閑居人のアイデア                        トップページに戻る  サイトマップ


DDF運転とディーゼル運転の選択が可能なDDF大型トラック

(DDF:ディーゼルデュアルフュエルエンジン=軽油着火型天然ガスエンジン)

最終更新日:2009年4月17日


1.デュアル運転モードのDDF大型トラック

 燃焼室内にパイロット噴射した軽油の自己着火の火炎により天然ガスを燃焼させる軽油着火型の天然ガスエン
ジンが、ディーゼルデュアルフュエルエンジン(DDFエンジン)である.このDDFエンジンをご存知でない方は、ディー
ゼルに比べ15%のCO2削減が可能なDDFエンジンのページをご覧いただければ、DDFエンジンの構造・作動と
共に、DDFエンジンを大型トラックに搭載した場合、CO2削減、脱石油および燃料費の削減ができることを良く理解
していただけるだろう。 

 さて、DDFエンジンでは、少しの工夫を行うことによりDDF運転とディーゼル運転とを互いに切り替えが可能な
デュアル運転モードの機能を持たせることが可能である。筆者が以前に勤務していた日本エコス鰍ェカナダの
Alternative Fuel Systems Inc.と共同で開発したフォワードのDDFトラックは、当時の運輸省の大臣認定を受け、
2000年頃に1年間にわたり関東地方で運送会社による貨物輸送の実用走行試験を行なった。このフォワードDDF
トラックは,ディーゼル運転での走行とDDF運転での走行に互いに切り替えが可能な、デュアル運転モードの走行
ができるシステムを装備した。このデュアル運転モードのシステムでは、運転手のスイッチ操作でDDFエンジンでの
走行とディーゼルエンジンでの走行とを任意に選択して切り替える制御と,CNGタンク内の圧力が一定レベル以下
になった時にエンジンECUにより自動的にDDFエンジンの走行からディーゼルエンジンの走行に切り替えられる制
御を組み込んだ仕様とした。走行中にCNGタンクの天然ガスの圧力が一定レベル以下に低下すると、電子制御装
置(ECU)はCNGタンクの天然ガスが空になったと判断し、DDFエンジンの走行からディーゼルエンジンの走行に
自動で切り替わるようにした。また走行中にエンジンがDDF運転からディーゼル運転に自動的に切り替わった場合
には、運転手には表示ランプで切り替わったことを知らせるシステムとした。 

 現在、市販されているス中・小型CNGトラックのエンジンではパークプラグ式天然ガス専焼エンジンが使用されて
いる。そのためCNGトラックが貨物輸送の途中で交通渋滞に巻き込まれ、走行中にCNGタンクの天然ガスが空に
なるとエンジンは停止し、CNGトラックは路上で立ち往生する事態とになる。法律上、路上で天然ガス自動車に天
然ガスを補給することが禁止されているため、天然ガスタンクが空になったCNGトラックは、レッカー車に来て貰
い、天然ガススタンドまで牽引してもらって天然ガスを補充すると云う、極めて面倒なことになる。そのため、市販さ
れている中・小型CNGトラックの運転手は、交通渋滞などで予定以上の天然ガスを消費し過ぎた場合には、貨物配
送等の予定を変更し、距離が離れていてもCNGスタンドに駆け込む必要がある。このように市販中の中・小型CN
Gトラックでは、運転手は日常の運行での路上停車の危険回避のために常にCNGタンクの残量に神経を使い、早
めに天然ガスの補充を励行しなければならない欠点がある。しかし、前述のフォワードDDFトラックでは、走行中に
CNGタンクの天然ガスの圧力が一定レベル以下に低下すると、電子制御装置(ECU)はCNGタンクの天然ガスが
空になったと判断し、DDFエンジンの走行からディーゼルエンジンの走行に自動で切り替わる。そのため、フォワー
ドDDFトラックは、市販のパークプラグ式天然ガス専焼エンジンのCNGトラックにおける天然ガスの欠乏時の路上
停車の問題を起こさないことも大きな特長である。 

 前述のフォワードDDFトラックを用いて日常の貨物輸送を担当していた運転手に、走行中に天然ガスが減少して
天然ガスタンク内の圧力が低下し、自動的にDDF運転からディーゼル運転に切り替わった時の状況を聞いたとこ
ろ、ディーゼル運転に切り替わったことでエンジン音が多少、五月蠅くなること以外に運転操作に何ら違和感を感じ
ることはなく、そのまま継続してスムーズに走行ができるとの話であった。 

 ところで、この貨物輸送に使われた前述のフォワードDDFトラックは、往きは貨物積載で高速道路を走行し,帰り
は空荷状態で一般国道を走行する形態で一日に約300kmを走行する貨物輸送に使用された。このフォワードDDF
トラックでは毎日の出発前に天然ガスを補給し、数日に1回の割合で軽油を補給する必要があったが、運転手に2
種類の燃料補給の煩わしさについて質問したところ、日々の予定に入れているので全く問題がないとのことであた。
毎日の天然ガスを補給すると云う少しのデメリットに比べ、フォワードDDFトラックでは運転中の車内音が小さいた
めラジオが良く聞こえる上に、DDFトラックが低騒音であるために毎日の運転後の疲れが従来のディーゼルトラック
よりも少ないと云うメリットの方が遥かに大きいとのことであった。(因みにDDF運転ではディーゼル運転よりもエン
ジンから1メートル離れた近接音では2dB(A)程度低い。) なお、このフォワードDDFトラックの貨物輸送の運行状
態では総燃料消費量に占める天然ガスの比率が50%程度であった。

 一般に大型トラック(積載量15トンクラス)のパワーウェイトレシオ(エンジン出力当たりのGVW[車両総重量])は、
中型トラック(積載量4トンクラス)のパワーウェイトレシオよりも大幅に大きい。エンジン出力に対して相対的に車両
重量の重い大型トラックの走行時のエンジン正味平均有効圧力は、中型トラックの走行時のエンジン正味平均有効
圧力よりも常に高い状態で運転されることになる。ディーゼルトラックと同等のエンジン出力のDDF大型トラックを開
発し、都市間の貨物輸送に使用した場合には、このDDF大型トラックのパワーウェイトレシオは、前述のフォワード
DDFトラックより大幅に大きい値となる。前述のフォワードDDFトラックよりエンジン出力に対して相対的に車両重量
の重いDDF大型トラックの場合には、総燃料消費量に占める天然ガスの比率は60〜70%程度まで増加し、フォワ
ードDDFトラックより高くなると予想される。このように、DDF大型トラックの総燃料消費量に占める天然ガスの比率
は、前述のフォワードDDFトラックの天然ガスの比率よりも大きく増えることは間違いないため、DDF大型トラックで
は脱石油とCO2削減の効果を更に上げることができると予想される。

