤色の領域)を示したもの
である。



●特徴

 @のシングルターボの通常型エンジンや、Aの吸・排気弁休止方式気筒休止エンジ
ン(含む、2段過給エンジン)に比較し、Bの2ターボ方式気筒休止エンジン【気筒休止
エンジン(特許公開2005-54771)】は、エンジン全負荷運転時の高温の排気ガスを排
出するエンジン運転の領域(=表4の赤色の領域)が格段に広範囲であることが一目瞭
然である。


 以上の表4に示したように、@のシングルターボの通常型エンジンや、Aの吸・排気弁休止方式気筒休止エン
ジン(含む、2段過給エンジン)に比較し、Bの2ターボ方式気筒休止エンジン【気筒休止エンジン(特許公開
2005-54771)】は、エンジン全負荷運転時の高温の排気ガスを排出するエンジン運転の領域(=表4の赤色の
領域)が格段に広範囲であることが一目瞭然である。このように、Bの2ターボ方式気筒休止エンジン【気筒休止エ
ンジン(特許公開2005-54771)】は、エンジン全負荷運転時の高温の排気ガスを排出するエンジン運転の領域(=表4
の赤色の領域)がエンジンの部分負荷でもエンジン全負荷の高温の排気ガスを排出する機能があるため、このBの2
ターボ方式気筒休止エンジン【気筒休止エンジン(特許公開2005-54771)】にディーゼルエンジンの排気ガスのエネル
ギーを回生する装置・技術を組み合わせることによって、大型トラック実際の走行燃費(=実走行燃費)の十分な向
上が可能となる。

4−2.排気ガスエネルギーの回生による燃費向上が可能な気筒休止エンジン(特許公開2005-54771)

 前述のように、カニカルターボコンパウンド」、「エレクトリックターボコンパウンド」、「ランキンサイクル」、「熱電素
子」および「スターリングエンジン」等ディーゼルエンジンの排気ガスのエネルギーを回生する装置を用いて大型
トラックの実走行燃費を向上できるようにするためには、大型トラックの実走行時の排気ガス温度を高温に制
御できる技術を併用することが必須である。そして、この大型トラックの実走行時の排気ガス温度を高温に制御でき
る技術が筆者推奨の気筒休止エンジン(特許公開2005-54771)である。現在のところ、この気筒休止エンジン(特許公
開2005-54771)の技術以外に、大型トラックの実走行時の排気ガス温度を高温に制御できる技術は、世の中に見当た
らない。

 ところが、、日本のトラックメーカ・大学・研究機関の大型トラック用ディーゼルエンジンの研究開発に関係している学
者・専門家の人達は、大型トラックの実走行時の排気ガス温度を高温に制御できる唯一の技術である気筒休止エンジ
ン(特許公開2005-54771)の技術を無視・黙殺しているのである。その一方で彼らは、カニカルターボコンパウン
ド」、「エレクトリックターボコンパウンド」、「ランキンサイクル」、「熱電素子」および「スターリングエンジン」等のディーゼ
ルエンジンの排気ガスのエネルギーを回生する装置によって大型トラックの実走行燃費や重量車モード燃費の向上が
可能と盛んに主張し、喧伝しているのである。

 例えば、2010年7月28日発表の中央環境審議会・大気環境部会の「今後の自動車排出ガス低減対策のあり方に 
ついて(第十次答申)」では、「燃費向上」のために「一部車種へのターボコンパウンドシステムの採用」と記載されてい
るが、この「燃費向上」のためには「ターボコンパウンド」に大型トラックの実走行時の排気ガス温度を高温に制御する
技術」の組合わせが必要・不可欠であることについては、何も記述されていないのである。また、表5に示したように、
2011年9月発行の「自動車技術」誌(Vol.65,No.9,2011)の「自動車用エンジン技術の現状と将来」と題した論文の「3.2. 
重量車の燃費改善」の項において、早稲田大学の大聖教授は、エンジン部分負荷の運転領域の排気ガスの高温・高
圧化(=熱エネルギー・圧力エネルギーの増大)を可能にする技術を何も提示すること無く、ただ単に排気ガスのエネ
ルギーを回転動力や電気エネルギーに回生する装置・技術(=メカニカルターボコンパウンド」、「エレクトリックターボ
コンパウンド」、「ランキンサイクル」および「熱電素子」)によって大型トラックの十分な燃費向上が可能との意見が述べ
られている。