 このようなデュアル運転モードで運行できるフォワードDDFトラックでは,CNGスタンドの設置された地域ではDDF
エンジンで走行させ,天然ガスの補給が困難な地域ではディーゼルエンジンで走行させることが可能である。したが
って,デュアル運転モードの機能を備えたDDF大型トラックを新たに実用化した場合には,軽油と天然ガスを併用し
ながら日本全国に貨物を輸送することができるため、我が国の貨物輸送分野における大型トラックの分野での脱
石油が容易に実現することが可能である。 

2.DDF大型トラックの実用化による脱石油とCO2の削減が実現可能

 経済産業省の2006年5月の「新・国家エネルギー戦略」では,ほぼ100%を石油系燃料に依存する運輸部門はエ
ネルギー需給構造の中で最も脆弱性が高いために石油依存からの脱却を図るべきとし,「今後、2030年までに、運
輸部門の石油依存度を80%程度とすることを目指す」と明記されている。そして運輸部門の脱石油エネルギーとし
ては、バイオマス由来燃料(バイオディーゼル燃料等)、電気(電気自動車用)、水素やメタノール(燃料自動車用)、
GTL(ガス・トウ・リキッド)、BTL(バイオマス・トウ・リキッド)、CTL(コール・トウ・リキッド)など挙げられている。また、
経済産業省の「次世代低公害車の燃料及び技術の方向性に関する検討会報告書」(平成15年8月8日)でも、都
市間走行の大型トラックの低公害化・脱石油の手段は、DME、GTL及びCTLおよびバイオマス由来燃料(バイオディ
ーゼル燃料)と記載されている。以上のことから経済産業省はDME、GTL及びCTLおよびバイオマス由来燃料の積
極的な導入により、大型トラックの脱石油エネルギーに転換することが出来ると考えているようである。しかし、現
在、経済産業省が考えている方法によって本当に「大型トラックの2030年に向けて運輸部門の石油依存度を80%
程度にする脱石油の目標」や、環境省が「京都議定書で合意された1990年時点のCO2排出量に比べて2008年〜
2012年までの期間に我が国が6%削減する目標」が実現できるのであろうか。筆者は甚だ疑問に感じているところ
だ。

 前述のディーゼルに比べ15%のCO2削減が可能なDDFエンジンのページの「2.CO2の削減が可能な燃料につ
いて」の項に、採掘から各種燃料を製品化するまでの投入エネルギーを含んだ各種燃料の単位発熱量当たりのD
MEと軽油のCO2排出量が同等であり、GTLが軽油よりCO2排出量が15%程度も多いことを説明した。また、石炭
を原料とするCTLは、原料の採掘から各種燃料を製品化するまでの単位発熱量当たりのCO2排出量が軽油より格
段に多いことは周知に事実である。このように原料の採掘から各種燃料を製品化するまでの各種燃料の単位発熱
量当たりのCO2排出量の多少を考えると、軽油をDME、GTLまたはCTLに転換する場合は、デメリットはあってもメ
リットは何も無い。燃料価格や経済性から見た場合、軽油やLNGの生産時の熱効率が0.9前後であるのに対してD
MEの生産時の熱効率が0.7、GTLの生産時の熱効率が0.5と大幅に低いことを考慮すると、DMEやGTLは軽油よ
りも相当に高価な燃料であることは間違い無く、運行コストの面でも大型トラックの燃料を軽油からDMEやGTLに
転換することは極めて困難であると予想される。大型トラックの燃料にDMEやGTLが適していないことについては、
天然ガスから合成のDMEとGTLは、トラック用燃料に不適に詳述しているので、参照願いたい。これらのことを考慮
すると、経済産業省の「新・国家エネルギー戦略」や「次世代低公害車の燃料及び技術の方向性に関する検討会報
告書」に示された脱石油のエネルギーの中で大型トラックに使用可能なエネルギーは、バイオマス由来燃料(バイオ
ディーゼル燃料)のみのようである。 

 ところが、地球規模で考えた場合、近年、砂漠化の進行による耕作地の減少や水資源の不足が問題となってい
ることに加え、近い将来には人口増加による食糧危機も懸念されている状況である。このような現状を考えると、植
物を原料として製造されるバイオマス由来燃料は、将来、仮に少しの技術的な進歩があったとしても、2030年までに
我が国の大型トラックに使用する軽油の20%をバイオディーゼル燃料に転換することは極めて困難な施策であると
は容易に予想できることだ。以上の結果、経済産業省の政府報告書に示されているような、軽油の20%をバイオデ
ィーゼル燃料に転換する手法で2030年までにCO2の削減と脱石油を同時に実現することは、不可能と断定するの
は言い過ぎであろうか。

 何度も言うがLNG(天然ガス)はDMEやGTLよりも大幅に燃料価格が低い経済性の面でも優れた燃料である。そ
こで、石油に匹敵する埋蔵量があり、燃料価格が石油よりも安価な上に石油系燃料よりも単位発熱量あたりのCO
2排出量が少ない天然ガスを大型トラックの燃料に使用できれば、「大型トラックの「CO2削減」と「脱石油」の技術
は、未だに不明か?」に記載のように、大型トラックのCO2の削減と脱石油が同時に実現することが可能となる。ま
た、同時に軽油より安価な天然ガスを併用できることは運送業者にとっては、トラックの運行コスト削減のメリットも
ある。現在の技術で熱効率の低下を回避しつつ天然ガスが併用でき最適なエンジンは、軽油着火型天然ガスエン
ジンのDDFエンジンのみである。この天然ガスを併用するDDFエンジンを大型トラックに採用することにより、大型
トラックのCO2の削減と脱石油を同時に実現することが可能である。勿論、このDDF大型トラックには、ディーゼル
運転とDDFエンジンの2種類に切り替えが可能なデュアル運転モードのシステムを搭載することは当然である。 

 以上のことから、デュアル運転モードのDDF大型トラックのを早期に実用化し、市場に数多く導入することにより、
天然ガスを併用するDDFエンジンの運転時には15%程度のCO2の削減ができると共に,石油への完全な依存か
らの脱却が可能になるのではないかと考えている。デュアル運転モードのDDF大型トラックは、長距離貨物輸送分
野のCO2の削減と脱石油を容易に実現することが可能である。今のところ、これを凌駕する他の手段は見当たら
ないと考えている。

 さて、図1は単位発熱量当たりの原油とLNG(液化天然ガス)の近年の価格を示したものである。2003年11月以前
の原油の価格変動が安定していた時代には、単位発熱量当たりの原油とLNGの価格はほぼ同等であった。しか
し、その後、原油は高騰の後に暴落し、2009年初頭には価格の安定を取り戻しつつある。米国のサブプライムロー
ンの破綻から始まった世界的な金融危機で原油等の商品市場に流入した投機資金が引き揚げられると共に、実態
経済の悪化によって中国・インドの新興国の急激な経済成長が急激に鈍化したことにより、2009年中頃には2003年
11月以前のように単位発熱量当たりの原油価格がLNG価格と同等のレベルになって行くものと予想される。


図1 天然ガスと石油価格の変動比較
(出典:季報エネルギー総合工学Vol129 No40(2007.1)
http://www.iae.or.jp/publish/kihou/bnb.html


 ところで、国内で消費されるディーゼル燃料の軽油は、わが国に輸入された原油に多くのエネルギーを投入して
原油から軽油をを精製し、脱硫して製造されている。したがって、通常、国内で販売されている軽油は、原油の輸入
価格に精製・脱硫の製造コストと利益が加算された価格で販売されている。これに対し、LNGは輸入されたそのまま
の状態で販売されるため、LNGは輸入原価に輸送費と利益が加算さた価格で販売されている。そのため、仮に将
来、単位発熱量当たりの原油価格が当該のLNG価格と同等になったとしても、LNGは、常に精製・脱硫の製造コス
トが加算される軽油よりも常に安価で販売されることは間違いない。 

 今後、デュアル運転モードのDDF大型トラックが実用化された場合には、L-CNGスタンドで軽油よりも安価なLNG
をCNG(圧縮天然ガス)化し、このCNGを併用してDDF大型トラックを運行することが可能となる。L-CNGスタンドに
よるCNG供給システムを整えたDDF大型トラックの運行体制では、長距離貨物輸送分野のCO2の削減と脱石油
の他に運行経費の削減も容易に実現することが可能となる。 

 また、原油価格の高騰が著しい2008年11月25日の頃には,軽油は関東地区でリットル当たり128円(スタンド平
均)121円(ローリー平均)であったが,東京ガスのCNGスタンドで供給される天然ガスの価格は100円(月間消費量
5000立方メートル未満)〜87円(100,000円月間消費量立方メートル以上)であった。軽油の1リットルとCNGの1立
方メートルの発熱量がほぼ同等であることから、当時の天然ガスは軽油より22〜28%強も安価となっていた。こ
のような軽油と天然ガスの燃料に価格差が大きい時代には,DDF大型トラックでは,低価格で補給できる燃料を主
燃料に選択して運行できるため,トラック輸送において大幅に燃料費を削減できるメリットを享受することが可能と
なる。

 因みに、2008年12月18日現在のWTI原油先物は36.22ドル弱/バレル()、為替は87.8円/ドルである。WTI原油価
格の低下と円高により、我が国の原油輸入価格は低下しているが、原油はいずれ枯渇する代物のため、将来、世
界景気の回復に同調して原油の価格は一緒に上昇してくることは明らかだ。円高にしても未来永劫、円高が進んで
行くことは無い。それを考えると、やはり今のうちに次ぎの安いエネルギーにシフトする準備を進めることが企業の
経営者にとって最良の選択と考えるのが自然ではないだろうか。

 乗用車メーカーはこの状況を良く理解していると考えられ、三菱自動車は2009年に電気自動車の乗用車の発売
を発表しており、2010年にはトヨタ、富士重工および日産も電気自動車の乗用車の販売を予定しているとのことだ。
最近、ドイツでもメーカーを巻き込んだ電気自動車開発の国家プロジェクトが立ち上げられたことから、急速に脱石
油の動きが活発化しつつあるようだ。先見の明のある乗用車メーカーの経営者は今後の脱石油の潮流を見越し、
次世代の乗用車はガソリン・ディーゼル自動車から電気自動車に転換して行く方向に舵を切ったものと考えられ
る。しかし、大型トラックの脱石油の具体的な方策については、何れのトラックメーカーからも何も発表されておら
ず、ダンマリの状態である。トラックメーカーの経営幹部は金融危機に端を発した目先の販売台数の減少による採
算の悪化に目を奪われ、長期的な開発戦略を真剣に考える余裕が無いのであろうか。それとも、トラックメーカーの
経営幹部は元々、将来のエネルギー事情やCO2削減問題については何の関心や展望も持っていない人達であろう
か。

3.DDFエンジンの更なる性能向上について

 デュアル運転モードが可能な天然ガス併用のDDF大型トラックの導入は,CO2の削減,脱石油によるエネルギー
危機管理の充実,安価な天然ガスの併用による燃料費の削減が一挙に実現させることが可能となる。そのため,
今後,官民の協力による早期の実用化が望まれるところだ。このDDFエンジンについては、図2の模式図に示した
ようにシリンダ内に天然ガスを直接噴射する直噴式DDFエンジンとすることによって、シリンダ内への天然ガスの噴
射の適正化を図り、エンジン性能を更に向上することが可能となる。ただし、その場合、この直噴式DDFエンジンに
直噴式DDFエンジン(特許公開2008-51121)の技術を適用することによってデュアル運転モードの機能を付与し
ておくことが不可欠である。これによってデュアル運転モードの機能を備えた直噴式DDFエンジン搭載のDDF大型ト
ラックが実現でき、日本全国に貨物を輸送することが可能となる。



図2 直噴式DDFエンジンにおける天然ガス噴射の模式図 

 また,直噴式DDFエンジン搭載のDDF大型トラックでは、部分負荷運転時の燃費低減のために気筒休止エンジン
(特許公開2005-54771)や部分負荷時のHC削減のために部分負荷時に酸化触媒の温度上昇を可能にする後処
理制御システム(特許公開2005-69238)等の新たなアイデアを導入することにより,更なる高性能化を図ることも可
能である。 

4.現在の世界的な経済不況に生き残るトラックメーカーとは?

 アメリカで起こった2007年夏のサブプライム問題に端を発した世界規模の金融危機は、未だ収束の兆しが見えな
い状況である。世界の株の時価が2007年10月にピークの6300兆円から2008年10月末には3000兆円(−50%)も減
ったそうだ。世界の金融機関と投資家の株の購入価格が不明のため実質の損失は3000兆円の何割かは不明であ
るが、多額の損失を被っていることは間違いない。また株以外の債券についても、欧米の銀行などの金融機関は
サブプライムローンなどの不良債券を多く保有しているが、これら債券のCDS(クレジット デフォルト スワップ:債券
破綻保険)が 4500兆円とも、6600兆円とも報道されている。世界の金融機関や投資家の保有する4000〜6000兆
円超の規模の証券化された債券の何割が債務不履行に陥るか判らないため、この債券を多く保有する欧米では
債券市場が売買不能状態となってインターバンク市場も機能が停止寸前となった。これに対し緊急に公的資金の
注入が行われ、やっと欧米の銀行は一息ついたところである。今後、損失額の増加が判明すれば、再度、欧米の
銀行では金融危機が起こる恐れは否定できない。また、アメリカの投資銀行はリーマンブラザーズが破綻し、その
他の投資銀行は商業銀行に吸収されるか、または銀行に転換されて銀行としての規制を受けるようになった。EU
でも公的資金の注入により金融機関が次々国有化されて銀行の融資にも制限が加えられているようだ。 