 表5 排気ガスのエネルギーを回生する装置・技術についての大聖教授の主張・見解
(自動車技術」誌2011年9月号での記載内容)
項 目
内 容
論文の題目と著者




著者:早稲田大学教授 大聖 泰広 氏

出典:「自動車技術」誌(Vol.65,No.9,2011)
本論の一部

 しかし、前述のように、大型トラックのディーゼルエンジンに排気ガスのエネルギーを回生する装置を装着しただけで
は、大型トラックの実走行燃費や重量車モード燃費の十分な向上を図ることが困難である。そして、ディーゼルエンジン
の排気ガスのエネルギーを回生する装置によって大型トラックの実走行燃費や重量車モード燃費の十分な向上を図る
ためには、実走行時のエンジン排気ガス温度を高温化することが必要・不可欠だ。そして、この「実走行時のエンジン
排気ガス温度を高温化する手段・技術」が未知・不明の場合には、ディーゼルエンジンの排気ガスのエネルギーを回生
する装置を用いて大型トラックの実走行燃費や重量車モード燃費を十分に向上することが極めて困難である。

 ところが、この自動車技術誌の表3の論文では、大聖教授は、ディーゼルエンジンの排気ガスのエネルギーを回生す
る装置によって大型トラックの実走行燃費や重量車モード燃費の十分な向上を図るための肝心要の技術である「実走
行時のエンジン排気ガス温度の高温化制御」の必要性について、一言も言及していないのである。このことから、大聖
教授は、実走行時のエンジン排気ガス温度を高温に制御しなくても、ディーゼルエンジンの排気ガスのエネルギーを回
生する装置が大型トラックの実走行燃費や重量車モード燃費の十分な向上を図ることが可能との主張・見解を持って
をいるのであろうか。常識的に考えれば、日本を代表するディーゼルエンジン研究者の一人である大聖教授が、まさか
そのような頓珍漢な主張・見解の持ち主とは、とても考えられない。

 そこで考えられることは、大聖教授は、大型トラックの実走行時のエンジン排気ガス温度を高温に制御できる手段・
技術の知見・情報を何も保有していないため、この「排気ガス高温化の技術」の併用が必要であることを意図的に省略
した可能性も否定できない。何故ならば、大型トラックの実走行時のエンジン排気ガス温度を高温に制御することが技
術的に困難であれば、ディーゼルエンジンの排気ガスのエネルギーを回生する装置によって大型トラックの実走行燃
費や重量車モード燃費の十分な向上を図ることが技術的に難しいことは、誰でも容易に推論・推測できることだ。この
ような状況に陥ることを避けたいために、大聖教授は、この「排気ガス高温化の技術」の併用が必要であることを意図
的に省略・隠蔽し、ディーゼルエンジンの排気ガスのエネルギーを回生する装置を用いて大型トラックの実走行燃費を
向上できる旨を論文に記載し、見かけ上の不具合を露見しないように細工をしたした可能性も否定できない。このよう
に、大型トラックの実走行時において排気ガス温度を高温に制御できる技術を併用することが必要・不可欠であること
を省略・隠蔽することによって、ディーゼルエンジンの排気ガスのエネルギーを回生する装置によって大型トラックの実
走行燃費や重量車モード燃費の十分な向上が可能との主張・見解を大聖教授は正当化しようとした可能性があるよう
に思えるのである。