 この世界的な金融危機で信用不安が蔓延して企業も社債による低金利の資金調達が出来なくなり、長期・短期を
問わず資金の借り入れには高金利で借りなければならず、財務体質がどんどん劣化しており、欧米では消費不況
が襲い始めて自動車の売れ行きも激減している。今回の金融危機では未だに損失額が確定できていない状態であ
る。今後、金融危機が解消し、企業に十分な資金が行き渡って未曾有の世界的な実態経済の不況が回復するの
は、1〜2年と予想する人もいれば10年以上と予想する人もいる。かつての日本の1990年代の土地バブル崩壊後、
わが国の金融機関が償却した不良債権の額は100兆円超えだったそうだ。この時と比べれば今回の米国を主体と
する金融商品の不良債権の損失額は、日本の土地バブル騒動の時よりも数十倍にもなり、桁違いに大きい。この
膨大な額の金融不良債券の償却を各国政府を巻き込んで欧米諸国が全体で行うとしても容易でないことは明らか
だ。如何ように考えても膨大な損失額の償却には相当な年数が必要と考えるのが妥当ではないだろうか。

 これまで景気の牽引役であった欧米諸国の消費が激しく落ち込んだことと、厳しい円高の影響により、トラックの
国内販売と輸出の両方で急激に台数削減を強いられているようだ。或るトラックメーカーではそれまで大型トラック
を50〜60台/日の生産であったが、2008年12月には10台レベル/日まで生産が落ち込んでいるとのこと。このトラ
ックメーカーでは2008年12月に派遣社員や期間契約社員の全員の雇用を打ち切り、2008年1月からは正社員には
5%(一般の社員)〜10%(課長以上の社員)の給与カットを開始したとのこと。そして2010年3月には寮や社宅の廃
止も予定されているようである。しかしながら、この程度の固定費削減では生産台数の激しい減少による膨大な赤
字を埋めることはできないだろう。大幅な減産が続くようであれば、早晩、正社員のリストラなどの更なる強力な固
定費削減が行われることになる。企業は慈善事業ではないからだ。

 今後、長期にわたると予想される今回の世界規模の不況では、日本のトラックメーカーは単なる後ろ向きの固定
費削減のリストラだけで大幅減産による赤字を解消することは無理ではないだろうか。日本にはトラックメーカーが
4社もあり、互いに厳しい販売競争を繰り広げている中で生き残って行くためには、他社を凌駕する売れるトラック
を開発し、販売シェアを伸ばして採算ラインまで販売台数を増やす必要があることは明らかだ。不況下においても
販売シェアが伸ばせる大型トラックとしては、CO2の削減,脱石油によるエネルギー危機管理の充実,安価な天然
ガスの併用による燃料費の削減が一挙に実現できるDDF大型トラックが最適ではないかと考えている。このDDF
大型トラックを他社に先じて商品化したトラックメーカーは、この競争に打ち勝つことができると信じている。逆に言
えば、何れかのメーカーがDDF大型トラックを商品化した暁には、従来のディーゼル大型トラックではCO2を多く排
出し続けながら、燃料には高価な軽油しか使用できないハンディキャップを負わされることになる。そのため、従来
のディーゼル大型トラックは自然に淘汰されて行くことは明らかだ。

 さて、図3−2に示した原油の生産動向から、原油の生産が需要の伸びを満たせなく、頭打ちとなる「石油ピーク」
は2005年5月頃であったと云われている。 


注:米国エネルギー省、エネルギー情報局(EIA)の月別原油生産統計による 

図3−1 近年の全世界の原油生産量の推移
(出典 http://www007.upp.so-net.ne.jp/tikyuu/opinions/2005peak.htm




図3−2 世界の石油生産量:過去と未来(C.J.Campbell 1998)
(出典 http://sun.ap.teacup.com/souun/61.html)

 トラックメーカーの経営幹部は、「石油ピーク」の過ぎた現在においては、原油の需要が少しでも増加したり、地域
紛争で原油の生産が少しでも減少すれば、原油は価格が異常に上昇する危険のある代物であることを深く認識し
ておく必要がある。今後、米国の一極支配が弱まって中東の紛争が激化すれば石油価格の上昇することは間違い
ない。GM,、フォード、クライスラーは2005年5月頃の「石油ピーク」の過ぎた後も石油をがぶ飲みする時代遅れの自
動車を生産していたため経営危機に陥っており、立ち直りが難しいとの噂である。危機管理の意識が低い幹部が
経営する会社の行く末の見本であろう。 

 以上のような状況を良く理解すれば、天然ガスを併用する脱石油のDDF大型トラックを開発しておくことはトラック
メーカーの危機管理として必須のアイテムではないか思っている。好都合なことにDDF大型トラックは、15%のCO
2排出の削減と、消費する燃料の60〜70%程度には低価格の天然ガスが使用できる優れた特長もある。そのた
め、何れかのトラックメーカーがDDF大型トラックが商品化すれば、運送会社は従来のディーゼル大型トラックから
DDF大型トラックに躊躇なく入れ替えを進める可能性が極めて高いと予想される。そこで世界的な不況の現状にお
いてもDDF大型トラックを開発し、これを商品化したトラックメーカーは、今後、販売シェアを伸ばして採算が取れる
レベルまで販売台数を増やすことが可能となり、日本に4社もあるトラックメーカーの中で生き残っていくことができ
るのではないかと考えている。

 このホームページを閲覧されたトラックメーカーの人達には、DDF大型トラックが次世代大型トラックに最適なこと
を十分に理解されたのではないだろうか。CO2削減で優位な立場を確保しつつ脱石油の危機管理に万全を期すた
めに、DDF大型トラックの商品化が急務であることが納得されたであろう。石油エネルギーの転換期である現在、ト
ラックメーカーの経営幹部は、自らの企業を更に発展させるための経営判断を下す絶好の機会ではないかと思って
いる。会社の経営者等が社員を叱咤激励する際に好んで吹聴する「ピンチがチャンス」の訓示は、今まさにトラック
メーカーの経営幹部にDDF大型トラックの開発の決断を迫る言葉として相応しいのではないだろうか。

5.日本全国でDDF大型トラックに天然ガスを供給する設備について 

 既に全国に設置されている327ヶ所(2008年3月31日現在)の天然ガス(CNG)スタンドでDDFラックに天然ガス
(CNG)を補給することは可能である。しかし、既存の天然ガス(CNG)スタンドは、特定地域に偏在していて日本全
国には無い。また、既存の天然ガス(CNG)スタンドの中には、中型トラック以下の自動車を対象にしたスタンドのた
めに大型トラックが進入し難い場所に設置されている場合や、大型トラックに天然ガスの供給が困難な小規模のス
タンドもある。そのため、すべての既存の天然ガス(CNG)スタンドでDDF大型トラックに天然ガス(CNG)を補給でき
るとは限らない。そして、既存の天然ガス(CNG)スタンドでは、図4に示したように、都市内に配管された都市ガス
の1MPa以下の中圧導管に接続した導管によって天然ガスを天然ガス(CNG)スタンドに供給され、天然ガス(CNG)
スタンドに設置された電動モーター駆動のガスの圧縮機ユニットで都市ガスを25MPaまで加圧されてCNG(圧縮天
然ガス)として天然ガス(CNG)自動車に供給されている。既存の天然ガス(CNG)スタンドでは、1MPa以下の天然ガ
スを25MPaまでの圧力まで電動モーター駆動のガス圧縮機によって都市ガスを加圧するシステムが採用されてい
る。



図4 既存の天然ガススタンドにおけるCNG(圧縮天然ガス)製造工程
(出典:http://www.gas.or.jp/ngvj/text/cng_rapid.html

 この気体加圧システムではガス圧縮機の駆動に多大の電気エネルギーが消費されることと、原材料として値段の
高い都市ガスを原材料としていることから、既存の天然ガススタンドで供給される天然ガス(CNG)は比較的、高い
価格で販売されているのが現状である。以上のように、既存の天然ガス(CNG)スタンドでは比較的、高い値段で天
然ガス(CNG)が販売されていることや、既存の天然ガス(CNG)スタンドではDDF大型トラックが天然ガス(CNG)を
補充し難い場合がある。このような現状を考えると、多数のDDF大型トラックを導入した場合、その運送会社では自
社のトラック駐車場に自社専用の天然ガス(CNG)スタンドを設置することが望ましいと考えられる。

 さて、「ローリー=サテライト供給」と呼ばれる方法で電力会社系やガス会社系のLNG(液化天然ガス)販売会社か
らLNGタンクローリーでLNGを購入する場合には、低価格での購入が可能である。この安価なLNGを購入し、自社
の天然ガス(CNG)スタンドでLNGを高圧化して気化させてCNG(圧縮天然ガスにしてDDF大型トラックに天然ガスを
補給すれば、DDF大型トラックの運行コストを大幅に削減を図ることが可能となり、トラック運送会社の経営改善に
大きく貢献できることは明らかである。 

 ところで、運送会社がLNG(液化天然ガス)販売会社からLNGタンクローリーでLNGを購入する場合、海外から
LNGがLNG船で搬入される最寄のLNG受入基地からLNGが納入されることになる。幸いなことに、LNG受入基地
は、図5の通り既に北海道を除いて全国各地で稼動しているため、運送会社が全国の任意の場所に自社のLNGサ
テライト基地と天然ガス(CNG)スタンドを設置することは可能である。図5に示したLNG受入基地の他にも、東北地
方では2008年12月5日に新日本石油/青森県八戸LNG基地が稼動しており、北海道では2013年12月に石狩湾新
港中央埠頭LNG基地が稼動する予定とのこと。 

 近い将来、九州から北海道に至る日本全国でLNG受入基地が稼動することになるため、LNGタンクローリーで
LNGの供給を受ける天然ガス(CNG)スタンドは、DDF大型トラックを運行するために必要な場所に配置することが
可能となる。したがって、DDF大型トラックの長距離輸送体制を構築する上で、天然ガス供給面での制約は何も無
いと云える。そして、図6は、 日本ガス協会が提案している高速道路サービスエリアのCNGスタンドの整備である。
この日本ガス協会が提案している程度のCNGスタンドが高速道路のサービスエリアに整備された場合には、DDF
運転とディーゼル運転とを互いに切り替えが可能なデュアル運転モードのDDF大型トラックは、天然ガスを併用しな
がら日本全国に貨物を輸送することが可能となる。これによって、大型トラックによる貨物輸送分野において、脱石
油とCO2削減を飛躍的に推進できるのである。



図5 日本全国のLNG受入基地
(出典:http://www.ihcc-info.org/asia106-pipeline-genjo01-lngsite01.html)




図6 日本ガス協会が提案する高速道路サービスエリアのCNGスタンドの整備案
(出典:http://www.env.go.jp/earth/ondanka/mlt_roadmap/comm/com02-03/mat04-2.pdf

 ところで、運送会社がLNG販売会社からLNGを購入した場合には、LNG受入基地から以下の写真1〜4に示した
ようなLNGタンクローリーやLNGタンクコンテナ鉄道輸送で運送会社のLNGサテライト基地にLNGを納入されること
になる。そして、このサテライト基地に併設した運送会社の天然ガス(CNG)スタンドでDDF大型トラックに天然ガスを
補給することになり、現状の運送会社が自社の軽油スタンドで自社の大型トラックに軽油を補給している形態とほ
ぼ同様である。 



写真1 LNGタンクコンテナ鉄道輸送
出典:http://www.japex.co.jp/business/japan/lng.ht


写真2 LNGタンクコンテナ鉄道輸送
出典:http://www.japex.co.jp/business/japan/lng.html
 


写真3 LNGタンクローリー
出典:http://www.nk52.com/grp-yusou.html 
 


写真4 LNGサテライト基地
出典:http://www.lngc.co.jp/service/service2.html 

 ところで、既に産業界で広く行われているタンクローリー輸送やLNGタンクコンテナ鉄道輸送によってLNGを輸送し
て消費する形態では,LNGのユーザー側のLNGサテライト基地では固定貯槽を設置する必要がある。この方法で
はユーザー側にLNGサテライト基地の初期投資や運営費等が発生することになり、LNGの使用量が比較的少ない
ユーザーにとっては割高となる欠点があった。この欠点を解消するために考え出された方法が、図7に示したLNG
バルク輸送システムである。LNGバルク輸送システムとは,タンク部(バルク)とトレーラー部とを切り離すことができ
る構造とすることによって,ローリー車のタンクを従来のユーザー側のLNG固定貯槽に代えて使用するシステムであ
る。 



図7 LNGのバルク物流システム
(出典:日本ガス協会資料http://www.energia.co.jp/press/04/p040514-1.html

 このLNGバルク輸送システムの特徴は、バルク容器を従来のユーザーの設備である固定貯槽に代えて使用する
ことから,ユーザーの初期投資を低減し、ユーザーが固定貯槽を設置する必要が無くなるため,貯槽の運用に必要
なメンテナンス費も不要にできることが特徴である。そして、ユーザーのLNG使用量増加などの変動に対しては,固
定貯槽の場合,設備の増設等が必要であるが、固定貯槽をバルク容器とすることで,LNG使用量に応じたバルク
容量・台数の選定により容易に対応できることである。そして、 ローリー輸送の場合,LNG固定貯槽への移送など
に約1時間の時間が必要であるが,固定貯槽をバルク容器とすることによって作業時間を約30分短縮できると云う
メリットもある。 