 果たして、大聖教授は、本当に「大型トラックの実走行時のエンジン排気ガス温度を高温に制御する手段・技術との
組み合わせによってディーゼルエンジンの排気ガスのエネルギーを回生する装置が初めて大型トラックの実走行燃費
や重量車モード燃費の十分な向上を実現できる」と云う技術的な情報・知識を省略・隠蔽し、自動車技術誌(2011年9月
号)に「ディーゼルエンジンの排気ガスのエネルギーを回生する装置によって大型トラックの実走行燃費や重量車モー
ド燃費の十分な向上が可能」と主張する表3の論文を発表したのであろうか。仮にそうであるならば、大聖教授は、ディ
ーゼルエンジンの排気ガスのエネルギーを回生する装置を大型トラックに採用するだけでは、大型トラックの実走行燃
費や重量車モード燃費を十分に向上できないことを事前に承知していたように思えるのである。それにもかかわらず、
大聖教授は、「ディーゼルエンジンの排気ガスのエネルギーを回生する装置を大型トラックに採用するだけで、大型トラ
ックの実走行燃費や重量車モード燃費の十分な向上が可能である」とも読み取れる内容の論文を、自動車技術誌
2011年9月号)に発表していることについて、筆者には少し疑問に思えるのである

 また、自動車技術会の「2010年人とくるまのテクノロジー展」(2010年5月19〜21)で世界的なエンジン研究機関であ
るAVL(オーストリア)のヘルムート・リスト会長が講演し、AVLは、具体的なディーゼルの効率向上の方法として「排気
熱を電気エネルギーに変えるコンバーターを付けることで、6 - 7%ほど効率を上乗せできる」と発表している。しかし、
大型ディーゼルトラックは常にエンジン出力が変動する上に部分負荷の運転で低い排気ガス温度となることが多いた
め、大型トラックに「排気熱を電気エネルギーに変えるコンバーター」を搭載した場合には効率が著しく劣ってしまうこと
になる。そのため、大型トラックにこのコンバーターを搭載しても十分な走行燃費や重量車モード燃費の向上は難しい
と推測される。そのため、AVLがこのコンバーターの搭載によって大型トラック用ディーゼルエンジンの効率を6 - 7%
ほど改善できるとの講演での発表は、筆者には大きな誤りと思えるのである。

 以上のように、仮にも、大型トラックの実走行時において排気ガス温度を高温に制御できる技術が不明の場合には、
メカニカルターボコンパウンド」、「エレクトリックターボコンパウンド」、「ランキンサイクル」、「熱電素子」および「スター
リングエンジン」等の「ディーゼルエンジンの排気ガスのエネルギーを回生する装置」は、大型トラックの「実走行の燃費
向上」や「重量車モード燃費」の十分な向上機能が発揮できないことが明らかだ。このことは、機械工学を学んだ人間
であれば、誰でも容易に理解できることだ。このように、大型トラックの実走行時において排気ガス温度を高温に制御
できる技術を組み合わせていない「ディーゼルエンジンの排気ガスのエネルギーを回生する装置」は、「日没や雨天の
間のソーラー発電装置」や「無風の時の風力発電装置」と同様に、「役立たず」の装置・技術と断言できるのではないだ
ろうか。そのような場合の「ディーゼルエンジンの排気ガスのエネルギーを回生する装置」は、大型トラックにとっては何
とも邪魔で高価な単なる「お飾り」や「無用の長物」に過ぎないことになる。
 
 何はともあれ、従来の大型トラック用過給ディーゼルエンジンにディーゼルエンジンの排気ガスの熱エネルギー・圧力
エネルギーを回転動力や電気エネルギーに回生する装置・技術(=メカニカルターボコンパウンド」、「エレクトリックタ
ーボコンパウンド」、「ランキンサイクル」、「熱電素子」および「スターリングエンジン」等)を単純に装着しただけでは、大
型トラックの実際の走行燃費(=実走行燃費)の十分な向上は困難だ。そこで、筆者が提案していることは、大型トラッ
クの実走行時のエンジン部分負荷運転での排気ガスの高温化(=排気ガスの熱エネルギー・圧力エネルギーの増加)
を図る気筒休止エンジン(特許公開2005-54771)の技術と、ディーゼルエンジンの排気ガスのエネルギーを回生する
装置」(=メカニカルターボコンパウンド」、「エレクトリックターボコンパウンド」、「ランキンサイクル」、「熱電素子」およ
び「スターリングエンジン」等)とを組み合わせることである。このように、排気ガスエネルギーの回生装置は、気筒
休止エンジン(特許公開2005-54771)の技術」を組み合わせることによって、初めてディーゼルエンジンの部分
負荷運転時の排気ガス温度の高温化が可能となり、大型トラックの実際の走行燃費(=実走行燃費)の十分な
向上が実現できるのである。

6.気筒休止エンジン(特許公開2005-54771)による排気エネルギー回生装置の効率向上

 現在のポスト新長期排出ガス規制(2009年規制)適合の大型トラック用インタークーラ過給ディーゼルエンジンは、
図3の模式図に示したように、正味平均有効圧力の増加に反比例して燃料消費率が良化し、正味平均有効圧力
(Pme)の増加に比例してタービン入口、タービン出口の排気ガス温度が高温となる特性がある。そして、全負荷(=10
0%負荷)のタービン出口の排気ガス温度は500℃程度であり、50%負荷のタービン出口の排気ガス温度は250℃
程度である。



図4 一般的なインタークーラ過給ディーゼルエンジンの燃料消費率と排気ガス温度の特性

 そして、前述の図3のJE05およびWHTCの試験法における2種類のエンジン(12.91リットル、4.01リットル)の回転数・
負荷頻度分布図に示したように、排出ガス試験サイクル(JE05 モード)やWHTC試験法は、トラックの実走行における
エンジン運転頻度から作成されたものであ。そのため、トラックの実走行では、前述の図3に示したJE05およびWHTC
の試験法における2種類のエンジン(12.91リットル、4.01リットル)の回転数・負荷頻度分布図に示したように、実際のエ
ンジン運転は大部分が部分負荷である。このように、インタークーラ過給ディーゼルエンジンを搭載した一般の大型トラ
ックの走行では、エンジンは中速回転の50%負荷近傍の領域で主に運転される頻度が多いのである。

 一方、前述の3項「メカニカルターボコンパウンドにおけるディーゼル排気ガスのエネルギー回生」に示したように、デ
ィーゼルエンジンの排気ガスの熱エネルギーを動力に回生する機構のため、部分負荷時に排気ガス温度が低下する
ディーゼルエンジンにおいては、排気ガスエネルギー回生装置のエネルギーを回生する効率は、著しく低下する欠陥
がある。このように、大型トラックのディーゼルエンジンにディーゼルエンジンの排気ガスの熱エネルギー・圧力エネル
ギーを回転動力や電気エネルギーに回生する装置・技術(=メカニカルターボコンパウンド」、「エレクトリックターボコ
ンパウンド」、「ランキンサイクル」、「熱電素子」および「スターリングエンジン」等)を単純に装着した場合には、大型トラ
ックの実際の走行時には低い排気ガス温度の常態で排気ガスエネルギー回生装置が運転されることになる。そのた
め、従来の大型トラックに排気ガスエネルギー回生装置を装着したとしても、実際に大型トラック走行燃費を十分に
向上することが困難となる。したがって、排気ガスエネルギー回生装置を用いて大型トラックの走行燃費を向上するた
めには、エンジンの50%負荷近傍の領域で排気ガスエネルギー回生装置が高い効率で運転できるシステムとする必
要がある。