 さて、LNGサテライト基地やLNGバルク輸送システムで搬送されたLNGを自社の天然ガススタンドでDDF大型トラッ
クに天然ガス燃料として補給するためには、自社の天然ガススタンドでLNGをCNG(圧縮天然ガス)に変換する必要
がある。前述のように既存の天然ガススタンドでは、1MPa以下の天然ガス(都市ガス)を25MPaまでの圧力まで電
動モーター駆動でガス圧縮機によって都市ガスを加圧するシステムが採用されている。これに対し、LNGを自社の
天然ガス(CNG)スタンドでDDF大型トラックに天然ガス(CNG)燃料として補給するためには、図8に示した「L-CNG
スタンド」と云われるLNGをCNG(圧縮天然ガス)に変換する設備が必要となる。




図8 L−CNGスタンドの概略図
(出典:日本ガス協会資料http://www.env.go.jp/earth/ondanka/mlt_roadmap/comm/com02-03/mat04-2.pdf

 「L-CNGスタンド」は、LNGを「低温液体ポンプ」でLNGを高圧(25MPa)に圧縮し、「高圧LNG気化器」で高圧状態
(25MPa)のLNGを気化して「高圧タンク(25MPa)」にCNGとして一旦貯蔵し、「CNGディスペンサー」がらDDF大型トラ
ックにCNG(圧縮天然ガス)を補給する設備である。前述の1MPa以下の天然ガスを25MPaまでに電動モーター駆動
のガス圧縮機にガス圧縮される既存の天然ガス(CNG)スタンドと異なり、「L-CNGスタンド」では、LNGを低温液体
ポンプで液体を高圧に圧縮するため、圧縮動力はガス圧縮の場合と比較して圧縮エネルギー(モーター駆動の電力
費用)が10分の1ですむために天然ガス(CNG)スタンドのランニングコストを低減できることに加え、圧縮機が小型
で安価なために設備投資が削減できるメリットがある。 

 既存の天然ガス(CNG)スタンドでは高価な都市ガスが高いランニングコストの設備でCNGが供給されているた
め、既存の天然ガス(CNG)スタンドで補給する天然ガス(CNG)は比較的高価とならざるを得ない。しかし、「ローリ
ー=サテライト供給」システムと自社の天然ガス(CNG)スタンドの体制は、安価なLNGを原料とする上に、安価な設
備投資で低いランニングコストの自社の「L-CNGスタンド」で天然ガス(CNG)がトラックに補給できることなる。自社
のトラックターミナル等で多数のDDF大型トラックを運行させることができるような大手運送業者の場合には、「ロー
リー=サテライト供給」システムとこれに対応した自社の天然ガススタンドを設置して天然ガスを補給する体制を構
築することにより、DDF大型トラックの運行コストを大きく削減することが可能となる。一方、中小の運送業者の場合
には、数社が合同で「ローリー=サテライト供給」システムの天然ガス(CNG)スタンドを運営すれば、同様の経済的
メリットを享受することが可能となる。 

 以上のように、日本全国のLNG受入基地からLNGタンクローリー、LNGタンクコンテナ鉄道輸送やLNGバルク輸送
などのLNG輸送方法を用いた「ローリー=サテライト供給」システムと自社の天然ガス(CNG)スタンドを設置すること
によって、低価格の天然ガス(CNG)が利用できるDDF大型トラックの全国的な運行が可能となる。現状の軽油と
LNGとの価格差のメリット、脱石油の重要性およびCO2削減の効果を考えるならば、「ローリー=サテライト供給」+
「L-CNGスタンド」を組み合わせた天然ガス(CNG)燃料供給システムを備えたDDF大型トラックによるトラック貨物輸
送の構想を官民が一体となって早急に実現すべきであろう。

6.低価格の天然ガスが併用できるDDF大型トラックは、運送業者の経営改善に有効

 現在、我が国では京都議定書の関係で政府・自治体から国内の製造メーカー、販売会社の如何を問わず、ほと
んどの事業所に対してCO2削減の指導が行われている。各企業では自社内でのCO2削減には限度があるため、
荷主の各企業から運送会社に対し、貨物輸送でのCO2削減が強く要望されているとのこと。そうしたことから、運
送会社内でもCO2低減のニーズは高まっているようであるが、トラック輸送自体でのCO2削減は使用するトラックの
仕様に依存しているため、個々の運送会社内ではCO2削減に有効な手段が見い出せないのが現状だ。そこでデュ
アル運転モードが可能な天然ガス併用のDDF大型トラックを導入した場合には,前述の通り大型トラックの分野に
おいてCO2を15%削減することが容易に可能となる。これは、運送会社にとってCO2削減は望ましいことである
が、荷主獲得の戦力とはなるが、直接的な運行経費の削減には寄与しない。ところが、燃料に天然ガスを併用する
ことによって運行コストの削減できる可能性が極めて高い。その理由は、前述のような「ローリー=サテライト供給」
と呼ばれる方法で電力会社系やガス会社系のLNG(液化天然ガス)販売会社からLNGタンクローリーでLNGを購入
し、自社のする場合には、LNGの低価格での購入が可能である。このLNGを自社の「L-CNGスタンド」でDDF大型
トラックに天然ガス(CNG)燃料として補給することによって低価格の天然ガスでDDF大型トラックを運行することが
できるためである。 

 一方、軽油は大規模な設備の製油所で多量のエネルギーを投入して原油を精製し、それを更に脱硫して製造さ
れるものである。これに対してLNGは、LNGの状態で輸入され、それをそのまま運送会社が購入することになる。L
NG輸入会社はLNGの貯蔵と輸送の経費に利益を加算した価格でLNGを販売できるために、輸入されたLNGに
は軽油が製造される際に必要となる精製・脱硫の設備と経費が加算されることは無い。したがって、運送会社がLN
Gを購入する場合は、一般的にはLNGの輸入価格に販売経費と利益が加算された販売価格となるため、今後とも
LNGは軽油よりも安価に購入できることは間違いないと考えられる。したがって、運送会社がDDF大型トラックを運
行する場合は一定割合の燃料に軽油よりも安価なLNGを安定して使用できることになり、運送会社の経営改善に
大きく貢献できると考えられる。

 ところで、前述の通り現在では原油の生産が需要の伸びを満たせなく、頭打ちとなる「石油ピーク」の時代に突入
しているといわれている。そのため、2010年2月22日現在、世界的な不況の中にあるにもかかわらず、ニューヨーク
商業取引所(NYMEX)の原油先物相場は、米国産標準油種WTIの中心限月3月物は、1バレル=80ドル前後であ
る。今後、インドや中国の発展による石油消費の増加や世界景気が回復した場合には、あっけなく原油価格が現
状の1バレル=100ドル以下から1バレル=200ドル程度まで上昇するだろうと予想されている。そのような時代が到
来した場合、必要量の軽油の入手が困難となる状況になることも考えられ、大型トラックの運行に支障を来たすよう
なエネルギー危機が生じることも否定できな。このような事態の発生を事前に回避する最適な方法は、早い時期に
燃料に天然ガスと軽油が併用できる大型トラック、すなわちDDF運転とディーゼル運転とを互いに切り替えが可能
なデュアル運転モードの機能を持つDDF大型トラックを広く普及させておくことである。 

 特に、最近では天然ガスと同一成分(=メタンガスが主体)のシェールガスの採掘が可能な時代になり、その採掘
が世界各国で本格的に開始されたようだ。何しろ、シェールガスは、埋蔵量が従来の天然ガスの5倍以上はあると
推定され、ほとんどの国でこのシェールガスの産出が可能と言われている。残念なことに日本にはこうした岩盤がな
いそうだが、一方で世界各地から有余った天然ガスが供給されるようになるので、近い将来には日本でもこのシェ
ールガスがLNGとして輸入され、日本でも軽油よりも安価なLNG(=CNG・天然ガス)が大型トラック用の燃料に利用
できるものと予想される。勿論、その場合の大型トラックとしては、DDFエンジンを搭載した大型トラックであることは
言うまでもない。そのためにも、早い時期に燃料に天然ガスと軽油が併用できる大型トラック、すなわちDDF運転と
ディーゼル運転とを互いに切り替えが可能なデュアル運転モードの機能を持つDDF大型トラックを開発しておくこと
が重要であることは誰の目にも明らかだ。そして、当然のことながら、このような将来的な日本のエネルギー政策に
重大な関係を持つDDF大型トラックの開発は、政府(=国土交通省・環境省)が率先して早急に行うべきと考える
が、如何なものであろうか。これについては、政府(=国土交通省・環境省)は率先して強い指導力を発揮すること
が、切に望まれるところである。

 ところで、現在、デフレの時代であるにもかかわらず、排気ガス規制強化が予定されているため、トラックメーカー
は、今後の規制対応に巨額の研究開発費の負担を強いられており、経営が苦しいものとなっている。したがって新
しい技術であるDDF大型トラックの開発にトラックメーカーが新たな開発費を投入する余裕は無い状況だ。その上、
新たにDDF大型トラックを開発したとしても、将来、開発コストに見合う台数のDDF大型トラックを運送会社が導入
するかどうかは不明である。そのため、トラックメーカーとしてもDDF大型トラックの開発に着手する経営判断ができ
ないのが現状である。しかし、仮に多くの運送会社にDDF大型トラック購入の強い要望があることが判れば、トラッ
クメーカーの中には生き残りを賭けてDDF大型トラックを開発・商品化する経営判断を下し、DDF大型トラックを市
販する会社も現れる可能性が十分に考えられる。 

 一方、テレビなどでは運送会社の社長や経営管理の担当者が「軽油価格が高い」、「荷主からのCO2削減要求で
困った」、「荷主に運賃値上げを求めたら、逆に値下げを要求された」との愚痴をこぼしている様子が放送されてい
る。しかし、幾ら愚痴をこぼしても運送会社の収支が改善されることはない。無駄な愚痴をこぼす暇があるのなら、
早急に経営改善に繋がる行動を起こすべきではないだろうか。経営改善の手段として、筆者は運送会社にCO2削
減に有効で、且つ安価な天然ガスが併用できるDDF大型トラックの導入を強く提案したい。しかしながらDDF大型ト
ラックは、国内のトラックメーカーから未だ市販されていないため、これを運送会社が導入することは不可能であ
る。安価なLNGが併用できるDDF大型トラックが市販されるようにするためには、今後、運送会社からトラックメー
カー対し、DDF大型トラックの開発・実用化の強い要望が出されることが必要と考えている。そして出来る限り多く
の運送会社が団結して大きな声でトラックメーカーや政府にDDF大型トラックの早期実用化を要望していくことが必
要である。将来、仮にDDF大型トラックが市販された場合、運送業者がこれを導入することによって低価格の天然
ガスが併用できることに加え、CO2も大幅に削減することが可能となる。DDF大型トラックの導入によって運送会
社は多大な経済的メリットを享受できることや、荷主のCO2削減要望に応えることも可能となる。勿論、政府が掲げ
る運輸部門に脱石油の目標の達成に大きく貢献できることは言うまでもない。 

7.最近、ボルボはDDF大型トラックを発売

 スウェーデンのボルボ・トラックスは、2011年5月31日に長距離輸送向けに大型DDFトラック(写真1参照)を発売
出典:http://www.volvotrucks.com/trucks/global/en-gb/newsmedia/pressreleases/Pages/pressreleases.aspx?
pubid=10743した。その発表によると、エンジンは13リットル、最高出力は440HP(338kW)、最大トルクは2300Nm
である。天然ガス(LNG)の利用率は75%であり、エンジンの熱効率は、スパークプラグ式天然ガスエンジンに比べ
て、30〜40%高く、CO2排出量はディーゼルトラックに比べて10%削減することができるとのこと。また、筆者がこ
れまで説明してきたように、走行中に天然ガス(LNG)を使い果たした場合には、軽油のみで走行することも可能で
ある。2011年には100台程度をオランダ、イギリス、スウェーデンで販売する予定で、8月から生産が開始されるとの
ことだ。今後、2年程度で、欧州の6〜8カ国で年間400台程度の販売が予定されているようだ。

写真1 ボルボ・トラックスの大型DDFトラクタ

 因みに、ボルボ・トラックスが市販する大型DDFトラックは、天然ガスを給気管内に噴射する方式のDDFエンジン
である。このボルボ・トラックスの大型DDFトラックと同じ給気管内噴射式のDDFエンジンを搭載したトラックのエン
ジン性能と排出ガス試験結果については、筆者は、2000年5月の自動車技術会の講演会で論文を発表した。その
論文は、自動車技術会学術講演会前刷集No.71-00(2000年5月) 「323 中型トラック用ECOS-DDF 天然
ガスエンジンの開発 」(20005001) である。このように、筆者は10年以上も前から、DDFトラックの有用性を訴
えてきた。そして、2008年12月9日にDDFトラックのこのページを追加し、大型DDFトラックの早期実用化の必要性を
アピールしてきたつもりだ。しかしながら、これまで、日本の学者・専門家やトラックメーカからは筆者が推奨する大
型DDFトラックを冷たく無視されてきたのである。

 その一方で、日本の学者・専門家は、これまで軽油ディーゼルよりも天然ガスエネルギー資源を30%も多く浪費す
る「スパークプラグ式天然ガスエンジンを搭載したトラック」や「天然ガスから合成されるDMEを燃料とするDMEトラ
ック」を熱心の推奨されてきたのである。このように、「スパークプラグ式天然ガスエンジンを搭載したトラック」や「天
然ガスから合成されるDMEを燃料とするDMEトラック」のWell-to-Wheelの熱効率は、「軽油ディーゼルトラック」や
「DDFトラック」よりも30%程度も熱効率の劣る特性があることは周知の事実である。筆者のホームページ天然ガス
から合成のDMEとGTLは、トラック用燃料に不適DDF運転とディーゼル運転の選択が可能なDDF大型トラック
もそのことを詳述している。また、前述のボルボのホームページにおいても、スパークプラグ式天然ガスエンジンを
搭載したトラックは、同じ天然ガスを燃料としているDDFエンジン搭載のトラックよりも30%以上も熱効率が劣ること
が記載されている。