 この大型トラックの走行時に極めて運転頻度の多いエンジンの50%負荷近傍の領域で排気ガスエネルギー回生装
置が高い効率で運転を可能にする技術が気筒休止エンジン(特許公開2005-54771)である。このように、排気ガスエネ
ルギー回生装置に気筒休止エンジン(特許公開2005-54771)を組み合わせることにより、大型トラックの十分な燃費向
上が実現できるのだ。これについて、カルノーサイクルの効率計算が容易であることから、カルノーサイクルの排気ガ
スエネルギー回生装置を想定し場合について、エネルギー回生装置に気筒休止エンジン(特許公開2005-54771)を組
み合わせた場合に、大型トラックの実走行時のエンジン50%負荷におけるエネルギー回生装置の運転効率の向上が
実現できることを説明する。

 先ずは、カルノーサイクルについて、簡単に説明する。カルノーサイクルでは、以下の式に示した通り、高熱源の温度
が高温になるほど、高い熱効率となるのである。したがって、排気ガスエネルギー回生装置の入り口の排気ガス温
度が低温となる大型トラック実際の走行では、排気ガスエネルギー回生装置の採用による大型トラックの走行燃費
を十分に向上することは難しい。


                                        ただし、添字 H:高熱源の温度、L:高熱源の温度
(出典:http://fnorio.com/0102heat_engine(gas_cycle)1/heat_engine(gas_cycle)1.htm
 
 このように、可逆機関であるカルノーサイクルは、絶対温度THの高温熱源と、絶対温度TLの低温熱源の間で作動す
る熱機関の中で「最も効率の良い動力熱機関」である。このカルノーサイクルの効率は熱源の絶対温度のみで決まり、
できるだけ大きな温度差を持つ熱源間で働かすほど熱効率は良くなるのだ。このことは、エンジン技術者でなくても、誰
もが知っている極めて常識的なことだ。

 次に、前述の図4に示した大型トラックのエンジンの例では、エンジンの全負荷(=100%負荷)で過給機のタービン
出口の排気ガス温度は500℃であり、そして実走行時のエンジン50%負荷における過給機のタービン出口の排気ガ
ス温度は250℃である。この大型トラックのエンジンにカルノーサイクルのエネルギー回生装置を装着した場合と、
筒休止エンジン(特許公開2005-54771)と組み合わせたカルノーサイクルのエネルギー回生装置を装着した場合につ
いてのエネルギー回生装置の熱効率を以下の表6に示す。

表6 気筒休止エンジン(特許公開2005-54771)の組合せの有無によるエネルギー回生装置の熱効率の相違
システム
エンジン50%負荷における
エネルギー回生装置入口の
排気ガス温度
エンジン50%負荷における
エネルギー回生装置の
出口の排気ガス温度
カルノーサイクルの
エネルギー回生装置の
熱効率
エネルギー回生装置
250 ℃
30 ℃
43 %
エネルギー回生装置と
気筒休止エンジン(特許公開2005-54771)
との組み合わせ
500 ℃
30 ℃
61 %

 この表6に示した通り、大型トラックの実走行時のエンジン運転頻度の多いエンジンの50%負荷におけるカルノーサ
イクルの排気ガスのエネルギー回生装置の熱効率は、気筒休止エンジン(特許公開2005-54771)を組み合わせた場
合には、42%も増加することになる。したがって、大型トラックに排気ガスの熱エネルギー・圧力エネルギーを回転動
力や電気エネルギーに回生する装置・技術(=メカニカルターボコンパウンド」、「エレクトリックターボコンパウンド」、
「ランキンサイクル」、「熱電素子」および「スターリングエンジン」等)を採用する場合には、気筒休止エンジン(特許公開
2005-54771)の組み合わせが必須であることは明らかだ。