 このように、「スパークプラグ式天然ガスエンジンの大型トラック」や「DMEトラック」のWell-to-Wheelの熱効率が
「軽油ディーゼルトラック」や「DDFトラック」よりも30%程度も劣っているにもかかわらず、日本の一部の学者・専門
家は、軽油よりもエネルギー効率が30%も劣るDMEを推奨する機械学会の疑問のページで説明しているように、
「スパークプラグ式天然ガスエンジンの大型トラック」や「DMEトラック」が将来の「脱石油」を実現する先進的なトラ
ックとして賞賛し、これまで盛んに推奨していたのである。

 ところが、ボルボは、2011年5月31日にトラックメーカとしては世界で始めて長距離輸送向けの大型DDFトラックの
発売を発表し、8月から大型DDFトラックの市販を開始したのだ。このことは、DDFトラックを使用して貨物輸送を行
った場合には、「スパークプラグ式天然ガスエンジンの大型トラック」や「DMEトラック」を使用して貨物輸送を行った
場合に比較して、天然ガスのエネルギー資源を30%程度も有効に利用できることがボルボによって現実化されたの
である。そして、DDFトラックよりWell-to-Wheelの熱効率が30%程度も劣る「スパークプラグ式天然ガスエンジンの
大型トラック」や「DMEトラック」を推奨することは、「脱石油」の観点からも遇の骨頂であることを、多くの人に知らし
めることになったのである。

 このボルボの大型DDFトラックの発売情報を知った日本のディーゼル関係の学者・専門家は、既にさぞかし驚か
れたのではないだろうか。これによって、日本の学者・専門家は、大型DDFトラックを無視する心の拠りどころを失
い、戸惑いを感じているのではないかと推察される。「スパークプラグ式天然ガスエンジンの大型トラック」や「DME
トラック」を熱心に推奨している学者・専門家は、ボルボが天然ガスを燃料とするDDFトラックの市販を開始したこと
によって、数年前の金融危機のリーマンショックならぬ「ボルボ ショック」とも呼べそうな衝撃を受けたものと推察さ
れる。果たして、日本のディーゼル関係の学者・専門家やトラックメーカは、これからも頑なにDDFトラックを無視し
続ける方針を固持されるのであろうか。それとも、これまでのDDFトラックを黙殺する方針を大転換し、以前のこと
を完全に忘れ去ったかのように、何食わぬ顔で積極的にDDFトラックを賞賛し始めるのであろうか。

 もっとも、これまで天然ガスエネルギー資源を浪費する「スパークプラグ式天然ガスエンジンを搭載したトラック」や
「天然ガスから合成されるDMEを燃料とするDMEトラック」を熱心の推奨されてきた学者・専門家と云えども、常識
のある人達であれば、天然ガスエネルギー資源を有効に活用できる大型DDFトラックの市販が開始された現在で
は、これまでのように「スパークプラグ式天然ガスエンジンのトラック」や「DMEトラック」を開発促進を訴える学者・
専門家は、これからは音沙汰も無くひっそりと姿を消して行くのではないかと、筆者には思えるが、如何なものであ
ろうか。

 また、スウェーデンのボルボ・トラックスが長距離輸送向けの大型DDFトラックを発売したことから、昔から欧米技
術を崇拝して止まない日本の学者・専門家は、即刻、大型DDFトラックの信奉者に宗旨替えする可能性が考えられ
る。それは、日本人には、「バスに乗り遅れるな!」と直ぐに脅迫観念に捉われ易い人が多いように思われるから
だ。また、技術内容の優劣を自らの思考によって合理性を追求して判断するのではなく、付和雷同して意見の主張
をするような学者・専門家が数多く存在することも、その原因と思えるためだ。

 そのため、近い将来、日本のディーゼル関係の学者・専門家やトラックメーカは、「積極的に大型DDFトラックを賞
賛し始める」ことに、大きく舵を切る可能性もありそうだ。もっとも、その場合の言い草として、「DDFエンジンの有用
性は昔から十分に承知していたが、これまではその特性が生かされる時代ではかった。しかし、最近ではCO2削
減と脱石油が重要視されるようになったので、DDF大型トラックの特性を十二分に発揮できる時代が到来した」と
白々しく主張を始めるように思えるのである。万が一でも、仮にそうなれば、わが国の大型トラックの分野において、
大型DDFトラックによる「CO2削減」と「脱石油」が推進されることになり、大いに好ましいことではないかと思ってい
る。
 ところで、ボルボは、トラックメーカとしては世界で始めて大型DDFトラックの市販を開始したが、残念なことに、こ
のボルボの大型DDFトラック・トラクタに搭載されたエンジンは、旧式の技術とも云える吸気管内噴射式のDDFエン
ジンである。一方、この旧式の吸気管内噴射式DDFエンジンの性能を更に向上できる新しい技術が既に世の中に
存在しており、それが天然ガスをシリンダ内に直接噴射する直噴式DDFエンジンである。この直噴式DDFエンジン
は、吸気管内噴射式DDFエンジンに比べ、DDFエンジンにとって重要な要素である「排出ガス性能の向上」や「天
然ガス(LNG、CNG)の使用割合を向上」できることが特徴である。

 したがって、仮に、日本で大型DDFトラックが開発されるのであれば、ボルボの吸気管内噴射式のDDFエ
ンジンを搭載した大型DDFトラックよりも優れた性能を持つ直噴式DDFエンジンを搭載した大型DDFトラッ
ク・トラクタを是非とも早期に実用化して欲しいところだ。そして、この大型DDFトラック・トラクタには、筆者が提
案する直噴式DDFエンジン(特許公開2008-51121)の技術を採用して欲しいものだ。その場合には、大型DDFトラッ
ク・トラクタは、直噴式DDFエンジンを搭載しているにもかかわらず、「ディーゼル走行」と「DDF走行」との任意の走
行モードを選択して運行できるようになるのである。 何はともあれ、わが国のディーゼル関係の学者・専門家やトラ
ックメーカの大いなる健闘が期待されるところである。

 上記本文中で誤り等がございましたら、メール等にてご指摘下さいませ。また、疑問点、ご質問、御感想等、どの
ような事柄でも結構です。閑居人宛てにメールをお送りいただければ、出来る範囲で対応させていただきます。 

メール


戻る
戻る



直噴式DDFエンジン(特許公開2008-51121)
直噴式DDFエンジン(特許公開2008-51121)