 しかしながら、前述の図2に示した菱重工論文の等燃費曲線比較図から明らかなように、大型トラックの実走行時の
エンジン運転頻度の多いエンジンの50%負荷でのターボコンパウンドによる燃費改善が1%程度に過ぎない。このこ
とから、気筒休止エンジン(特許公開2005-54771)を組み合わせたにおけるターボコンパウンドの場合でも、大型トラッ
クの実走行時のエンジン運転頻度の多いエンジンの50%負荷での燃費改善は1.4%程度の僅かな量にしか過ぎな
いと推測される。このことから、エネルギー回生装置による大型トラックの燃費向上については、元来、極めて少ないた
め、この気筒休止エンジン(特許公開2005-54771)を組み合わせることによってエネルギー回生装置の熱効率を40%
程度を増加させたとしても、大型トラックの十分な燃費向上は極めて困難と推察される。しかしながら、燃費向上にため
に敢えて排気ガスのエネルギー回生装置を採用する場合には、気筒休止エンジン(特許公開2005-54771)を組み合わ
せることが必須であることだけは、確かなようだ。

7.大型トラックの「NOx削減」と「走行燃費向上」に有効な「2ターボ方式の気筒休止」の技術

 この2ターボ方式気筒休止エンジンの技術【気筒休止エンジン(特許公開2005-54771)】は、ディーゼルエンジンの排
気ガスのエネルギーを回生装置」の熱効率を向上して大型トラックの実際の走行燃費や重量車モード燃費の十分な改
善を可能にすることの他にも、以下に示すような大型トラックの「排出ガスの削減」、「走行燃費の向上」および「日本の
排出ガスと燃費の規制の遅延防止と強化・推進」にも絶大な機能・効能を発揮できる技術である。

 ● 「NOxの削減」と「走行燃費の向上」が可能
   気筒休止エンジンによる大型トラックの低燃費化を参照方)
   気筒休止は、ディーゼルのNOx削減と燃費向上の一挙両得の技術だ!を参照方)

 ● 「DPFの自己再生」の促進(強制再生の頻度削減による燃料浪費を防止)
   (気筒休止はDPFの自己再生を促進 (強制再生の削減で燃費悪化を防止)を参照方)

 ● 「日本での新たな大型トラックの低燃費・低排出ガス基準」の施行・実施を実現
   (政府は大型トラックの新たな低燃費・低排出ガス基準を早期に設定せよ!を参照方)

 ● 「米国と同等以上の大型トラックの厳しいNOx規制を日本でも施行・実施」することが可能
   米国よりも緩い大型トラックのNOx規制を施行し続ける日本政府の怠慢を参照方)

 以上のように、筆者提案の2ターボ方式気筒休止エンジン【気筒休止エンジン(特許公開2005-54771)】は、大型トラ
ックの「NOxの削減」、「走行燃費の向上」および「日本の排出ガスと燃費の規制の遅延防止」を推進するために極めて
有効な機能・効能を備えた技術である。そのような優れた技術であるにもかかわらず、環境省・中央環境審議会・大気
部会・自動車排出ガス専門委員会の学者・専門家を初めとして、日本のトラックメーカ・大学・研究機関の大型トラック
用ディーゼルエンジンの研究開発に関係している学者・専門家は、2ターボ方式気筒休止エンジンの技術【気筒休止エ
ンジン(特許公開2005-54771)】を頑なに無視・黙殺しているのだ。

 このように、大型トラックの「NOxの削減」、「走行燃費の向上」および「日本の排出ガスと燃費の規制の遅延防止」を
容易に推進できる気筒休止エンジン(特許公開2005-54771の技術を無視・黙殺する日本の大型トラック用ディーゼル
エンジンの研究開発の学者・専門家は、揃いも揃って「馬鹿?」や「間抜け?」な人達ばかりのように思えるが、如何な
ものであろうか。

 上記本文中で誤り等がございましたら、メール等にてご指摘下さいませ。また、疑問点、ご質問、御感想等、どのよう
な事柄でも結構です。閑居人宛てにメールをお送りいただければ、出来る範囲で対応させていただきます。

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